蚕糸の森公園

そして彼は歩いていった
コイン・ランドリーから 
幹線沿いの道を
慕わしい友に会いにゆくように

拳はポケットの中 
欠伸は舌の根の奥
二月の風は冷たいが
彼を病ませるには不十分だ

高架橋の下をくぐって
横断歩道をふたつ 渡ったら
出し抜けにそれはある
滝と小池のあるささやかな公園が

子どもたちが
カルガモに雪を投げている
滝の裏を探検し 裸の脛を泥まみれにする
池へと注ぐ川の流れに つまさきをひたす

冬の日は暮れてゆく なす術もなく 
近くの学校で 
誰かがボールを蹴る 公園の行き止まりで 
彼は立ち止まる

一本の木に 規制線が張られていた
見上げると折れた高枝が
力なくぶら下がり 風にゆれていた
この間の大雪にやられたのだ

彼はこの公園で
幾年も昔 女に向けて詩を書いていた
そのころ親しかった人たちで
いまでも親しい人はいない

人生は誤謬だと誰かが言った
彼の人生も きっとそうなのだろう
子どもたちが駆けていく 
明日を追いかけて 残雪には目もくれずに

カルガモは池の端に集まり
じっと寒さに耐えている
肩を寄せ合う人もなく
彼は歩き出す 

幹線沿いの道を
コイン・ランドリーのある方へ
彼は満ち足りた顔で進んでいく
明日も生きねばならぬ

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