灼熱

「火傷寸前で数字取りに行くか、保険かけて失注するか、何があっても自分で考え抜いてケツ拭くのが俺らの仕事や」そんなことを言われた気がするがなにしろ朦朧としていたので記憶が定かではない。

ここ2週間ほど風邪っぽく、そろそろおしまいなのかしらと思っていたら昨日ようやく花粉症ですねという診断を受けた。薬をのんだが依然として頭の回転が悪く、見積もりきてるけどとりあえずな感じで出しときましょかねと思いながら金曜の夕方をやり過ごそうとしていたところを上司に捕獲され、3時間以上みっちりとしごかれた。

福岡に来て3ヶ月が経った。いよいよ本番が始まるなという予感をひしひしと感じる。最初の面談を受けたが正直まだまだだね、君はこれから学ぶことが山ほどある、というまぁ妥当にも脳がくらくらする話だった。そのあとに先述のしごきを受けたのだが、転勤前の営業所にいた頃とは違い本社はここまで徹底的に考えて数字を追っていくのか、というのに面食らいゾッとするほどで、軽く心が折れそうになった。しかし最後に「しんどいだろ? でも今やってることを乗り切ったら、君はウチだけじゃなくてどこに行っても通用する人間になれる。だからいまから1年は辛抱してみろ」という旨の月並みなことを言われ、ベタなりにすこしだけ炎を抱いた。ただもう今日はしんどいので、月曜の朝にもう一回見直してから提出しよう、と話したのが3時間前のこと。

俺は明日、最愛の人に会うため飛行機に乗る。
自分はもう終わっている、これからは一人で、仕事と絵のためだけに生きていこうと決めた頃にその人は久々に現れて、2回目の電話で俺のすべてを奪った。向こうも同じ気持ちだった。自分は6年前の馬鹿げた(俺のせいの)失恋のおかげで人間不信を発症しており、結婚だとか言われても最初は信じられなかった。愛していると言われるほどに不安が募り、自分の心にそびえ立つ壁に閉じこもろうとした。それなのに彼女はニコニコとついてきて、これ以上来るなと言ってもえへへと笑っている。いよいよ扉に入り鍵を締めて追い出したのに、窓から様子をうかがったところずっと笑って待っている。仕方ないので鍵を開けると「おかえり! 今日はなにたべる?」などと言いながらまた俺の心の奥に進んでいく。そんなことを繰り返しているうちにいよいよ諦めて、側にいてくれることを受け入れるようになった。窓から待ってる様子を見たとき、本当はうつむいて寂しそうにしていたのも知っている。馬鹿じゃないのか、俺なんかのために、こっちは鬱で発達障害で情緒不安定で女々しいのに、「それも含めて全部好きになっちゃたよ!」って天使が言うことなんだよそれは。彼女は真面目でリアリストなのに、俺にはない底抜けの明るさと前向きさがあって、それが俺を見事に補っている。俺も彼女を支えているらしいのだが、こんな自分に何が出来ているのかいったいわからない。でもそれは同じ気持ちらしい。少しでも力になりたくて、明太クリームうどんを作ったらすごく喜んでくれた。なぜ人は自分が持っているものが見えないんだろう。

きっと俺はこの人と来年、結婚する。
それに向けていよいよ後戻りできないほどに話が進んでいる。仕事も来年、どれだけ俺が成長できるかが正念場だ。2022年は俺が灼熱になる年だ。今まで生きてきて、こんなに重要な年はなかった。何事もない日なんてなくて毎日が不安と期待にまみれているが、それこそ俺が生きている証明なのだろう。少しでも力がほしくて、ビーレジェンドの「激うまチョコ味」を飲みながら、いま 22:50 になった。

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