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「フランスという坩堝 一九世紀から二〇世紀の移民史」 ジェラール・ノワリエル

大中一彌・川﨑亜紀子・太田悠介 訳  叢書・ウニベルシタス  法政大学出版局

読みかけの棚から
読みかけポイント:序論だけ?

はじめに
序論
第1章 記憶の場ならざるもの
第2章 カードと法典
第3章 根こぎにされた人びと
第4章 「フランスよ、おまえは私の根を傷つけた」
第5章 三つの危機
第6章 フランスの再構築
結論 フランス革命二百周年祭にあたっての小論
訳者あとがき
統計に関する補遺
増補した文献
史料と文献
索引

序論

  (アメリカとフランスで)対照的な統計方法を作り出すことが、社会や、その社会の歴史および「アイデンティティ」に対するまなざしを変えてしまうということ
(p24)


アメリカの民族・移民に関する統計が充実し(ということは、それに対する様々な問題意識があり)、著者によれば同程度に「移民の国」であるフランスは、流入より流出が多かった時代にフランスという国の統一性を形成してしまったために、流入の移民を見えなくしてしまっている。という。
アメリカニューヨーク沖合のエリス島が、移民受入口となって今では記念館?も建てられているのと対照的に、フランスのアルザスにあるそのような施設は記念碑もなく取り壊されてしまった、と著者は述べているが、これは国立移民史博物館の設立に尽力しつつ、2007年の「移民およびナショナル・アイデンティティ省」の設立に抗議して博物館の役職を辞任した著者にとって、かなり重要視されるべきことなのだろう(この辞任に関して「ナショナル・アイデンティティは何の役に立つのか?」という著書がある)。

  デュルケームの社会学が、「同時代のフランスにおいて同化ユダヤ人であるための作法についての省察」としても読みうるものであるならば、デュルケームの業績は、出身集団への忠実さや「外国人」につきものの周縁性、等々の根本的な問題をよりはっきりと提示した、ゲオルグ・ジンメルやルイス・ワースのようなドイツのユダヤ人出自の知識人たちの関心から、おそらくは見かけほど遠くかけはなれてはいないのである。
(p30)


アメリカシカゴ学派の移民研究に比べ、デュルケームとその後継者たちは移民の要素を重視しない。デュルケームは「社会分業論」において、近代社会では、出自などの血縁や地縁から、複雑化する社会の分業へ組み込まれ、その社会の一員となる、という。この傾向はアルバックスやモースにも見られる。が、この時代はドレフュス事件等、移民、外国人問題が顕著化してきた時期。
この社会分業論の考え方が現在でも重要な示唆を与えるということにまた本書で立ち返る、と書いてあるので気になる。
この後、起源派と同化派の見方が、揺れ動きながら、どちらも移民研究と移民の政策に影響を与えてきた。どちらも移民にとって双方向の影響を持つ。
(2020  02/03)

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