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「ブルターニュへの旅 フランス文化の基層を求めて」 田辺保

朝日選書  朝日新聞社

シモーヌ・ヴェイユの翻訳者でもある田辺氏の「失われた楽園」探しの探しの旅。
アラン・フールニエの町、フランス中央部から始まって、ブルターニュ半島のほぼ南半分を巡る旅。

ブルターニュ史ざっと

ブルターニュ国最後の女王、アンヌ・ド・ブルターニュがフランス王シャルルと結婚しブルターニュ国が消滅するのは1492年。隣国ではイスラム勢力が追放され、新大陸「発見」、スペイン語辞典編集などの大事件が起きていた年。最後の戦いに際し国中をまわったアンヌ(この時10代)への忠誠心は強い。それにキリストの聖母マリアの母アンヌへの信仰が加わる。これに海の生活(ピエール・ロチ「氷島の漁夫」)や王家への信頼(ヴァンデの乱)を合わせたものがブルターニュなのかな?

紀元後少しくらいまでケルトやヴェネト族(アドリア海へ渡った種族と同じ系列だという。アドリア海の種族はヴェネチアに名を残す))の影響下にあり、ローマに征服された後、こんどはブリテン島からブリテン族がやってきてまたケルトの伝統が色濃くなる。英語ではイギリスの「ブリテン」と「ブルターニュ」は違う呼び名だが、フランス語の場合は同じらしい。
(2010 06/06)

「ブルターニュへの旅」は死者の都への旅


今日読んだ後半部では「アーサー王」「トリスタンとイズー」「イスの都」と中世伝説を巡る。

 根源よりさそうエロスの暴力は、ついに人を死にまでも導くおそろしさをたたえているということか。この圧倒的な力は、「媚薬」という外在的な原因を設定しないかぎり、自然的要因ではとても説明しきれぬ暴威をふるうということなのか。
(p195)


フロイトの「イド」と「イズー」ってなにか似てる。音とともに・・・
「媚薬」が生物として例外的な人間の発情・恋愛の説明になっているというのが面白いですね。物語に接する最初は逆向きなんだけど、しかし。

 沈んだ町は、彼方の世界。此岸の人間が親しく関心を寄せ、言葉をかけて呪縛をといてやらなければ、よみがえることはない。消え失せた過去の幻も、水の底に沈んだ死者たちも、すぐ身近に眠っているのだ。
(p214)


「沈んだ町イス」のところ。「アーサー王伝説」でも「漁夫王」のところで似たような話が出てきた。死者の町に行って、戻ってきた人、来なかった人、ブッツァーティの短篇や浦島太郎なども含めてそういうのって一つの神話(物語)の原型なのだろう。
「イス」はラロの歌劇にもドヴュッシーの「沈める寺」にもインスピレーションを与えた。
そして、ブルターニュには「イスの都が沈んでのち、パリに並ぶ都なし、パリが沈む時、イスはまたよみがえる」という詩があるという。パリ(パリス)はパー(比べるという意味)イス、だという。昔はルテティアだからね。パリは。・・・そうして、よみがえったのは?ニューヨーク?東京?(パリが沈んだとすれば・・・)
(2010 06/07)

アンクゥという死の使者の話を最後の方で読む。ところが、使者自身よりも、彼の迎えを待つ為に準備万端整えていた男の方に驚く。死者はラ岬の先の島にいるのか?
(2010 06/08)

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