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「東方のドイツ人たちー二つの世紀を生きたドイツ人たちの証言集」 平野洋

現代書館

著者はライプチヒに留学経験のある東ドイツについての著作もある人。

ウクライナとゲットー化と人治


「東方のドイツ人たち」から。
いろいろ生々しい話があって、面白いというよりぞっとするのだけど、その中から2つ。第二次世界大戦中の東ポーランド(現ウクライナ)では、長年のポーランド人の過酷な支配のうさをはらそうとして、一時はナチスと手を組んだUPAという民族組織がポーランド人を虐殺したという。ポーランド大統領が記念追悼式典にウクライナから招かれた時(2003年)、ウクライナでは多くの抗議集会が開かれたという。

ロシア系ドイツ人女性と、サハリンから強制?移住させられた日本人男性がカザフスタンで結婚した話では、特に今はドイツに住む娘さん一家のところが興味深い。今はドイツでロシア語の衛星放送が簡単に見られる。で、友達も同じロシア系ドイツ人だけだとすると娘さんの次の世代はドイツにいながらドイツ人なのにドイツ語があまり話せなくなってゲットー化する。こういう情報化によるゲットー化というのが各地で進展しているのでは、と指摘している。

後はさっき「強制?移住」と書いたけど、ソ連みたいな社会主義国では「人治」(この言葉初めて聞いたけど)によるその役人の気分や人柄によって処置が異なることがあったみたい。そんな感じだからこの人の場合も、カザフスタンに着いてから現地では誰もそのことを知らず、苦労した…というか適当に回されたという。案外にいろいろなのね。
(2015 12/25)

「東方のドイツ人たち」読了報告


こういうルポルタージュものは読むのは早いけれど、いろいろな声が頭の中を飛び交って、疲れる…
そんな中から一つ。

 EUの存在理由の一つは、過激化した民族主義の牙を抜き取ることにある。バスク人たちは国を飛び越えて、「バスク系ヨーロッパ人」になれるのだ。…(中略)…欧州生まれの非欧州人をヨーロッパ人と認知することに躊躇する人は少なくない。しかし、これでやっていくしかないことをEU市民は了解している。
(p221)


本当に「了解している」のか、或いは過激化した民族主義を止揚する範囲がヨーロッパ(トルコやロシアはどうする?)とかアジアとかのレベルでよいのか、とか疑問はいろいろ残るけど、傾聴に値する議論だと思う。
あと、第3章の後半にはやや右派的な団体の人々のインタビューがされていたけど、彼らにしても単なる外国移民排斥運動は意味がない。純血のドイツ人なんていない。と語っている。まあ、暴動起こす人々とはまた違うのだろうけど。
(2015 12/26)

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