世界でいちばん愛してる
犬がしんでしまった。
世界で1番いとおしい犬。
やわらかくあたたかい、心地のいい温度と拍動で満ちていた毛玉。
いつだって、私の手の中にあった。
いつだって抱き締めれば、こちらをフッと見上げて。
現実に向き合えなくなって毛皮に顔を埋めると、まるでこちらの悩みなんて興味もないような顔をして寝ていた。
お散歩しながら、カチャカチャって。
鑑札がなる音も好きだった。
チョコチョコと弾むように歩いて。
こちらがちゃんと着いてきているか、何度も振り返って。
目が合えば二パッと笑った。
わたしの世界で1番いとおしい犬。
君を連れていったという焼き場。
人のものよりも幾分か小さいその狭い部屋は、今しがたまで焼かれていたかのような暑さに満ちていて。
確かな死のにおいがした。
君が嗅いだらきっと、グシュッと鼻を鳴らすだろうな。
小さな石の前で手を合わせたけど。
こんなところに君がいるなんて信じたくなかった。
信じられなかった。
今もまだ目を閉じれば。
君が近づいてくる時の、フローリングを歩くチャッチャッって音が聞こえる気がする。
ハッハッって息遣いも。
私の膝に顎を乗せた時のやわらかさも。
沁みてくるような温度も。
チミチミと私の手からおやつを食べていた時のにおいも。
次に帰省した時にあげようと思っていた骨の形のチーズ。
玄関の1番わかりやすいところに飾っていたけど、視界に入る度に悲しくなるから。
もう胃の中にしまってしまった。
君が食べるはずだったものを食べたら、少しだけ君に近づけた気がした。
いつまでも愛しているよ。
わたしのかわいい犬。
世界で1番いとおしい犬。
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