「もうひとつの身体」を巡る対話③
10/1(金)、10/3(日)、10/8(金)に予定している上映会のタイトル「もうひとつの身体」は、2020年6月に舞踏家の最上和子と映像作家の飯田将茂との間で、踊りと映像の関係について交わされた一連のメールの中で初めて登場しました。
この記事ではその時のメールをそのまま掲載し、「もうひとつの身体」というキーワードがいかにして生まれたのかを追いかけます。
最上からの問いかけと、それに対する飯田の応答を1回分の記事とし、全5回に渡ってお届けします。
最上和子 to 飯田将茂
2020年6月12日 10:14
飯田さん
飯田さんの前回のメールは大事なことがたくさん書かれているような気がします。
踊り手というのは自分が何をしているのか、全部わかっているわけではないのです。
踊っている者にしかわからないものもあると同時に。
他者や道具を媒介にすることでわかることもあるのだと気がつきました。
流さん写真にも時折それを感じます。
流さんも、自分で撮影しているものが何なのか、よくわからないみたいなことを言ってましたが。
飯田さんが言っている「ズレ」というのが重要な気がしました。
踊り手にはこのズレがないので、案外見えていないものがあるような気がします。
認識というのは人や道具や時間や場所を媒介にして、わずかづつズレていくもので、
ズレないと停止してしまうのかも・・
踊りに限らず人のすることはなんでも停止しないで動くことで見えるものがある。
踊る者と撮る者、そのズレが新しい世界を開くのかもしれませんね。
これは私にとって新鮮な発見でした。
踊りを撮影するということをどう捉えたらいいのか、今までずっとわからなかったので。
ただその場合やはり、踊り手と撮影者の内部が欠かせないだろうと思います。
内部同士って出会いながらズレながら溶け合い流動し形を作るもので、何がおこるのかはあらかじめはわからない。
コロナ問題で先がみえないけど、時が来たら撮影ぜひやりましょう。
金さんアンリさんも喜ぶと思います。
近藤さんに加わってもらうのも面白そうです。
最上
*******
飯田将茂 to 最上和子
2020年6月18日 13:03
最上さん
改めて「花鳥風月」を観たのですが、ひとつ気づいたことがありました。
それはカメラが常に動いていることです。そして舞台全体を映すような引いた視点がほとんどない。
またバックが暗闇なので、ドーム映像同様に三次元的な空間が引っ込んで浮遊しているように見えるんですよね。
定点による安定した構図がもっともニュートラルに踊りそのものの動きを捉えるかに思われがちですが、そもそも安定って何だろうと考えてしまいます。
ナマの鑑賞でも安定が基準になっているわけではないと思うし。たとえ座席に座っていたとしても我々の知覚は全くもって不安定で動的です。
そのナマの状況を模倣するのが決して正解ではない中で、ナマとは別の身体を創造していくのが映像の役目なのかなと思います。
このあたりはドーム映像として取り組むより、フレームで勝負したいなと改めて思わせるところです。
ズレが世界を開く、という言葉にはとても勇気づけられます!
たしかにズレないと世界そのものが停止してしまいそうです。
あらゆる表現が完全性の模倣としてではなく、いろんなレベルのズレの中で生成されているのでは、と思えてきました。
とくに映像なんて、絵画や彫刻に嫉妬する僕にとっては不完全性の象徴のような媒体ですから。
ズレ自体は日常にありふれているけれども、内部のレベルで捉えられた時には真にコラボレーションの可能性がありそうです。
HIRUKOの最上さんソロ撮影時に、だれかに「飯田さんも踊ってるようでした」というようなことを言われたのを覚えています。
これは踊りにおけるデュオとも違うし、立場として決定的にズレた状態から、内部において何かしらの接近があったのかもなあと今なら思えます。
そうすると当然ながら撮影者の身体というのも一朝一夕にはいかないものですね。
映像はまさにズレの媒体ですし、撮影者においてはこのズレ自体に自覚的になることがとても重要だなと思いました。
流さんの写真家としての在り方に改めて痺れます。
流さんの場合、媒体を通したズレを受け皿に尋常でない敬意や信仰のようなものを注ぎ込んでいるように見えます。
人形を必ず「お人形」と言ったり。無音のシャッターを絶対に選択しなかったり。
シャッターを切る行為に原罪すら感じていそうな、それ抜きに成立しえない儀式性があるというか。
「自分で撮影しているものがわからない」というのは行為そのものが写真になってるということもあるのかなと思いました。
撮影者は絵を描いたり彫刻を作ったりするのとは違った存在で、姿勢、視点、内部の動きがダイレクトに問われる存在なのかもしれません。
う~ん、流さんとも飲みたい!
飯田
「もうひとつの身体」を巡る対話④へつづく
※※メール交換の中で盛んに言及されている「花鳥風月」という動画はこちらからご覧いただけます。
田中流(写真家)ツイッターアカウント
ギャラクシティ主催 アーティスト支援プログラム
「もうひとつの身体」
ドーム映像作品『HIRUKO』『double』上映会+トークショー
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
プラネタリウムの静謐な暗闇の中で、最上和子を主演とした舞踏による儀礼空間へと誘う新しい映像体験です。
ギャラクシティにてご予約受付中 イベント詳細
【電話】03-5242-8161 ※9:00 - 20:00(休館日除く)
公式ページ 公式ツイッター
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?