西尾維新「なこと写本」

西尾維新の小説シリーズ「なこと写本」のまとめ。

「なこと写本」は2004年から2020年にかけて計6作が発表された西尾維新の小説シリーズ。
いずれの作品も「なこと」という名前の人物（作品ごとに別人）が、ある時出会った相手と本に関する話をするというもの。
シリーズ名や各作品名、なことの話し相手の名前はクトゥルフ神話に登場する書物から取られていると見られ、「なこと写本」は「ナコト写本」が由来と思われる。

シリーズが掲載された媒体は共通性がなく、中には入手困難なものもあるが、『ファウスト』Vol.7（2008年）掲載のインタビュー（360頁）によれば、西尾は全員が読めない小説を書くのが好きではないとのことで、『読めた人はそこそこ嬉しいかもしれないし、遠くの人は間違いなく「まあいいんじゃない」ってことになる』という「なこと写本シリーズ」を書くに至ったという。

「なこと写本」というシリーズ名は西尾の著作『ザレゴトディクショナル』（2006年）の143頁で言及されている。この時点でシリーズは2作しか発表されておらず、以後の4作も同じシリーズに含むかは明言されていないが、前述の名称の法則性からか、『All Over クトゥルー クトゥルー神話作品大全』（2018年）では、当時発表されていた5作目まで同じシリーズとして扱っている（247頁）。この記事で扱っている作品も、「恐らくシリーズに含むだろう」と推測して扱っているもので、本当に同じシリーズかは定かではない。

「なこと写本」は2023年8月現在単行本化されていない。『ザレゴトディクショナル』では、「単行本になるのはかなり先のことだろうから（ならないかもしれない）」（36頁）、「一冊にまとまる。予定。だったらいいのにな。」（143頁）と言及されている。
文字数は、西尾の著作で単行本化されている『人類最強のsweetheart』と同じくらいかそれを超えると思われるので（第4・6作を所有していないため推測）、頁数が足りなくて単行本化できないということはないと思われる。

「させられ現象」

第1作。青土社『ユリイカ』2004年9月増刊号掲載。イラスト：山口晃。

中学生「両島なこと」は、書店で陳列されている本を次々に床へ投げ出している高校生「鳩井かるま」に出会い、このようなことをしている理由を聞き出そうとする。

作品名は「セラエノ断章」、相手の名前は「カルナマゴスの遺言」からと思われる。

「ある果実」

第2作。宝島社『西尾維新クロニクル』（2006年）掲載。イラスト：日本橋ヨヲコ。

中学生「海鳥なこと」が電車で本を読んでいると、その本を横から覗き込んでいる高校生「沢崎るい江」に出会う。自分と同じ本を読んでいることを理由に、るい江から「同じ種類の人間」扱いされたなことは、るい江から本に対する独自の考えを聞かされる。

西尾維新はイラスト担当の日本橋ヨヲコを自身の原点の1人であるとし、イラストを担当してもらえたことを喜ぶコメントを残している（『ザレゴトディクショナル』35 - 36頁）。

作品名は「アル・アジフ」、相手の名前は「ルルイエ異本」からと思われる。

自分が「なこと写本」で一番好きな作品。

「栄光の仕様」

第3作。講談社「戯言シリーズコンプリートBOX」（2006年）に収録の豆本。

書店員「地這なこと」は、ある時書籍を刊行順と逆に買っていく少女がいることに気づく。既刊5巻なら第5巻から、全4巻なら第4巻から、上下巻なら下巻から。奇妙に思ったなことは、その少女「富山たあと」にこの買い方の理由を聞く。

作品名は「エイボンの書」、相手の名前は「水神クタアト」からと思われる。

「ヨウ素の皮肉」

第4作。講談社「KOBO CAFE限定特別小冊子」（2008年）掲載。

この小冊子、限定100部しかなく入手困難である。インターネット上にも情報がほとんどなく、幻の作品と言っても過言ではない。自分も持っていないため、作品内容は不明。

作品名は「妖蛆の秘密」からと思われる。

「〆に最初」

第5作。講談社『アニメ化物語オフィシャルガイドブック』（2009年）掲載。

「点描なこと」は小説のメディアミックスを押し出す風潮に反発してメディアミックスされていない小説を買おうとするが、出版社の営業「遠近きのう」がその行為に待ったをかけ、原作小説とアニメ化の関係について語る。

作品名は「無名祭祀書」、相手の名前は「グラーキの黙示録」からと思われる。

「とうとうの少々」

第6作。「新本格魔法少女りすか 完結記念 パーフェクトBOOK」（2020年）掲載。

前作から11年も経ってからの新作で、出たことを知る人も少ないのか、情報は少ない。自分も持っていない。

作品名は「トートの書」からと思われる。