食器をためれない
私は食器をためれない。
大学生の頃、お正月やすみには音楽サークルのメンバーで集まって新年会をしていた。私が音楽サークルに所属していた時代は、まわりは実家と不和を生じているやつらだらけで、誰も実家に帰りたがらなかった。
そのため毎年誰かの家で新年会をしていたのだが、たいていは私の友人だったTの部屋が選ばれた。防音で部屋が広く、こたつがあるからである。
メンバーは仲の良い5人か6人。
その年は、私、T、リザ、後輩のKくんとミヤニシくん、同輩のOくん、という6人で新年会を行った。
なにをするわけでもなく、みんなでこたつに入っておのおの好きなように飲んだり、楽器をいじったりしているだけなのであるが、みんなリラックスしていた。
ミヤニシくんとKくんはテルミンの技術的習熟のためのあれこれについて実機を交えながら議論を白熱させ、リザは安定剤とお酒のせいで、こたつで半分溶けたようになっている。
OくんとTはアコギで弾き語りをして盛り上がっている。
私はひとりで洗い物をしている。
リザが声をかけてくる。
「袋小路さぁ、そんなんあとにしてこたつ入りなよ。寒いじゃん」
「いや、これ洗ってからでいいよ」
「あんた、いつも思うんだけどさ、なんかそういうとこほんと神経質だよね。もてないよー。そういう男」
「うっせ。なんか落ち着かないんだよ」
そんな日々も今は遠く、34歳のフリーターになった私は、今でも食器をすぐに洗わないと落ち着かない。
うつ病にかかり、あれほど嫌いだった実家に帰ってきた。
体調は上下しながらも、なんとかうまくやれている。実家に帰ってきてから、驚くことに4年が経過した。
4年だ、4年。私は4年間。
34歳。ろくな資格もなく、ろくなことをしてこなかった。社会復帰。社会復帰。
もういなくなってしまった人達のことを思いながら、今日もひとり、泣きながら食器を洗う。
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