マガジンのカバー画像

ショートショート

125
ハッシュタグによる分類をご活用ください:ショートショート / 非ショートショート / 指定あり / 指定なし / アチーブメント
運営しているクリエイター

2023年12月の記事一覧

ショートショート|金は宇宙の回りもの

「おたくはどちらに?」と僕は隣に座っている男性の乗客に尋ねた。 「アウストラレ卓状台地までです。そこにビルを構える火星支社に出張でして」と彼はにこやかに答え、こう続けた。「わざわざ足を運ばなくても仮想空間で会議やらなんやらすればそれで済むと私は思っているんですが、上の連中はどうも頭が固くてね」  先述の通り表情は柔和だ――おそらくビジネスの世界に身を置くことで体得したのだろう――が、心の底からの吐露のようだった。初対面の僕に愚痴るのもどうかと思うが、だいぶ鬱憤が溜まっているよ

ショートショート|細い糸、弱い光、軽い存在

『存在の耐えられない軽さ』という小説をご存じですか? 著者はチェコ人のミラン・クンデラ。なんて正鵠を得たタイトルだろう。  ……と偉そうに紹介しておいて、僕自身、実はまだこの本のページを繰っていません。タイトルや評判に気圧されて、手がつけられていない小説が皆様の本棚にも存在する……なんてことはありませんか?  時間は余計にあるのに金が少ない。さて、金は有り余っているのに時間が足りないのとどっちがマシだろう? ……虚しい問いだ。僕はどうしようもなく前者だから。  でも今のとこ

140字小説|あたかも深海のようなコーヒー

 彼女は僕が淹れた温かいコーヒーを静かに飲み、「ありがとう、この深みが好きなの」とささやいた。  だから僕は深海へ。潜水調査船もかくやマリアナ海溝の底の底まで泳ぎ、水を汲んだ。  深呼吸。深煎りのモカでドリップ。さあ、この湯気が昇るコーヒーは彼女の心まで温め得るだろうか?

ショートショート|大いなる期待のレシピ

 大きなお鍋を用意します。そこに水を注ぎ、〈目覚まし時計を気にせず眠っていい安心感〉を入れます。  火にかけてください。焦げつかないようヘラで軽く混ぜながら、〈平日に学校や職場で日曜日になったらこれをやろうと考えていた計画〉を放り込みます。うっすら埃をかぶっている本の読破だったり、ジャングルの様相を呈している庭の草刈りだったり、お好きなもので構いません。多くの場合、計画とは異なりロクに投入できませんが、間に合わせの材料で構いません。  それから〈せっかくの日曜日が終わってしま