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ショートショート

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2023年5月の記事一覧

🎖️ ピリカグランプリ すまスパ賞|ショートショート|誰モガ・フィンガー・オン・ユア・トリガー

「私がピストルの引金を引くのは上司に頼まれたからなの。決して私自身が好き好んでではなく……」と彼女は呟き、静かに水を飲んだ。 「それが役割ですから」と僕は返したが、自分でも気の利かない発言だなと思いゲンナリした。それで慌てて付け加えた。「あなたのおかげで静止した世界が動き出すんです。その先には喜びも悲しみもあるけれど、それはあなたのせいじゃない。まずは誇りを持たないと」  彼女と僕は仕事仲間だ。だから彼女の苦悩も分かるつもり。上からの指示をこなす日々に嫌気がさすこともある。

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ショートショート|お天道様が見ている

 アメリカが「世界の警察」と呼ばれるように太陽系のいわゆる警察は太陽その星であり、決まって燃えるような熱い心で取り締まっている。 「おい火星よ、『見かけの等級』という言葉を知らんとは言わせんぞ」と太陽は問い詰めた。火星は答える。 「は、はい。絶対的な明るさではなく、地球から見た際の明るさのことですよね……。距離によって見え方は違うと。存じてますよ、ええ……」 「お前には地球に賄賂——鉱物のオパールだそうだな——を渡してこの『見かけの等級』を改竄した容疑がかかっている。逮捕は

ショートショート|京都タワーという名のロウソク

「京都タワーって見た目がロウソクみたいだよな。細長いし、胴体は綺麗な白で、頭の方が赤っぽくて」 「ここだけの話、素材の半分は本当にロウでできてるんだよ。耐久力のためにもう半分は鋼だけど」 「またまた」と青年は笑い、こう続けた。「やっぱり関西の人間はウィットに富んでる」  8月、京都五山送り火が執り行われる。東山如意ヶ嶽に炎でダイナミックに描かれた《大》の字は印象深い。  さて、ではなぜこの行事が開催されているか、その理由についても把握している人間は少ないだろう。  そう、京

ショートショート|通信通信

 函館市のホテルで伝書鳩パーティーが開かれた。諸国の著名な飼い主が親睦を深める……のが建前だが、互いをライバル視しているためハシビロコウ——という鳥がいる——のように彼らの目つきは鋭い。 「半年前にな、アルハンブラ宮殿の庭からモン・サン=ミシェルの尖塔までウチの鳩が飛んだよ。まさに長旅だからトリップではなくジャーニーと呼ぶに相応しいじゃないか」 「距離の話をするならこっちも黙ってないよ。俺はオーストラリア人だがね、パースからブリスベンまでウチの鳩が手紙を運んだ。あの広漠な大

ショートショート|やはり弁当は心を込めて

 新しく弁当屋ができた。よく使う類のお店が近所にできるのはラッキーなことだ。  当然だが内装はピカピカだ。やつれ気味のスタッフが応対してくれた。店主かもしれない。たぶんまだバイトを多くは雇えていないだろうから。正面上部の壁にメニューが書き並べられたボードがかかっている。 「スタミナ弁当というのは?」と僕は尋ねた。 「疲れがとれる食材の豚肉やニンニクがメインです。この夏を乗り切れること間違いなしですよ」とスタッフは答えた。ふむふむ。 「こちらの精進弁当は植物性の食品だけが使わ