いちごと国文学

はじめに

国文 Advent Calendar 2019 の18日目の記事を担当します、国文学3年生のふくです。

国語学・国文学歓迎会の自己紹介で少しお話ししたのですが、私は苺が好きです。地元の特産品でもあったので、小さい時からよく口にしていましたし、実家にいた頃、誕生日ケーキは毎年苺のタルトでした。

さて、少し話が飛ぶのですが、昨年、縁があってあるキャラクターのコスプレをすることになりました。当時私はそのキャラクターについてあまり知らなかったので、まずはその子の心に近づけるようになりたいな、と思い、そのキャラクターが愛してやまない苺を使ったお菓子をよく食べるようになりました。そういうわけで苺のことは元々好きだったのですが、このことがきっかけでもっと好きになって今に至っています。今回はせっかくなので苺と国文学について少しだけ調べてみたことをこの記事にしました(近代まで手を出せなかったのはごめんなさいの気持ちです。)

文学の中の苺

苺についての情報は『日本書紀』(1)にもあり、そこでは苺の古名である「いちびこ」の記載があります。『枕草子』(2)には次のようなものが「あてなるもの」にあげられていました。

薄色に白襲の汗衫。かりのこ。削り氷に甘葛入れて、あたらしき鋺に入れたる。水晶の数珠。藤の花。梅花に雪の降りかかりたる。いみじううつくしきちごのいちごなど食ひたる。

〈語注:『日本国語大辞典 第二版』をJapan Knowledgeより参考にした。2019/12/17閲覧〉
・白襲(しらがさね):襲の色目の名。表裏ともに白のもの。
・襲(かさね):衣服を重ねて着るときの、衣と衣との配色、または、衣の表と裏との配色。
・汗衫(かざみ):平安以後、後宮奉仕の童女の正装。
・かりのこ:雁の卵。また、水鳥など鳥の卵一般にもいう。
・甘葛(あまづら)深山に生える、つる草の一種。また、それから採った甘味料。秋か冬に、切り口から液汁を採取する。
・鋺(かなまり):金属製の椀。

清少納言はかわいらしい子どもがいちごを食べている姿にも品格のある美しさを感じていたんですね。「ちご」と「いちご」も音が重なってて面白いです。「ちご」と「いちご」に関してもう一つ『古今著聞集 巻第五』(3)の「右大将頼朝北条時政と連歌のこと」から。

同大将(記事作成者注:頼朝のこと)、もる山にて狩せられけるに、いちごのさかりに成たるをみて、ともに北条四郎時政が候けるが、連歌をなんしける、
 もる山のいちごさかしく成にけり
大将とりもあへず、 
 むばらがいかにうれしかるらむ

この歌では「いちご」と子どもの意味の「ちご」が掛けられています。(他にも「もる山」には「守る、養育する」と地名の「守山」、「さかし」には「盛んである」という意味の「盛し」と「賢い」という意味の「賢し」、「むばら」には「茨」と「乳母ら」が掛かっています。)次は江戸時代前期の俳諧集『犬子集 巻第三』(4)から837番歌と838番歌です。

山寺へゆかばいちごの土産哉 当直
花と実の二期有も名はいちご哉 重頼

「山寺へ」の方は「山寺」から「一期」が連想され、「苺」と掛けられています。ここでの「一期」は仏語で、「一生に一度しかないようなこと」の意味です。
「花と実の」の方も「いちご」から「一期」が連想されています。ここでの「一期」は「一つの期間」くらいの意味でしょうか。苺は花と実と2回楽しむ期間があるのに「一期」という名前なのだな、という感じだと思います。私は今学期、近世のゼミをとっていたので、その調べ物ついでに『俳諧類舩集』(5)(俳諧の付合語集)の「覆盆子(苺の漢名)」の欄を見てみました。

女人食すれハ子ありと醫言にいへり 酒に和していちこ酒と云

〈語注:『日本国語大辞典 第二版』をJapan Knowledgeより参考にした。2019/12/17閲覧〉
・医言(いげん):医師のことば。医学関係のことば。

とあり、また、『和漢三才図会』(6)(江戸時代中期の百科事典)には「薬酒」の項に

梅酒・榧酒・楊梅酒・鶏卵酒・覆盆子酒等不枚擧 用藥物及沙糖漬焼酎或醇酒封甕口候其熟時用(梅酒・榧酒・楊梅酒・鶏卵酒・覆盆子酒など数えあげるときりがない。いずれも薬物と沙糖を焼酎あるいは醇酒に漬け、甕口をしっかり封じ、よく熟してから飲用する)

〈語注:『日本国語大辞典 第二版』をJapan Knowledgeより参考にした。2019/12/17閲覧〉
・榧(かや):イチイ科の常緑高木。種子は長さ約二~三センチメートルの楕円体で、熟して紫褐色となり、外種皮は裂ける。内種皮はかたく赤褐色で両端のとがった楕円体。胚乳は食用とし、また、油をとる。
・楊梅(山桃、やまもも):ヤマモモ科の常緑高木。果実は径一~二センチメートルの球形の核果で紅紫色に熟し甘酸っぱく食べられる。樹皮を乾燥したものを楊梅皮(ようばいひ)と呼び下痢・打撲症の薬に用いる。

とありました。苺は体に良いものだと考えられており、今でいう果実酒のような形でも食されていたようです。

なお、我々がイメージするような苺が日本へもたらされたのは江戸時代の末期で、阿蘭陀苺(オランダイチゴ)とよばれていました。現在の栽培品種はこれとは別で、明治以降新たに導入された品種およびその子孫です(7)。ですからそれ以前は「苺」といえば木苺や野苺のことを指していたのだと思います。ちなみに野苺は駒場キャンパスの図書館付近やグラウンドなどいろんなところに群生しています。毎年ゴールデンウィークあたりになると赤くなっているので取ってジャムにしてます。(小学生の頃、小学校の裏山で野苺をとって食べていたので懐かしくてつい。)

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最後に、昨日のアドベントカレンダーの記事は歳の市についてでしたが、浅草の歳の市なら本郷からも近いし、今日明日で行く方もいらっしゃるかなあと思ったので浅草の美味しい苺スイーツを布教して終わりにします。

・浅草苺座:今年の5月にオープンしたばかりのお店。苺わらび餅が美味しかった。

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・浅草そらつき:苺どら焼きの専門店。種類がたくさんあって楽しい。迷ったら苺レアチーズにしてください。苺あんとレアチーズの組み合わせが最高。

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拙い文章でしたがここまで読んでくださってありがとうございました!

参考文献

(1)小島憲之ら 校注・訳 『日本古典文学全集 3 日本書紀(2)』、小学館 (Japan Knowledgeより、2019/12/17閲覧)
(2)松尾 聰、永井和子 校注・訳『日本古典文学全集 18 枕草子』、小学館 (Japan Knowledgeより、2019/12/17閲覧)
(3)永積安明、島田勇雄 校注『日本古典文学大系 84 古今著聞集』、岩波書店、1966年
(4)森川昭ら 校注『初期俳諧集』、岩波書店、1991年
(5)高瀬梅盛『俳諧類舩集』、般庵野間光辰先生華甲記念会、1969年
(6)寺島良安 『和漢三才図会』、中近堂、1884〜1888年(国立国会図書館デジタルコレクションhttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/898162より、2019/12/17閲覧)
島田勇雄ら訳注『東洋文庫532 和漢三才図会 18』(Japan Knowledgeより、2019/12/17閲覧)
(7)『日本大百科全書(ニッポニカ)』、小学館 (Japan Knowledgeより、2019/12/10閲覧)