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2019.11.29〜12.1 Maria Schneider Orchestra@Jazz Standard

おそらく一定のニーズがあると思うので、昨年末観に行ったMaria Schneider Orchestraのセットリストと新曲情報をまとめておきます。

Maria Schneider Orchestraは毎年Thanks Givingのホリデーシーズンに合わせて、約1週間Jazz Standardというライブハウスで公演を行なっています。
今回見に行ったのは、その後半3日間全6set。来年春にリリース予定の新譜の録音も終わり、1番完成度の高い公演だったのではないかと思います。

客層は音楽の勉強してます感のある若者もいれば、ホリデーシーズンのレジャーに訪れている家族連れ、業界関係者っぽい大人もちらほら(WBGOの方が紹介されていたりもしました)、ニューオリンズでミュージシャンをやってる方とも相席したりもしました。

今回のライブの(そしてレコーディングの)肝はドラマーがClarence PennからJohnathan Blakeに代わったこと(ここ数年よくトラで乗っていた印象でしたがついにレコーディングメンバーに…)で、サウンドがグッとビッグバンド的になったところじゃないかなと思います。
レコーディング後とあって、新曲が多いセットリストでしたが旧レパートリーも(もちろんリハーサルの問題云々もあるとは思いますが)Johnathanのドラムに合った選曲のみに絞っている印象でした。

以下新曲の印象など…当時の走り書き、ほぼそのままなので、文体とかグチャグチャですがその方が臨場感あるような気もしたのでそのまま。

・Data Lords
来日公演でも演奏された曲目、AIが人間の知能を超える技術的特異点を題材にした曲目。
最近、Zoomエフェクターの広告塔になったMike Rodriguezがめちゃくちゃにディレイをかけながら信号のようなソロをとっていましたが、機材トラブルも多く毎日ステージの前に入念な機材チェックが行われていました。

・Don't Be Evil
Googleの旧社訓からの引用。Googleと真っ向から対立するMariaの姿勢を表した一曲。
こんなこと言ったら誰かに怒られそうだけど、Ryan Keberle初めて見た時は「楽器そこまで上手くないけど、迸る情熱が最高!」みたいなプレイヤーのイメージだったんですが、見る度に楽器上手くなっていて、遂にこんな無機質でかっこいいソロ取れるようになったんだ……と感動しました。乞うご期待。

・Sputonik
ご存知ソ連の衛星をタイトルに地球の周りをグルグルと回転する模様を12星座等をモチーフに(たしか)12調をぐるぐると転調しながらScott Robinsonが延々とソロを取ります。
「過去から見た近未来」という過去、みたいな印象。

・World Lost
AIとの戦いに敗れた後日談的とも言える一曲。Ben Monderの泣きのギターソロから始まり、Rich Perryの嘆き節が響き渡る名曲。
ちなみに最初はLost World ってタイトルにしようとしていたところ、マネージャーのマリーさんに恐竜映画になっちゃうと言われてタイトルを変えたそう。

・CQCQ Is Anyone There
マリアの新境地とも言える一曲。
Lost World後、生き延びた唯一の人間Donny McCaslinによる無線の呼びかけに応える者はいない、やがてその電波を受け取り応答したのはDr. Evil ことGreg Gisbert,この曲の主な主題はモールス信号で構成されている。モールス信号による呼びかけ=CQCQ、に始まり数多くの単語(この曲の作曲の為にあらゆる単語のモールス信号を調べたのだそう)を各楽器に割り当てて進行していく。

AからMまでの練習記号にはそれぞれのモールス信号が割り当てられており、Cobraのように(実際にはかなり明確に展開が決まっているようではあるが)マリアの紙芝居によって曲が進んでいく。(Cerulean SkiesやPretty Roadの中間部のイメージに近い)
電化されたDr.EvilのトランペットソロととともにCQCQの音がこだましながらエンディングを迎える。そこに救いはない。

ちなみに後半、SteveとDaveがサックスのネックだけを持ってネックに指をいれたり、底を抑えたりしてグリッサンドのような効果を出したり、その後スコットロビンソンがアラートのような奇音のロングトーンをしている中、Richだけが次のサックスソリを待ちながら「この人たち何してんの?」みたいな顔をしているところがお気に入りポイントでした。

・Stone Song
今回のアルバムの中で1番心打たれた曲。
マリアが日本で出会った鈴石:Stonny(石の中に小さな石ころが入っている)を実際に用いた一曲。
Steve WilsonとFrankが戯れるように軽快なメロディーを歌い出すと、Stonny がカラカラと音を立てて語り出す。(「イシノササヤキ」と言っていた)
風と水と石ころと、何気ない日常に陽の光があたりその全てが輝き出す。人類、自然への賛歌。

・Sanzenin
京都を訪れた際にPietroのオススメで訪れた三千院をモチーフにしたGary Versarchのフィーチャー曲、このバンドでGaryをフィーチャーした曲として、亡きトランペット奏者ローリー Frinkに捧げたPotter's Songを忘れることは出来ないが、2度目の来日の際(ローリーが亡くなった直後)に演奏された今の形になる前のPottery Songを彷彿とさせる構成。
初期のPotter's Songでは、まるでローリーとの思い出が湧いては弾けるかのように、全てのメンバーが単音ないし短い短いフレーズを紡ぎ出しながら、やがてそれが大きなテーマとなっていくような構成であったのだが、Sanzenin ではそれぞれの奏者が各々にフレーズを語り全ての総体の中でGaryのソロが泉のように湧き出る、弱音楽器であるはずのアコーディオンとビッグバンドの関係をアップデートするような見事な仕上がりになっていた。

・Look Up
今回の新曲の中で唯一の問題作であり、快作。
Marshall Gilkesをフィーチャーした一曲で、下ばっかり見てないで上をごらん!自然見つめてごらん!!みたいなテーマ、正直こんなストレートなタイトルでストレートにハッピーな音楽がマリアの語彙から出てくるなんて思いもしなかったので衝撃の一言。
言うならば、Marshall Gilkesの超ハッピーな楽曲をマリアが編曲したのかと思うような仕上がり。ソロ中ならいざ知らず、譜面上にHigh Aまで出てくるMarshall Gilkes特別仕様。
青春迸る一曲は正直来年のグラミー賞の楽曲賞ないしソリスト賞をとってもおかしくないのでは……?と思う程の肯定感。
マリアファン歴が長ければ長いほど、容易には受け入れられない(良し悪しの問題ではなく)1曲だと思う。
ただ、超いい曲、映画のCMみたいにみんなで「Marshall Gilkes 最高!!」って叫びたくなること請け合い。

・Giant Steps (new arrange)
かなり昔のこと、たまたま空港でHerbie Hancockに会った時に、君のGiant Stepsのアレンジは素晴らしいよ!!ただソロイストのスペースがただのソロスペース(原曲ママ)になってるのがもったいないよね。
と言われてからずっといつかやろうと思っていた「Giant Stepsを難しくする計画」の完成版。
30日のステージでは直前に、そういえばBenにイントロやってほしいんだけど、と無茶振りされてヤダヤダとごねた結果そんなにイヤなら帰りなさいとマリアに 言われて、「じゃあ帰る」と笑顔で答えるお茶目なBenを観れたのも凄くよかった。
そして無茶振りされたBenのイントロ、ブチギレる寸前のところを首の皮一枚でギリギリ理性を保ったような爆発力を持ったソロは本当に凄かった……

・How Important It Must Be
Don Upshowをゲストに迎えた室内楽作品Winter Morning Walkesからビックバンドに編曲し直した一曲。
Donny McCaslinのソロと、Marshall Gilkesのテーマが素晴らしい。前回の来日でも一回演奏されていたけど、多少構成がブラッシュアップされていた印象。

新譜の発売予定は4月頭頃とのことです。
あの感じだとちょっと延びそうな気がしますが……。
そして、上記の新譜の断片はArtistShareからこちらのプロジェクトに参加することで確認することができます。(PR投稿ではありません)
気になる人は是非。

https://www.artistshare.com/projects/experience/?artistID=1&projectId=510

11.29
Set 1
Green Piece (Scott Robinson/Mike Rodriguez)
Don't Be Evil (Jay Anderson/Ben Monder/Ryan Keberle/Frank Kimbrough)
A World Lost (Rich Perry)
Stone Song (Steve Wilson)
Sanzenin (Gary Versace)
Giant Steps (Marshall Gilkes/Greg Gisbert/Dave Pietro)
How Important It Must Be (Donny McCaslin)
Set 2
Bluebird (Steve)
Data Lords (Mike Rodriguez/Dave Pietro)
CQ CQ Is Anyone There (Scott Robinson)
Stone Song (Steve
Gumba Blue (Ryan Keberle/Rich Perry/Frank Kimbrough)
Sputnik (Scott Robinson)
Look Up (Marshall Gilkes)

11.30
Set 1
Old Black Magic (Rich)
Potter's Song (Gary)
Data Lords (Mike/Dave)
Stone Song (Steve)
CQ CQ Is Anyone There (Donny/Greg)
Sputnik (Scott)
Look Up (Frank/Marshall)
Set 2
Wyrgly (Donny/Dion Tacker/Ben Monder)
A World Lost (Ben/Rich)
Stone Song (Steve)
CQ CQ Anyone There (Donny/Greg)
Sanzenin (Gary)
Giant Steps (Ben/Mike/Marshall/Dave)
Green Piece (Scott/Frank)

12.1
Set 1
Evanescence (Rich/Marshall)
Don't Be Evil (Ben/Ryan/Frank)
Sputnik (Scott)
Gumba Blue (Dave/Mike/Gary)
CQ CQ Is Anyone There (Donny/Greg)
Stone Song (Steve)
Set 2
Wyrgly (Donny/Ryan/Ben)
Last Season (Scott/Greg/Frank)
Data Lords (Mike/Dave)
World Lost (Rich)
Stone Song (Steve)
Sanzenin (Gary)
Look Up (Marshall)


よろしければ福田組がMaria Schneider OrchestraのメンバーMarshall Gilkes と演奏したThe Monarch and the Milkweed (Maria Schneider Orchestra / The Thompson Fields収録)もご覧ください

Fukuda-Gumi Jazz Orchestra
Web:http://fukudagumi.mystrikingly.com/
Instagram:https://www.instagram.com/fukudagumijazzorchestra/
twitter:https://twitter.com/fukuda_gumi

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