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『隣人が殺人者に変わる時』(ジャン・ハッツフェルド著、ルワンダの学校を支援する会訳、かもがわ出版)

"ジェノサイドの原因は貧困でも教育の欠如でもありません。(中略)私は教師なので、教育は自分たちに世界を明らかにするものだと思っています。しかし、教育は人を有能にしても、善くすることはしません。" (p.122)

1994年、中央アフリカの小国ルワンダで100万人もの人々が虐殺された。植民地支配の方便として、ルワンダの住民をフツ族、ツチ族というふたつの民族に分離した政策の結果、民族間の憎しみが育ち、爆発した。

フツ族出身の大統領が乗った航空機が、謎のミサイルにより撃ち落とされた後、インテラハムエと名付けられたフツ族の過激な若い兵士たちが、ツチ族と穏健派のフツ族を虐殺し始める。「ツチを殺せば、土地と富が自分たちのものになる」と煽動され、やがてごく普通のフツ族の農民たちまでも虐殺に加わり、マチェーテ(なた)を手に取って、昨日まで酒を酌み交わしていたツチ族を淡々と殺し始める。殺戮は日増しにエスカレートし、彼らは被害者をただ殺すのでなく、手足を断ち放置して死なせたり、妊婦の腹を割いて赤ん坊を親たちの目の前で殺したりした。地獄のような皆殺しは、およそひと月も続いた。

この「事件」は、『ルワンダの涙』『ホテル・ルワンダ』などの映像作品や、当時のPKO司令官ロメオ・ダールの悲痛な手記『なぜ世界はルワンダを救えなかったのか』などの書籍によって世界中に発信され、国連PKOの武力行使基準の見直しにもつながった。

今年はルワンダ虐殺から20年にあたる。

本書は、虐殺を生き延びた生存者たちの証言を、丹念に集めまとめた証言集である。14人の証言者たちは、みな虐殺の被害者である。家族を目の前で殺され、湿地帯の泥のなかにひそんで息を殺し、ほぼ飲まず食わずで一か月を生き抜いた彼らは、外国人に対してようやく「ジェノサイド」を語りだした。

"ジェノサイドの中を生きた人が話す「ジェノサイド」という言葉と、どこかでジェノサイドについて学んだだけの人が話す「ジェノサイド」という言葉には大きな隔たりがあります。" (p.239)

つい先日、加害者側の証言を集めた『隣人が殺人者に変わる時 加害者編』も刊行された。背筋が凍る思いがするが、人間という存在を知るために、これは欠かせない本のひとつだと思う。私たちは、いつだって被害者と加害者のどちらにもなりうるのだ。

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