ネズコ食われる
今、頼まれた土物を仕上げるために場所を借りているのだが、その工房は木造のプレハブっぽい作りで、屋根裏に大きなネズミ一家が住み着いてる。
たまに天井近くの棚を縦横無尽に走り抜けて行ったり、頭上で足音がしたり、埃がハラリと落ちてくるが、こっちに来るわけでもないので、仮暮らしの同居人として、レミーと密かに名付けて、あまり気にせず私は自分の仕事をしている。
今日、また屋根裏でゴトンっと音がして、音がした方へ振り返り棟木の方を見上げたら、今まで見たことなかったホースのようなものが屋根裏からたわんで垂れ下がっていた。
レミーが走り回って配線の束でも落としちゃったのかなと思って、ロクロの続きをしていた。
あの落としたホースはレミーが綱引きみたいに引き上げないとそのままになるなぁ、など、ロクロをしながら呑気に考えていた。
すると今度は頭上をタタタッと走り抜ける音とともに、後ろで何かがポトっと落ちてきた音がした。何事かと振り返ると、天井裏の断熱材の小さなカケラと共に5cmくらいの明らかに子供のネズミが床に着地し、閉まっているドアの方へ必死に逃げていった。
さすがに、3mくらいの高さから落下してきたので、びっくりしたが、愛らしい姿だったので、
「ネズ子や、どうした? 外に出たいのか?」と話しかけながら、ドアを開けてやるが、ネズ子は動揺しすぎて、外とは逆方向の物陰へ走り去っていった。
ネズ子が落ちてきた棟木のあたりの隙間の暗がりを見上げると、隙間から白い三角の喉元みたいなのが見えたので、落下した子供をレミーが心配してみているのかな…とか考えていた。
その後、また気にせず作業していると、ネズ子は動揺しすぎて何度か床を走り過ぎ、その度にこちらも多少驚くものの「ネズ子は、上に戻れないのか?」など一人で話しかけていた。
そのうち、上の方に上がっていく音がして、ネズ子は屋根裏に戻れたのか、と安心していたら。
また、天井でタタタタッと走る音がして、しばらくすると静かになった。
そうか、ネズ子は親元に帰ったんだな。よかったよかったと思ってそのまま1時間くらい過ぎたあたりで、粘土を運びながら、棟木の配線のホースが垂れ下がっていたあたりに何気なく目を移すと、ホースがなくなっていた。
レミーたちが引っ張ったのかなと少し驚いてしばらく見上げていたが、音沙汰もないので、また仕事を続けていた。
だが、ロクロをしながら考えていたが…
ホースだと思っていたものは蛇ではないか…
ネズ子を上から見ていた喉元はその蛇のもので、食われそうになって必死に逃げていたのではないか…
いや、そもそもレミー一家は全員丸呑みされているのではないか…
星の王子さまの冒頭のゾウを飲み込んだウワバミのイラストが思い出された。
数日経ったが、その後、ネズミを一回も見かけていない。
家族全員が同じ蛇の中でゆっくり消化されていくのは、不幸中の幸いかもしれない…
…と、思うことにした。