「ありえない」を生み出すアート思考
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「ありえない」を生み出すアート思考

わかさふうか

 8月26日、27日、28日の3日間に渡って武蔵野美術大学・市ヶ谷キャンパスにてソーシャルクリエイティブ研究所発足イベントが開催されました。
 今回のワークショップではフランス発のArt Thinking Improbable Workshopというアート思考を体験的に学ぼうというプログラムが、講師にHEART CATCHの西村真里子さんを迎えソーシャルクリエイティブ研究所の山﨑和彦先生とのコラボレーションで行われました。さらに講師として、ポートフォリオワーカーとして7つの職業を持つ飯田さやかさんと、現代美術家・3Dモデラーとして活躍されている山口典子さんにも来ていただきました。

●「ありえない」を生み出すとは?

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 はじめに、山﨑先生は今回のワークショップの意味についてこう語りました。
「デザインは共創であり、アートは独創であるという側面があり、違うものとされることもある。しかし、文化・時代・言語・国籍を超えて美しいと思われるモノの、なぜ美しいのか?なぜ興味を持たれるのか?という部分からヒントを見つけデザインに活かしていくことができる」と。
 また、ポール・ランド氏の「デザインは関係だ」という言葉を引用し、カタチと中身が相まって生まれるものに人々は共感し普遍的に愛される関係をつくることができることを参加者に伝えました。
最後に、参加者に向けて「アート思考に挑戦してください!」との呼びかけをしてワークショップ開始の合図となりました。

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 次に講師の西村さんは「ありえないと思われるものが現在の市場のニーズを掴んでいる」という視点からアート思考の必要性について様々な事例を紹介しました。
現代社会では、スタートアップやベンチャーのように大企業がルール違反だと思ってやらないことをやる人が今の世の中を作っているのだと語りました。
 今後、AIによってあらゆるものが生み出されていくと、予測可能・ありえる状況を作り出すことができる機械に人間は負けてしまう。そこで人間ができることは、価値観を学び予測不可能な"ありえない"を生み出すことだと伝え、“ありえない“を創造するエキスパートを育てることの必要性を訴えました。

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 講義の途中、参加者から「ありえないと存在しないの違いは何か」という質問が出ました。西村さんは、全く新しいものを生み出すということではなく、身の回りの既製品の中に新しい視点をつくることからも“ありえない”は生まれるという話をし、その違いは3日間のワークを通して身をもって知ることができると返答していました。
 今回のワークショップでは、解決策ではなく物事に対する問い・視点・自分の意見をつくりだすことが求められるということなのでしょう。

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飯田さやかさん
飯田さんは元々会計士をしていた経歴を、現在のポートフォリオワーカーという働き方に行き着くまでの経緯と現在の活動についてお話しして頂きました。

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山口典子さん
幼少期から感じている集団への魅力から作品の制作を行ってきたという山口さん。作品が出来上がるまでの試行錯誤の様子や裏話などをお話しして頂きました。

●Art Thinking Improbable Workshop

 Art Thinking Improbable Workshopは、フランスのビジネススクールの准教授のSylvain BureauとアーティストのPierre Tectinがつくりあげたものです。アーティストの思考をビジネスに結び付けられないかという構想が出発点で、現在では企業でもワークショップが行われるようになり、日本では今回が6回目の開講になるそうです。高校生がこのワークショップに参加するのは初めての事らしく、どんな作品が出来上がるのか期待が高まります。

 このワークショップはアーティストが作品を生み出す過程を下の6つのステップに分け3日間かけて体験することで、作品を生み出そうというものです。

1日目
⒈ Donate (貢献)
⒉ Deviate (逸脱)

2日目
⒊ Destroy (破壊)
⒋Drift (漂流)

3日目
⒌Dialogue (対話)
⒍Display (出展)

 参加者は現在興味を持っているジャンルごとに6つのチームに分けられました。チーム分けは健康・働き方・子育て・ダイバーシティ・都市集中(×2)となっていて、面白いのは子育てのチームが高校生3人と大学生1人という構成で、子育て未経験の人が集まったことです。現在、育てられているという立場に実感があるからこそ、子育てに対する疑問や問題が敏感に感じ取れているということなのでしょうか。


●あなたは何を提供できる?

 作品作りに入る前に、Donate(貢献)のステップからワークショップは始まりました。Donateのワークは物々交換です。チームごとに指定の場所が与えられ、その場所もしくは場所までの道のりで物々交換を行ってくるというものです。交換するものは最終日のレセプションの無料招待チラシです。

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 私は働き方チームに同行しコワークングスペースのWe Workに行ってきました。はじめは苦戦していたのですが、2回程声をかけたら慣れてくるみたいで、こうやって話しかけたらいいとか、こうやって交渉しようとか、笑顔が大事とか。
 私も一枚だけチラシを分けてもらい物々交換に挑戦してみました。私はチラシとトートバッグを交換して頂いたのですが、話しかける時に「武蔵野美術大学のワークショップで〜」という感じで話しかけると、大学名を知ってくれてる人はすんなり話を聞いてくれました。これを、個人でやろうと考えたら、「誰?なんで?何の為に?」という感じで受け入れてくれなさそうな気がします。大学の名で活動できる安心感なのか「物々交換できるものありますか?いい時計してますね〜」という感じで冗談交じりに会話ができて楽しかったです。

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これは発表の様子なのですが、美容学校に突撃で行って頭部3つと交換して貰ったみたいです。すごいけど、ちょっと怖いですね。

 なぜこのワークが貢献なのか?とはじめは思っていました。しかし、物々交換を終えてみてお金以外のもので何かを得るということをしてみると、物理的なモノとモノの交換だけじゃなく、笑顔で話しかけよう、若い人が話しかけた方がいいかも、真剣さを伝えるための話し方をしよう、などを考えながらモノではなくコトを提供することによって何かを得ることができることを自然に感じ取り実行していました。価値を自ら創造もしくは発見することで、お金を持っていなくても社会に貢献することができるということを参加者は体験したのだと思います。

●逸脱・破壊・漂流

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 Diviate (逸脱)では各チーム問題意識を表現するというところから始まります。まずはテーマに関するモンスターを生み出そうというワークです。あるシンボルやアイデアを別の場所や背景、時代に持ってくることで、シンボルが持つ意味を変化させ問題を表現してみます。

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 身近にあるもので表現をしてみるのですが、それはモノとモノとの関係性を作り上げるような作業で、お菓子とペットボトルで地方の過疎化を表現するにはペットボトルは立っているべきか?、お菓子は潰れている方がいいなとか...この段階では見る人に伝わるかは重要でなくテーマを表現するための手法を知るという感じです。

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 2日目には、Destroy(破壊)Drift(漂流)のワークが行われました。
1日目にテーマを表現することで生まれたモヤモヤをさらに批判的・攻撃的な視点によって破壊することから始まります。カルチャージャミングの作品を例に、本当にこれでいいのか?という視点を自分たちの作品にぶつけます。

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 漂流ではエフェクチュエーション理論によって、今あるリソースを活かす、偶然や失敗を活かしていく、という考えを持つことでゴールを決めずに作品と向き合います。作品づくりも終盤に差し掛かり行き詰まってきた時には、あえて外に出て散歩して漂流することで意外なきっかけや思いつきを得ることがあるので大事なことです。分かっていても、いっぱいいっぱいになっている時に漂流するのは結構難しいですよね。

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野菜がキラキラしてます。これは都市集中・過疎化をテーマに、ラベリングされてしまう地域についての問題を作品にしようと試みているチームのものです。

Dialogue (対話)

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 3日目になり作品制作も終盤です。対話では、2チームでお互いの作品について発表を行い良い点・悪い点・疑問点などについてアドバイスをもらうことで、作品が他者からどのように見られるか把握し作品を洗練させていきます。

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 他者に一度批評をしてもらうことはとてもいいことで、思わぬ意見をもらうことで作品が良くなることがありますね。

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 作品制作では、市ヶ谷キャンパスが持っている大判プリンターやメイクスタジオを参加者に解放しました。

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 メイクスタジオには、レーザーカッターや3Dスキャナー・プリンターがあり、構想したものをすぐにカタチにすることで、熱が冷めることなく作品を作り出すことができます。
上の写真は3Dプリンターで参加者自身の顔をお面にしたものです。

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 上の写真は写真スタジオを再現するために木を組んでいる様子です。
試行錯誤していくうちに作品がだんだんと大がかりになっていきます。

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Display (出展)

 講義の中でリレーショナルアート(関係性の芸術)の紹介があり、今回は鑑賞者が行動を起こすことによって作品を体験してもらうチームが多く、その場を共有する人にしか体験することができないアートとしての出展が多かったように感じました。
 それぞれの作品名とキャプションを写真と共にこの場で紹介するので、鑑賞者としてアートに向き合ってみてください。

1.環神社 (健康)

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環神社は、疲れ、怒り、鬱屈した天環御縁尊の御霊を慰め、
その事績を永く後世に伝えることを目的に創建された神社です。現代の携帯電話との関係性を再考します。どこへいくにも、いつでも手放すことができない携帯電話。長時間労働をさせられ、触れられ続ける媒体。使う前はどうでしょうか。無思考で使ってはいないでしょうか。使った後はどうでしょうか。投げ捨ててはいないでしょうか。ネット疲れと言われる時代。自らの疲れを嘆くだけで、携帯電話への気遣いを忘れているのではないでしょうか。忘れがちな携帯電話への感謝を込め、健康を願い、祈祷を行います。

2.いつまで産グラスかけてるの (都市・過疎)

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情報社会になるにつれ、都市と地方で、得られる情報の格差や、教育や就業の機会の格差が広がっていることが問題であると言われています。都市部での人々のコミュニケーションは、スピードが上がることに反比例して疎になり、地方での濃密なコミュニケーションのあり方とは対照的に感じられます。
都市と地方を分けているものはなんでしょうか?「北海道の乳製品って、やっぱ美味しいよね」「高知県といえば、カツオだよね」これらは日常的に耳にする会話だと思います。このように地方はラベリングされています。
ラベリングは、ブランディングにもなり、地域の特産の印として、地方自治体が地域を売り込む手段としています。我々は、ラベリングを通して地方を知る機会を得ますが、それは本当にその地方のことを知ることになるのでしょうか?青森のりんごは一種類でしょうか?コミュニケーションのスピードが求められる都市部において、ラベリングされた情報は判断を助け、よく機能しているように見えますが、そのことが却って人々の認知の解像度を下げ、我々のコミュニケーションを拒絶することになっているのではないでしょうか?あなたはその味を脳ではなく、下で感じていますか?

3.スポット (ダイバーシティ)

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商品や人物の理想的な姿を映し出す、テレビCM。食べ物はより魅力的に、人物はより美しさが際立ちます。日常でよく流れてきている映像は、どのように撮影されているのでしょうか。今回は日本から情報発信していることが分かるように、小さな神社を作りました。自分の好きなものを絵馬に書いて、スポットで撮影してInstagramにシェアしてください!!  ハッシュタグ:#shrineshine

4.東京囚 トウキョウジン (都市・過疎)

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なぜそこに住んでいるのですか?例えば、家族・友人、職場・学校、交通の便、娯楽など理由は様々かもしれません。ですが、その理由は、あなたにとってどれだけ大切なのでしょうか?本作品では東京という都市のメタファーを使い、都市に人が結び付けられている原因を色違いの糸で表現しています。普段意識することがない、どうして?なぜ?を意識していただけたらと思います。
今住んでいるところは本当に好きですか?
もしかしたら、あなたを縛っているのはあなた自身かもしれません。 

5.ワタシとカメン (働き方)

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「働く」ということは、普段の自分とは別の顔を持つ、という事である。働く人は普段の自分と、別の顔を行ったり来たりする。「働く」という仮面をかぶる事で社会歯車やルールに適応するのだ。そんな仮面をつけ外しをするという場面は人生の要所要所で見受けられる。例えば、今まで楽しい学生生活を送っていた仲間が、突然インターンシップに参加する。結婚をして子供ができて育児と働くを両立する。定年を経て残りの人生を過ごす等々。最初は、仮面をつけるという行為は演劇をする時のように、本来の自分と違うものとして感じるかもしれない。しかしながら、社会的責任を負うほど、仮面をつける時間はより長くなってゆく。気がつくと、仮面と自分の顔の差がなくなってくる。私達は仮面という存在に無自覚であるのではないか?仮面を受け入れることによって、普段の自分と仮面の違いが薄れてくるのではないか?

6.You👁   ユメ  (子育て)

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あなたが最初に持った夢はなんだったでしょうか。それは叶いましたか?変わりましたか?諦めましたか?それとも諦めさせられましたか?子どもは本能のように動き、触り、感じた。興味があれば何も考えずに行動する。自分が行う事は何でも
「正解」であった。大きくなるにつれて私たちは、子どもにとっての正解ではなく、自分の目で見てきたものを正解にし、「これが正解だ」とものや環境を子供に与える。まるで、「正解」が1つであるかのように。子どもたちの夢は、社会の当たり前の視線が近づく事により遠くに霞んで消えていく。

●何が問題か分からない問題を考える

 レセプションでは作品鑑賞の前に、武蔵野美術大学学長の長澤忠徳先生、ソーシャルクリエイティブ研究所の井口博美先生、山崎和彦先生からの話題提供がありました。
 話題提供を通して心に残ったのは考えるということでした。当たり前のようですが、クリエイティブに関わる人間がするべき考えるとは、「分からない」ことを自覚する作業から始まり、何が問題か分からないという問題を考え、考えながら作り、作りながら考える。そうすることで信じ込んでいるルールのその先を考えることができるということです。

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 今回のワークショップでも参加者は、視点を変えて考えることで今まで気に留めていなかったことに問題意識を生み、そして、自分に何が出来るのかを考え、どう表現したら伝わるかを考えることをしたと思います。短期間にこれだけ考えるという行為をしてみると、日頃考えるという行為を放棄していることを実感された方もいるのではないでしょうか。

講師:西村真理子さん
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武蔵野美術大学 
クリエイティブイノベーション学科研究室サイト




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