ヴァン・クライバーンのラフマニノフ

日本ではヴァン・クライバーンと言うと辻井伸行さんが優勝した米国のピアノ・コンクールの名前で知られているが、私は彼の演奏を聞いたことがある。1970年代後半だった。アメリカのジョージア州アトランタ(風と共に去りぬの舞台)だったと思う。ひまだったので何かコンサートかミュージカルが無いかコンシェルジェに聞いたら、ヴァン・クライバーンの演奏会があるとのこと。すぐに駆け付けた。ティケットは売り切れていてダフ屋から買った。
わたしは知らなかったが、彼はずっとコンサートを止めていて、私は偶然にも彼が演奏旅行を再開した僅か数年の時に巡り会ったのだ。彼は2曲演奏したと思う。その一つがラフマニノフのピアノ・コンチェルト第2番だった。
大感激したので彼の演奏したテープを買った。その後、当時住んでいた南米ベネズエラの奥地ガイアナ市で毎週日曜日に聞き続けた。
ガイアナ市はアマゾンの大森林の中にポツンとある近代都市で、私はその市にあった国営製鉄所で働いていた。文化に飢えていた私をラフマニノフの曲は癒してくれた。
ソ連のフルシチョフ第一書記が威信をかけて開いた第1回チャイコフスキー・コンクールで何と米国人の若者、ヴァン・クライバーンが優勝しちゃったのだ。審査員は非常に困ったらしいが、あまりにも素晴らしい演奏に彼を優勝者として認めるしかなかった。フルシチョフはスターリンの後にでてきたソ連の指導者で同国としては、かなり民主主義的な人だったようで、審査委員達から米国人を優勝させても良いか聞かれると「仕方が無いだろう」と認めた。これがスターリンやブレジネフだったら無理にでもロシア人を優勝させただろうな。
日本ではクライバーンはあまり評価されてないようだが、ピアノ演奏の良しあしがよく分からない私には彼のラフマニノフは素晴らしく聞こえる。と言うか、彼の演奏するラフマニノフばかり聞いていたので、彼の演奏が基準になってしまっている。多分、今では古臭く聞こえるかもしれない。辻井君のラフマニノフと聞き比べてみようかな。


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