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SIGNALISメモ

プロット

ペンローズ 512スカウトシャトルが未知の極寒の惑星に墜落。レプリカであるエルスターが目覚めると、パートナーであるアリアーネの姿はなかった。エルスター船を出て歩くと長方形のアーチを横切りって階段のある大きな穴が現れる。降りると肉のようなトンネルがあり這って進んでいくとある部屋にたどり着く。テーブルの上の本を手に取ると、ラジオがオンになり、ドイツ語で数字の放送が聞こえてくる。ふとアリアーネが語りかけてくる。「約束を思い出して」「起きて」
そして突然エルスターは写真を持っていて鏡を見ている。惑星レンにあるシェルピンスキー-23採掘施設にいることに気づく、そういうふうにしてこのゲームは始まる。

メモ

・約束が本当になにを意味しているのかプレーヤー(他人)には分からない。

・なぜならそれは特定の恋人に宛てられた言葉だからだ。

・でもわたしたちがわかった気になってしまうのは、約束が言葉でできているからだ。※1

・言葉(反復されるもの)であるがゆえに、恋人たちが話した声が、残した言葉が、恋人たちが意図しない誰かに届き、受け取った人の心を揺さぶることもある。

・人を愛するということは、その人の唯一(絶対)性に捉われる、ということだ。ふたりが残した言葉はその絶対をめぐる過程を近似的にではあるが再現する。

・建物の中にはほとんど窓がない。窓がないと恋人たちはどうなるのだろう。

・遠い部屋に恋人が一人でいる。この時恋人は何を考えているのだろう。

・窓がないと約束は方向不能の表現になってしまうのではないだろうか。約束は一人では生き延びられないのではないだろうか。※2

・エルスターは気づくと様々な場所にいる。穴を抜ける。飛び込んでいく。鍵をあけて進んでいく。

・部屋は薄暗く、血腥く、そして赤い。血が君に会いたがっている。エルスターは血液の世界を行く。※3

・エルスターも不安定なペルソナを抱えている。不安定さはレプリカという枠を内側から超えさせ不合理なのものの方へ接近する。※4

・窓がないと人は壁を変化させようと努力する。※5

・アリアーネに注目しよう。写真を飾る。絵を飾る。部屋ににはまだ描きかけの絵(死の島)がある。その絵の中でふたりは手をつなぐ(恋人のタロットカード)。回想の中でも手を繋ぎ踊る。※6

・大事なことのほとんどは手を通して行われる。鍵を開ける。引き金を引く。ハッチをこじ開ける。特に手をつなぐということはたしかめあうことだ。

・思い出すことで約束は復元していく。もちろん、約束は、はじめの生き生きしていたリアルさは損なわれている。

・いわば“約束”は時間の経過において忘れられ毀損される。約束は一度死ぬ。しかし、その約束を受け取ってしまったエルスターは、思い出すという約束の蘇生を行う。そのためにエルスター自身も死から疎外されている。

・最初の“約束”と、復元(思い出した)後の<約束>はちがう。ただ両方に共通すること、関連することはあるだろう。

・アリアーネに存在していてほしい。ペンローズ512へ、シェルピンスキーへ、非在の場へ、彼女の部屋へ何度も何度も行き来する。

・人を愛するには訓練が必要だ。愛する人がなにを望んでいるか確かめることが必要だ。それは相手に抱くイメージと、実際の相手とのあいだを行った来たりすることが求められる。とても難しい。多くは失敗するだろう。

・わたしはこの人を苦しみから救いたい。「なんでもするって約束した」これは愛の感極まった表現のひとつではないだろうか。※7

・愛する人に存在してほしい。愛は数量化できない。つまり愛は法外な価値があるものなのだ。法外なものにはリスクがあるのも当然だ。※8

・そして愛にはふたり必要だ。

・この法外な価値の下では、扼殺も、手を繋いで踊ることもできる。恋人たちの愛の表現である。※9

・恋人の関係に根拠を与えるのは、ふたりのあいだに共有された約束(秘密)の実践にほかならない。

・なにも不思議なことはない。恋愛は死も含めれば必然的にそういうものになるのだ。

・手を繋いで見つめあうことができれば、悩める世界の一大事だって一向に構わない。無関心(“どうでもいい”)でいられる。

・こんな大事なことを忘れてしまう。ふたりは約束を通じてとても大事なことを思い出させてくれる。

・約束は、それが守られないという可能性が常に潜んでいる。というのも約束は契約ではないから。それでも人は約束をする。愛はただ宣誓(声に)するしかない。守らなくてもいいものに自分自身を差し出したエルスターはその仕組みに極めて誠実だったというほかない。正気か狂気かは重要ではない。

・約束が果たされると、円環も終わる。※10

・エンディング(遺物)は、愛する人はもうどこにもいない。そのことを受け入れるものだろう。※11

・死後にも生がある。死が生を活性化させる。音楽が流れる。ふたりはまた踊りだす。


※1「Je t’aime.は言葉ではない」ロラン・バルト

※2.家の窓の近くにいるカササギは死を予言すると言われている。またカササギを見ると未来が予測できるという神話がある。

※3.情熱に衝き動かされ、盲目となり、冷静さを欠き、そして常軌を逸した行動へと至るのは「狂気」と呼ばれるものかもしれない。だとすれば通常の行動規範からの逸脱あるいは行動を制限しているモノサシから解き放たれた時に、愛は人に「外の世界」、時間の枠の外へ、未生以前に触れさせる。

※4.“ペルソナ”はゲーム内のキー概念のひとつ。レプリカはもとのゲシュタルトのニュートラルパターンをもとに作成され特定のペルソナ(役割)を実装され運用されているが安定的な運用には苦心している様子だ。

例えばSTCR(こうのとり)について以下の報告があったことを思い出してみよう。

“初期状態のシュトルヒは非常に短気である。他のモデルと比べてニューラルパターンが 不安定なため、配属直後から忍耐力を培う訓練をすることが肝要である。 これを怠ると、極端に浮き沈みのある性格となり、残虐行為や暴力に繋がってしまう。 年長のシュタールユニットと組ませるという対処法もよく採用される。 シュトルヒのペルソナは入浴やシャワーによって安定する。歴史や神話の本などもフェティシズムを満たすモノとして機能する”

逆説的だが、現実世界でも、暴力に魅力を感じる人、フェティシズムに傾倒する人はいる。それは訓練を怠ってしまったか、メンテナンスされずにそのままにされている証左だろう(このペルソナについて個人的に参照した作品が1つあるがここでは記さない)。
エルスターのペルソナの不安定さはアリアーネとの長年の共同生活において数多くの禁則事項を破った結果だと推測されるが、この経験が彼女をレプリカらしからぬ不合理なものへ開かれるきっかけになっている。

STCR(こうのとり)ペルソナに関する注意について

※5.大好きな人と一緒にいるためにいくつかの技術がある。芸術もそれにあたる。写真を撮ったり、絵を描いたりすることはここに含まれる。
嫌いな人と一緒にいるための技術もある。ここでは記さない。

※6.『死の島』は、スイスの画家アルノルト・ベックリンの作品。1880年から1886年の間に繰り返し作品を描いていて全部で5つある。アリアーネの描いているものはこの6つ目ということになるだろうか。
あるファンがふたりを加えて描いたものがあった。

死の島。中央でふたりが手を繋いでいる

この絵を使ったサウンドトラックもある。

※7.わたしはこの場面が非常に印象的だった。

千切れた腕を再び繋ぎ直すこと

この円環を繰り返せ。その代わり同じように繰り返すな。類似性を引き裂け。
そうした内的な要請に自分自身が応答する。そういう場面と了解している。

※8.愛は絶対だ。「Aの方がBより好き」といった言い方で比較される時、それが愛と呼ばれることは少ない。また「~だから好きだ」という愛の理由をいくら積み重ねても際限はなく、そうした言葉によってむしろ愛は相対(比較)的な次元に陥落してしまう。絶え間なく積み重ねることは愛ではない。それは欲望だ。(あなたを愛してる理由は最新のiPhoneを持ってるからです、とはならないでしょう?)

※9.例えば、ロミオとジュリエット。

“O brawling love!!O loving hate!”
(仲違いする愛、愛し合う憎しみ)

気をつけなくてはならないのはこれは観念(言葉)の遊びではない。矛盾もまるごと内部に取り込んでいることに注意しよう。
矛盾を孕んでいる。愛は矛盾を孕めば孕むほどに、常軌を逸し、モノサシ(基準や正気)を超えたものにその人たちを変容させる。

※10.「遺物」で差し込まれるドイツ語のテキストは以下の2つ。

UND IN JENEN TAGEN WERDEN DIE MENSCHEN DEN TOD SUCHEN UND NICHT FINDEN
“その時代、人々は死を探し求め、見つけることができませんでした”

ES IST VOLLENDET DAS GEHEIMNIS DIESES GOTTES, WIE SIE ES VERKÜNDIGT HAT IHREN KNECHTEN, DEN PROPHETEN.
“この神の神秘は、彼女がそのしもべである預言者たちに伝えられ完成しました”

※11.signalisは様々な作品の影響が指摘されているが、わたしが思い出したのは『100万回生きたねこ』であった。

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