感覚(入力)と姿勢制御_3707文字

はじめに

正直、この言葉はとても苦手なワードです。
若手時代(今も時々ありますが…)

「ここに感覚を入れると体幹が伸展する」
「坐骨に感覚を入れると、臀筋が働く」
「胸郭のここに感覚を入れると、回旋が入りやすくなる」

など言われてきましたが、正直私には訳の分からない難しい言葉でした。
・感覚を入れるって何だろう。
・そのフィーリング、全然わからない。
と思っていましたが、たしかに目の前の対象者は変化している印象がありました。

もう少し、分かりやすく伝えることが出来ないかな、と悩みながら職場で物理療法(機能的電気刺激)を行っている際に気付きました。

モーターポイントを探す感覚に似ていて、やはりハンドリングでも電気でもケースの変化を感じ取る必要があると。電気は生理学メカニズムが説明出来るため理解が進みやすいんだろうな。(理解できるものは受け入れやすく、理解できないものは受け入れにくいというバイアスが強い藤田です)

では、ハンドリングにおいても感覚を入れる際に、重要となる知識は何なのか?
理解することで、感性を高めることが出来るかもしれない、と思ったことが学び始めたきっかけでした。

感覚(入力)とは?

感覚・知覚の定義を知ることが、感覚入力という言葉の理解に繋がると思うため、紹介致します。

感覚とは、ヒトが外界に適応して適切に行動するためには、生体内外の情報を正しく把握しなければならない。この種々の情報を受け取る機能が感覚である。
知覚とは、末梢受容器からの情報が大脳皮質へ到達すると我々は初めて感覚を意識すると共に、これまでの経験・記憶情報と照らし合わせて意味付けする。
(広瀬、2015)

臨床場面で考えると、以下の過程が挙げられます。
・療法士が徒手による介入を行う(感覚→知覚過程)
・対象者の変化が起こる/起こらない(知覚→行為過程)

療法士の介入により、受容器に刺激が加わり脊髄を上行し、大脳皮質を中心とした中枢神経系で統合される(感覚→知覚過程)。加えて辺縁系や基底核、小脳などによる補正が加わり、下降路として脊髄へ向かい運動が出力される(知覚→行為過程)。

感覚入力という言葉は、療法士から対象者への一方通行の刺激に考えられがちですが、療法士からの介入による感覚知覚過程、ケースの知覚行為過程という相互作用(やりとり)という意味付けが重要と感じています。

相互作用(やりとり)の中で、対象者は
・動かされている
・自分「も」動かしている
・自分「が」動いている
などの主体的感覚(=自己感)が生まれてくる可能性があり
出来る限り、能動的な自己感に繋がって欲しいと個人的に考えています。

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感覚と姿勢制御

人は大きく3つの感覚入力に基づいた処理を行っています。
①視覚
②前庭感覚
③体性感覚(表在感覚/固有感覚)
これら3つの感覚は、年齢や状況によって重み付け(Sensory re-weihting)が異なります。健常成人の重み付けは、体性感覚70%、前庭20%、視覚10%程度と報告されており(Horal 2006)、フレキシブルに変動することが可能である。

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発達過程から学ぶ感覚の重み付け変化として、乳児は重心の高低差などに敏感であり前庭系が優位になりやすく(高い高いが大好きなど)、幼児に成長するにつれて視覚の重みづけが大きくなり視覚優位の姿勢戦略となります。歩行経験の増加と共に、感覚運動経験が強化され体性感覚系が優位な重み付けへと変化していきます(Chen LCら2008)。
加齢が進むと筋力低下が見られ始め、同時に体性感覚系の退化が始まります。
同時期に起こる減少として足のひっかかりや転倒経験の増加などが挙げられます。つまり、体性感覚優位であった重み付けから視覚系への移行が起こります。 

脳卒中ではどう変化するのか?

脳卒中後60%以上に感覚障害を呈し(Careyら1993)、体性感覚での姿勢制御が困難となり、その結果前庭系や視覚での重み付けが優位となります(Bonanら2013)。視覚系が優位になることで、二重課題での歩行は困難となり、会話しながらの歩行、周囲を見渡しながらの歩行、暗闇(夜のトイレに向けての歩行)での歩行などに影響を受けることが推測されます。療法士は、筋肉を介して固有感覚入力を行い中枢神経系に働きかけ、出力の変化を導く役割を担っています。特に入力源の知識は大切であり、固有感覚の受容器は「筋肉、筋紡錘」となるため、どのように筋肉を活性化していくのかが臨床で求められます。

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ハンドリングと感覚入力

固有感覚からの入力情報を増やし、感覚の重み付け変化を促すことが大切であると考えます。ではどういった感覚入力を行うのか?というと目的とする課題によって異なります。筋紡錘は伸張することで感度が高まり、入力情報を中枢神経系へ送ることが可能となります。

そのため、目的とする課題はどんな筋活動が求められるのかを明確化することが求められハンドリングを行う前に療法士は、目標とする課題の構成要素の理解が重要になります

目的とする筋活動を活性化する段階では、神経学的、解剖学的な知識が役立ちます。同一筋肉においても、近位部・中間部・遠位部どの部位の活性化が必要となるのでしょうか?
神経学的には、1つの筋は異なった脊髄レベルの運動ニューロンによりコントロールされ、状況によって近位と遠位が異なった働きをすると報告されています
(AW English. et al. 1993)。
また解剖学的には、筋線維は起始部から停止部まで直接繋がった繊維は見られず、最大でも筋線維長の30%程度であり、ティラミスのように重なりながら走行しています。つまり神経学、解剖学から考察すると、具体的にどの部分に対し、ハンドリングを行うのか?といったアイディアが重要となります。

ハンドリングにおける感覚入力とは、大雑把に粗大な感覚刺激を加えるのではなく、具体的にどこに対して感覚入力を行うのかを明確にした、選択的な刺激が重要になります。


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終わりに

感覚(入力)と姿勢制御との関わりについて紹介させて頂きました。
私自身、臨床で良く聞いていた言葉でしたが、具体的な意味はなんだろう?と思い悩んでいました。概要程度ではありますが、個人の考えを述べさせて頂き、少しでも悩んでいる方々の視野が広がる視点として繋がれば嬉しく思います。

最後に、姿勢制御の項でも少しお伝えした臨床過程を述べさせて頂き、次の運動学習へ繋げていきたいと思います。

・対象者とのコミュニケーションの中で目標設定を行い
 (SDM:Shared Decision Making)
・目標の構成要素を明確化し(全体課題)、段階付けを行う
・段階付けに応じた構成要素(部分課題)を抽出
・動作分析=療法士の強み
・介入時に姿勢制御を背景とした感覚入力というハンドリングを行い、目的とする筋活動(時にシナジーも含む)を活性化する
・筋活動の活性化によるKinetic Chain(力学的連鎖)を求め、筋活動と筋活動の繋がりを深める
・1回の治療前後で設定した部分課題の達成を評価し、セルフトレーニングを伝えて運動学習へ

参考文献

1) 広瀬源二郎. 体性感覚と手の運動. Clinical Neuroscience33(5),2015

2) Horak FB. Postural orientation and equilibrium: what do we need to know about neural control of balance to prevent falls?. Age Ageing. 2006 Sep;35 Suppl 2:ii7-ii11.

3) Chen LC, Metcalfe JS, Chang TY, Jeka JJ, Clark JE.The development of infant upright posture: sway less or sway differently? Exp Brain Res. 2008 Mar;186(2):293-303.

4) AW English. et al, Compartmentalization of Muscles and Their Motor Nuclei: The Partitioning Hypothesis Arthur:PHYS THER. 1993; 73:857-867

5) I.V. Bonan et al. Sensory reweighting in controls and stroke patients. Clinical Neurophysiology 124 (2013) 713–722.

6) Carey LM. et al. Sensory loss in stroke patients: effective training of tactile and proprioceptive discrimination. Arch Phys Med Rehabil. 1993 Jun;74(6):602-11.

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