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ずんだもん×社会問題系YouTube動画の台本を分析してみた

2023年上半期、非属人系YouTubeチャンネルの中でもひときわ輝いている『だーまめ』さんの動画を視聴したので、自分なりに分析して勉強してみます。

今回視聴したのは1番再生数が伸びている『商店街の破壊神、イオンが出店して撤退したら街に起きたこと【ゆっくり&VOICEROID解説】』という作品。

「特定の企業を悪役に仕立てて切り込む」というスタンスにリスクを感じるため、自分には真似できないテイストの動画ですが、ヒット動画には必ず勉強になる部分があるため観察してみます。

企画

まずは企画(サムネ&タイトル)から見ていきます。

タイトルにある「商店街の破壊神」という言葉からわかるように、イオンという日本人全員が知っている企業を悪役に設定し、イオンと商店街による勢力争いの顛末を「〇〇の結果」というキャッチーな切り口でまとめた企画。

サムネイルの文言、動画の内容を踏まえると「○○の悲惨な末路」のパターンに分類される切り口です。

ここで重要だと感じた点が1つ。

イオンという有名な企業名を前面に出すことで、イオンを知る全日本人に対するフックとして機能することは「言われたらわかる」ことですが、本来「○○の悲惨な末路」は被害者側を主語にしやすい形です。

要するに、何も考えず「○○の悲惨な末路」の型に当てはめてしまうと、○○に入る主語は動画内で被害者側となる「淘汰された商店街」になりがちなのです。

もしサムネイルにある文章の主語をイオンではなく商店街にした場合、サムネイルのパワーは弱まっていたように思います。

少しわかりにくいので例を出します。つまるところ「○○の悲惨な末路」という型に当てはめる際、サムネにどデカく以下の言葉を入れがちなのです。

・かつて栄えていた商店街の悲惨な末路
・イオンに消された商店街の悲惨な末路

1案目の「かつて栄えていた商店街の悲惨な末路」は、とくに文章的な問題があるわけではないため単体で見ると無難に思えます。しかし、本家の文章である「街にイオンが来た結果」と比べれば印象が変わります。

・かつて栄えていた商店街の悲惨な末路
・街にイオンが来た結果

前者は文章が長いため、後者に比べて瞬時に意味が理解しづらいと感じませんか? また「イオン」の3文字がないぶん、言葉の引力が減ったとも感じます。

2案目の「イオンに消された商店街の悲惨な末路」は、冒頭に「イオンに消された」を入れたことで1案目より引きは強いですし、本家の文章より具体的ではあります。

ですが「具体性」と「パッと見の引きの強さ」を天秤にかけたとき、やはり本家の文章の方が総合的にパワーがあるように思いました。

・イオンに消された商店街の悲惨な末路
・街にイオンが来た結果

「多少文章が長くなった程度で『理解が難しくなる』なんて視聴者を舐めすぎでは?」と思われるかもしれませんが、画像にすると差は顕著になります。

以下をご覧ください。上側が本家の文章で、下側が先ほどの2案目です。どちらが端的にテーマの主旨と主役を伝えているのかは明白です。

下側の2案目はサムネイルの貴重なスペースをとりすぎてもいます

あらためて、だーまめさんのサムネイルを見てみましょう。もし以下サムネイルの上部文言が「イオンに消された商店街の悲惨な末路」だったなら、情報過多で読みにくい印象になると感じませんか?

以下画像のように上下に分割してもいいですが、そうするとハッピーワオンと心の声を入れるスペースが窮屈になり、視覚的な訴求が弱まりそうです。

このほか、勉強になったサムネイルの要素は以下です。

・左から順に黒くなるワオンで状況悪化を表現
・無責任な「悪役の心の声」で不快感を演出
※その他、グリッチ加工で徐々にワオンが壊れていく表現をするなど「色々と細部までこだわっていらっしゃるんだな」と思いました。

バランス感覚が優れた人は、こういうアウトプットを何気なく放ってくるのですが、凡人にとっては高難度です。

イオンとハッピーワオンの弄り方はきわどい印象ですが、動画の入り口としての完成度はピカイチだと思いました。

台本

台本の切り分け方は迷いましたが、主観で冒頭・序盤・中盤・終盤に分割してみました。「○○分経過したから中盤だな」といった分け方ではなく、大きな場面転換を分割点としています。

冒頭 0:00~0:30

注意書きから始まり、冒頭30秒までずんだもん目線で商店街の魅力を語ることで、一気に「商店街のある生活」を追体験できる展開。

私自身、幼少期は商店街の近くで過ごしていたため、かつて存在した温かい世界観を思い出させられました。イオン誘致後、地元の商店街もシャッターだらけになったようです。

個人的な学びポイント
視聴者に「どの目線で事の顛末を見てほしいか」を明確化し、神の視点ではなく登場人物の視点からストーリーを始めていることが、世界観へ引き込む力を強力にしていると感じた。

序盤 0:30~2:47

商店街の店主らとずんだもんの掛け合いを通じて、まだ力関係が商店街優位な状況からスタート。温かい人間同士の営みを映しておくことで、動画が単なる社会問題の説明に終わらず、だんだん廃れゆく商店街側に感情移入できるストーリーへ昇華されるのだと感じました。

また、同チャンネルの動画に共通することとして、ちょっとした小ネタが挟まれているのも特徴。

本動画であれば「野菜食べてて偉い」という意見に対して「野菜はおいしいから食べるんだよ」とずんだもんが応答していますが、これは某実業家さんの発言を意識したものと思われる……などなど。

個人的な学びポイント
笑いを誘うネタを入れる際、以下が意識されているように感じた。
・ネタがストーリー進行を阻害しない
・ほどほどに広く認知されたネタ選び
・知らなくてもシラケない薄味のネタ
結果、知っている人はクスッと笑えるし、知らなくても違和感なく視聴できる。

中盤 2:47~10:23

商品の質・速さ等に自信のある商店街店主らに対し、イオン社員がことごとく「それイオンの方が優れています」と打ち砕いていく局面。“論破感” があり、徐々に打ち砕かれるスピードが増していく演出も相まって、商店街側への感情移入はありつつも一方的で爽快な試合を見ているような感覚に。

いったんは商店街側の肩を持つ市長登場により安堵感が漂うものの、状況が一転してイオンを誘致する流れとなり、うまく「平穏な日常 ⇔ 緊迫した状況」が交互に演出されていると感じた。緩急がつくと飽きないし、動画を飛ばせない。

一連のやり取りののち、商店街が閑散とする悲しい状況に突入。肉屋のおばあちゃんによる「商店街の弱み」と「イオンの強み」の解説により、イオン参入による商店街衰退の構造が理解できて “勉強になる感” を体感できる点も視聴価値が高く感じられて◎

面白いストーリーだけだと、人によっては「こんなに長時間見ちゃった。時間を無駄にしたかな?」と思いそうですが、勉強になる解説パートが組み合わさることで罪悪感なくグイグイ観れるのが素敵だと感じました。そして、その配分のバランス感覚がすごい。

個人的な学びポイント
「視聴者に抱かせたい感情」に合わせてBGMを変更したり、イオン社員が論破を繰り返すとき徐々にテンポを上げて飽きを防いだり、視聴側の感情の予想と誘導が細かく行われている。目まぐるしく展開を変えているから中盤に差し掛かっても飽きがこない。

終盤 10:23~

イオンの勢いが落ち始める局面からストーリーが始まり、実際に同社が行ったと思われる悪手を列挙。ここからは「商店街の悲惨な末路」から「イオンの悲惨な末路」に変わっており、悲劇の主役が変わったことで展開のもたつきを感じず視聴できました。

おばあちゃん引越しの伏線回収など、情緒の蓄積と解放が細かく行われているところに丁寧さを感じ、短編映画を観たような満足感があるのもファンが多い理由だと感じます。

個人的な学びポイント
この動画ほど上手くできないとしても、おばあちゃん引越しのような「動画を飛ばさず観た人の感情を揺さぶる展開」を入れるのは、熱心に観てくれた視聴者の満足感を高めるうえで大事そう。

まとめ

色々と勉強になる動画でした。
とくに以下の要素は積極的に取り入れたいと感じます。

題材次第ではよく活用できそうなポイント
・広く認知された存在をフックにする
・動画の顔となる文章はとことん圧縮
・場面の緩急を意識して飽きさせない
・通しで視聴した人に報酬を用意する

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