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旧司法試験 刑法 平成11年度 第1問


問題

甲と乙は、乙の発案により、路上で通行人を恐喝して金を取ることを計画し、ある夜、これを実行に移すことにした 。予定の場所に先に来た甲は、約束の時間を過ぎても乙が現れないため、いらいらしていたが、そこに身なりの良いAが通り掛かったので、計画を実行することにし、Aに近づいて、「金を出せ 。」と脅した。
Aが逃げようとしたため、気の短い甲は、いっそAを気絶させた方が手っ取り早いと考え、携帯していたナイフの柄の部分で背後からAの頭を力任せに殴った 。そこに現れた乙は、それまでのすべての事情を了解し、甲と一緒に、意識を失いぐったりしたAの懐中から金品を奪った。乙が一足先に立ち去った後、甲は、Aの様子がおかしい事に気付き、息をしていないように見えたことから既に死亡しているものと誤信し、犯行の発覚を防ぐため、Aの身体を近くの山林まで運び、茂みの中にそのまま放置した。Aは頭部に受けた傷害のため数時間後に死亡した 。
甲及び乙の罪責を論ぜよ(特別法違反の点は除く。)。

関連条文

刑法
38条(第1編 総則 第7章 犯罪の不成立及び刑の減免):故意
60条(第1編 総則 第11章 共犯):共同正犯
190条(第2編 罪 第24章 礼拝所及び墳墓に関する罪):死体損壊等
207条(第2編 罪 第27章 傷害の罪):同時傷害の特例
218条(第2編 罪 第30章 遺棄の罪):保護責任者遺棄等
236条(第2編 罪 第36章 窃盗及び強盗の罪):強盗
240条(第2編 罪 第36章 窃盗及び強盗の罪):強盗致死傷
249条(第2編 罪 第37章 詐欺及び恐喝の罪):恐喝罪
250条(第2編 罪 第37章 詐欺及び恐喝の罪):未遂罪

問題文の着眼

乙は遺棄された時点では生きていた、乙は暴行の効果を利用した

一言で何の問題か

因果関係(介在事情)、抽象的事実の錯誤、共謀の射程(承継的共同正犯)

答案の筋

甲は 、A が既に死亡したものと誤信して、山林に放置しているが、死亡の直接原因は殴打行為であり、遺棄という介在事情の結果への寄与度はほぼない。また、保護責任者遺棄罪と死体遺棄罪は、人ないし遺体を遺棄する点で行為態様に重なり合いはあるも、保護法益に重なり合いはなく、構成要件的な重なり合いを肯定することはできず、どちらの罪責も負わない。
乙は、Aから金品を奪うにあたり、甲の暴行により作出された反抗不能状態を利用したにとどまっており、死亡結果までは利用しておらず、強盗罪の共同正犯が成立するにとどまる。

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