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司法試験予備試験 行政法 令和2年度


問題

A市では、A市開発事業の手続及び基準に関する条例(以下「条例」という。)が定められている。条例においては、都市計画法(以下「法」という。)第29条第1項に基づく開発許可が必要な開発事業を行おうとする事業者は、開発許可の申請に先立って市長と事前協議をしなければならず、また、開発事業の内容等について、周辺住民に対して説明会を開催するなどの措置を講じることとされている。なお、A市長は、地方自治法上の中核市の長として、法第29条の開発許可に関し都道府県知事と同じ権限を有している。また、これらの条例の規定は、法の委任に基づくものではないが、その内容に違法なところはない。
 Bは、A市において、平成15年から産業廃棄物処理施設(以下「第1処分場」という。)を営んでいる。平成25年になって、Bは、第1処分場の隣接地に新たな産業廃棄物処理施設(以下「第2処分場」という。)を設置することを計画した。第2処分場を設置するための土地の区画形質の変更(土地の区画変更、切土・盛土など)は、条例第2条第1項第1号の開発事業に該当するため、Bは、A市長に対し、条例第4条に基づく事前協議を申し入れた。この第2処分場の設置に対しては、生活環境の悪化を危惧する周辺住民が強い反対運動を行っていたことから、A市長は、Bに対し、条例に定められた説明会を開催した上で、周辺住民の同意を得るように指導した。Bはこれに従って、周辺住民に対し、説明会の開催を提案したが、周辺住民は説明会をボイコットし、同意も一切しなかった。
 Bは、第2処分場の設置に係る開発事業は、法の規定に照らして適法であり、たとえ周辺住民の同意がなくても、A市長が開発許可を拒否することはできないと考え、A市長に対し、事前協議を開始するよう改めて申し入れた。そこで、A市長は、条例による手続を進め、Bに対して開発許可を与えることにした。その一方で、A市は、周辺住民の強力な反対を考慮し、Bとの間で開発協定を締結し、その協定においては、「Bが行う廃棄物処理事業に係る開発事業については、今回の開発区域内の土地及び規模に限るものとし、今後一切の例外は認めない。」という条項(以下「本件条項」という。)が定められた。Bは、本件条項を含む開発協定の締結には当初難色を示したが、周辺住民との関係を改善することも必要であると考え、協定の締結に同意した。なお、この開発協定は、法や条例に根拠を有するものではなく、また、法第33条第1項及び条例の定める基準には、本件条項に関係するものは存在しない。
 令和2年になり、第2処分場がその容量の限界に達したため、Bは更に新たな産業廃棄物処理施設(以下「第3処分場」という。)を設置することを計画した。第3処分場を設置するための土地の区画形質の変更も条例第2条第1項第1号の開発事業に該当するため、Bは、同年6月、A市長に対し、条例第4条に基づく事前協議を申し入れた。A市長は、同年7月、Bに対し、「本件条項により、第3処分場の設置に係る開発事業についての協議を受けることはできない。」という内容の通知(以下「本件通知」という。)をした。Bは、本件条項の法的拘束力に疑問を抱いており、また、本件条項を前提としたA市長の対応に不満であることから、本件通知の取消訴訟を提起することを考えている。

以上を前提として、以下の設問に答えなさい。
なお、法及び条例の抜粋を【資料】として掲げるので、適宜参照しなさい。

【設問1】

本件条項に法的拘束力は認められるか。本件条項の性質を示した上で、法の定める開発許可制度との関係を踏まえて、検討しなさい。なお、第2処分場の設置に当たってなされたA市長の指導は適法であることを前提にすること。

〔設問2〕

本件通知は、取消訴訟の対象となる処分に当たるか。Bの立場に立って、想定されるA市の反論を踏まえて、検討しなさい。

〔資料〕

〇都市計画法(昭和43年法律第100号)(抜粋)
(定義)
第4条 1~11 (略)
12 この法律において「開発行為」とは、主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行なう土地の区画形質の変更をいう。13~16 (略)
(開発行為の許可)
第29条 都市計画区域又は準都市計画区域内において開発行為をしようとする者は、あらかじめ、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事(中略)の許可を受けなければならない。(以下略)
2・3 (略)
(開発許可の基準)
第33条 都道府県知事は、開発許可の申請があつた場合において、当該申請に係る開発行為が、次に掲げる基準(中略)に適合しており、かつ、その申請の手続がこの法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは、開発許可をしなければならない。(以下略)
2~8 (略)

〇A市開発事業の手続及び基準に関する条例(抜粋)
(目的)
第1条 この条例は、開発事業の計画に係る事前協議等の手続及び都市計画法(昭和43年法律第100号。以下「法」という。)の規定に基づく開発許可の基準その他開発事業に関し必要な事項を定めることにより、良好な都市環境の保全及び形成を図り、もって秩序ある調和のとれたまちづくりに寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 開発事業法第29条第1項(中略)の規定による開発行為の許可(中略)を要する開発行為をいう。
二 開発事業区域開発事業を行おうとする土地の区域をいう。
三 事業者開発事業を行おうとする者をいう。
2 前項に規定するもののほか、この条例において使用する用語は、法(中略)において使用する用語の例による。
(事前協議)
第4条 事業者は、開発事業を行おうとするときは、あらかじめ、規則で定めるところにより、開発事業の計画について市長と協議しなければならない。
(事前周知)
第8条 事業者は、規則で定めるところにより、開発事業(中略)の計画の内容、工事の概要、環境への配慮等について、当該開発事業を行う地域の周辺住民等に対しあらかじめ説明会を開催するなど当該開発事業に関する周知について必要な措置を講じ、その結果を市長に報告しなければならない。
(指導及び勧告)
第10条 市長は、次の各号のいずれかに該当する者に対し、必要な措置を講じるよう指導し、又は勧告することができる。
一 第4条(中略)の規定による協議をせず、又は虚偽の内容で協議を行 った者
二~五(略)
(命令)
第11条 市長は、前条の勧告を受けた者が正当な理由なくこれに従わないときは、開発事業に係る工事の中止を命じ、又は相当な期限を定めて違反を是正するために必要な措置を講じるよう命じることができる。

関連条文

民法
90条(第1編 総則 第5章 法律行為):公序良俗
行訴法
3条2項(第1章 総則):抗告訴訟(処分の取消しの訴え)

一言で何の問題か

1 法的拘束力
2 処分性

つまづき・見落としポイント

1 法律による行政の原理↔︎公害防止協定↔︎比例原則
2 前倒し的な法効果の読み込み、連動性の程度

答案の筋

概説(音声解説)

https://note.com/fugusaka/n/n96c4eb7f377c

1 当該条項は法律による行政の原理に反すると思われるも、公害防止協定に類似した法的拘束力が認められるとも思える。しかし、比例原則に反して公序良俗に違反するため、法的拘束力は認められない。
2  処分の定義
(公権力性、直接具体的な法的効果及び権利救済の必要性)
➡︎公権力性(条例4条の解釈)
 A市:手続の明記なし、本件通知は本件条項に依拠
 B:協議の手続として市長が事業者からの協議申入れに応じるかの通知をすることが暗黙的に予定されており、本件通知には公権力性○
3.直接具体的な法的効果
 A市:法や条例では協議の結果が開発許可の要件とされていない、勧告・指導に従わない場合にはじめて中止命令がなされるため法効果の前倒し的な読み込みはできない
 B:直接的な法効果性はないとも思える。しかし、中止命令が出た後の不利益、出るまで抗告訴訟ができないという事業者が受ける深刻な不利益やリスクを鑑みると本件通知段階での救済の必要性が高まる。
4.結論
 直接的な法効果性が明確でないとはいえ、救済の必要性を考慮すれば、本件通知は「処分」として認識すべきである。

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