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司法試験 倒産法 平成25年度 第2問


問 題

次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
建設業を営むX株式会社(以下「X社」という。)は,A株式会社(以下「A社」という。)からマンションの建築工事の注文を受け,平成24年9月1日,A社との間で,請負代金総額10億円,工事期間10か月間として,建築工事請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結し,着工した。本件請負契約においては,請負代金の支払条件として,着工時である同日に前受金として4億円を支払い,その後は,同年12月末日に5億円の中間金を支払い,マンションの引渡し時に1 億円を支払うことと約定されていた。また,本件請負契約の締結に際し,A社は,B銀行との間で,本件請負契約に基づいてX社が受領した請負代金を何らかの事情によりA社に返還しなければならない場合には,X社の当該返還債務をB銀行が連帯して保証する旨の契約を締結した。
ところが,X社は,C銀行を始めとする金融機関から総額35億円の融資を受けていたほか,下請業者に対して買掛金債務等を合計2億2000万円負担し,総額で,37億2000万円の負債を有しており,平成25年4月15日には,同日を支払期日とする7500万円の約束手形の決済が困難なことが判明した。そこで,X社は,同日,裁判所に破産手続開始の申立てを行ったため,即日に破産手続開始の決定を受けるに至り,弁護士Yが破産管財人に選任された。
当該破産手続開始の決定の時において,X社がA社から請け負ったマンションの出来高は,85%に過ぎなかったが,X社は,前受金を含め,A社から,既に9億円の請負代金を受領していた。また,X社は,本件請負契約に関し,下請業者であるD株式会社(以下「D社」という。)との間で,毎月末日に出来高を確認して翌月末日にその出来高相当額を支払うという条件により,請負契約(以下「本件下請契約」という。)を締結しており,X社に対する破産手続開始の決定があった時点におけるD社の施工の出来高も,本件下請契約の対象となる工事全体の85%であったが,X社は,本件下請契約の請負代金総額6億円のうち,出来高70%相当額の4億2000万円しか支払っておらず,同年3月分の請負代金6000万円と同年4月の15日間の請負代金3000万円の合計9000万円が未払の状態となっている。
なお,本件請負契約及び本件下請契約において,出来高は,A社に帰属するものとされている。

〔設 問〕 以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.⑴ Yは,本件請負契約に基づく建築工事の継続を断念し,D社との間の本件下請契約も,解除した。この場合において,D社の有する本件下請契約に基づく請負代金請求権の行使方法について,論じなさい。
⑵ Yは,裁判所の許可を得て,本件請負契約に基づく建築工事を継続することとし,D社との間の本件下請契約に基づく建築工事は,継続されることとなった。この場合において,D社が有する本件下請契約に基づく請負代金請求権の行使方法について,論じなさい。
2.Yは,本件請負契約に基づく建築工事について,このままD社を含む下請業者へ即時現金払で継続した場合には,資金繰りが続かないおそれがあると判断し,本件請負契約を破産法第53条第1項の規定に基づき,解除した。しかし,出来高がいまだ85%に過ぎなかったため,A社は,Yに対し,既にX社に支払った本件請負契約に基づく請負代金9億円のうち,出来高の未達成部分である5000万円の返還を請求した。
⑴ A社のYに対する請負代金返還請求権の破産手続における法的性質について,論じなさい。
⑵ A社は,請負代金の返還を求めるに当たり,X社の破産財団が換価手続中であり,いまだ資金がない状態であると考え,連帯保証人であるB銀行に対し,保証債務の履行を求めたため,B銀行は,この連帯保証債務を履行し,5000万円の求償債権を有するに至った。この場合において,B銀行のYに対する権利行使の方法について,論じなさい。

関連条文

破産法
2条5項(第1章 総則):定義(破産債権)
53条1項(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):
 双務契約(双方未履行双務契約)
54条2項(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):同上
148条1項7号(第5章 財団債権):
 財団債権となる請求権(53履行の場合の相手方の請求権)

民法
459条(第3編 債権 第1章 総則 第3節 多数当事者の債権及び債務):
 委託を受けた保証人の求償権
499条(第3編 債権 第1章 総則 第6節 債権の消滅):弁済による代位の要件
642条1項・2項(第3編 債権 第2章 契約 第9節 請負):
 受任者による費用等の償還請求等(チュウミン)

一言で何の問題か

契約解除の有無に伴う未払報酬請求権、契約解除後の請負代金返還請求権とその求償権

つまづき・見落としポイント

請負人の破産と53条や民法642条2項との関係

答案の筋

概説(音声解説)

https://note.com/fugusaka/n/n9c14369c3c20

1⑴ 請負人は完成部分に対応する未払報酬代金について、破産債権としての権利行使が認められる。
1⑵ 請負目的物の出来高が可分のものとして想定できるときは,出来高に応じた報酬の分割も可能である。また,解除された場合の均衡の観点から、破産手続開始決定前の財産上の請求権は「破産債権」に当たるのが原則であり、破産手続開始決定前の仕事に応じた報酬請求権は破産債権として扱うべきである。
2⑴ 双方未履行双務契約の解除がされた場合の相手方は,破産者の受けた反対給付が破産財団内に現存しない場合には,その価額について財団債権者として権利を行使することができるところ、前払金は混同により破産財団内の金銭と一体となっており現存しないため、財団債権として行使できる。
2⑵ 上記前払金返還請求権について、連帯保証債務を履行して事後求償権(破産債権)を取得した場合、担保的機能という法定代位制度の趣旨及び、もともと財団債権の行使を甘受せざるを得ないという他の破産債権者の地位を考慮すると、代位弁済者は原債権と同様に(破産債権ではなく)財団債権として行使できる。

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