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旧司法試験 民法 平成20年度 第2問


問題

 Aは、Bに対して、100万円の売買代金債権(以下「甲債権」という。)を有している。Bは、Cに対して、自己所有の絵画を80万円で売却する契約を締結した。その際、Bは、Cに対して、売買代金を甲債権の弁済のためAに支払うよう求め、Cもこれに同意した。これに基づき、CはAに対して80万円を支払い、Aはこれを受領した。この事案について、以下の問いに答えよ。なお、各問いは、独立した問いである

1甲債権を発生させたAB間の売買契約がBの錯誤により無効であったとき、Cは、Aに対して80万円の支払を求めることができるか。Bに対してはどうか。

2甲債権を発生させたAB間の売買契約は有効であったが、BC間の絵画の売買契約がBの詐欺を理由としてCによって取り消されたとき、Cは、Aに対して80万円の支払を求めることができるか。Bに対してはどうか。

関連条文

民法
95条(第1編 総則 第4章 物):錯誤
96条(第1編 総則 第4章 物):詐欺又は強迫
474条(第3編 債権 第1章 総則 第6節 債権の消滅):第三者の弁済
537条1項(第3編 債権 第2章 契約 第1節 総則):第三者のためにする契約
539条(第3編 債権 第2章 契約 第1節 総則):債務者の抗弁
703条(第3編 債権 第4章 不当利得):不当利得の返還義務

一言で何の問題か

第三者のためにする契約、第三者弁済、不当利得返還請求

答案の筋

1 諾約者Cが受益者Aに対して行った弁済(第三者のためにする契約)は、BC間の補償関係に基づいてなされたものであり、AB間の対価関係の無効によって影響を受けない。よって、Cの弁済の効力は存続し、80万円の支払債務は消滅し、Cに「損失」は認められず、不当利得に基づく返還の前提を欠くため、CはA及びBのいずれに対しても請求できない。
2 弁済をするについて正当な利益を有しない第三者の弁済も、債務者の意思に反しない限り有効であるところ、BC間の契約に基づく売買代金を、甲債権の弁済のためにAに支払うよう求めたのは、債務者Bであるから、Cの弁済は第三者弁済として有効であり、Aの利得は「法律上の原因」があるため、CはAに不当利得に基づく返還請求を行うことはできない。また、Bの債務をCが代わって弁済することは、BC間の補償関係の存在を前提としていた以上、補償関係が無効となっている事情の下では、Aへの債務を免れたというBの利得は「法律上の原因のない」ものであるため、CはBに不当利得に基づく80万円の返還を請求することができる。

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