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旧司法試験 商法 平成15年度 第1問


問題

次の各事例において、会社法上、A株式会社の取締役会の決議が必要か。ただし、A会社は、会社法上の大会社ではないものとする。
1 A会社の代表取締役BがC株式会社の監査役を兼任する場合において、A会社がC会社のD銀行に対する10億円の借入金債務について、D銀行との間で保証契約を締結するとき。
2 A会社の取締役EがF株式会社の発行済株式総数の70%を保有している場合において、A会社が、F会社のG銀行に対する1000万円の借入金債務について、G銀行との間で保証契約を締結するとき。
3 ホテルを経営するA会社の取締役Hが、ホテルの経営と不動産事業とを行うI株式会社の代表取締役に就任して、その不動産事業部門の取引のみを担当する場合。

関連条文

会社法
2条6号イ(第1編 総則 第1章 通則):定義(大会社)
356条1項(第2編 株式会社 第4章 機関 第4節 取締役):
 競業及び利益相反取引の制限
362条4項2号(第2編 株式会社 第4章 機関 第5節 取締役会):
 取締役会の権限等(多額の借財)
365条1項(第2編 株式会社 第4章 機関 第5節 取締役会):
 競業及び取締役会設置会社との取引等の制限
381条1項(第2編 株式会社 第4章 機関 第7節 監査役):
 監査役の権限

一言で何の問題か

利益相反取引、競業取引

つまづき、見落としポイント

大会社でないことの意図、70パーセント保有の効果

答案の筋

1 監査役の権限は会社の業務の監査に限られるから、会社の業務執行自体との関係性は、業務執行を直接行う取締役に比べて、希薄である。よって、当該取引と監査役であるB自身の利益が結びついているとは言えず、間接取引には当たらない。もっとも、「多額の借財」に該当し、取締役会決議が必要となる。
2 EはF社の株式の70パーセントを有しており、特別決議を含む株主総会決議を通すことができ、F社に対する支配力・影響力は非常に強いと言える。よって、当該取引はEの利益と強く結びついており、一方でA社は保証債務の負担という損失を受けるから、間接取引に該当し、取締役会決議が必要となる。
3 取締役である以上は、取締役会に出席し、ホテル経営に関する議題についての決議に加わって積極的な発言をしたり、善管注意義務としてホテル事業に関与することも当然あり得るのであるから、A社の取引と競争関係が生じるおそれが認められる。よって、「会社の事業の部類に属する取引」にあたり、競業取引に該当し、取締役会決議が必要となる。

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