見出し画像

司法試験 倒産法 平成26年度 第2問


問題

次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
A株式会社(以下「A社」という。)は,不動産賃貸業を営む会社であり,Bはその代表者である。A社は,平成15年,同社の所有する敷地上に甲ビルを建築し,Cに対し,賃貸期間を15年,賃料を月額100万円,敷金を1000万円と定め,同ビルを貸し渡した(以下「本件賃貸借契約」という。)。また,本件賃貸借契約の締結に当たり,Cは,A社に対し,3000万円を貸し付け,A社は,平成20年3月から毎月末日限り50万円ずつ分割して同債務を弁済する旨約した。なお,A社は,甲ビルを建築するに当たって,D銀行から5億円を借り入れ,その際,甲ビル及びその敷地に同行を抵当権者とする抵当権を設定し,その登記もされたが,本件賃貸借契約は,上記抵当権設定登記を備える以前に締結され,Cは同ビルの引渡しも受けていた。また,A社は,そのころ,A社の関連会社がE銀行に対して負う借入債務を連帯保証した。A社は,平成20年頃から,株式取引の失敗等により経営が次第に悪化し,平成22年12月以降,甲ビル及びその敷地についてD銀行による担保権実行が避けられない状況にあった。そこで,A社は,平成23年3月9日,再生手続開始の申立てをし,同日,監督委員が選任され,同月14日,再生手続開始の決定がされた。同手続の開始当時の債権者は,C(Cの債権の内訳は,上記敷金の返還請求権が1000万円,上記貸金の返還請求権が1200万円であり,A社は当該貸金債権について期限の利益を喪失していない。),D銀行及びE銀行であった。
A社は,D銀行の有する抵当権について担保権消滅の許可の申立てをすることを前提として事業を継続するとともに,スポンサーから資金提供を受けて弁済を行う旨の再生計画案の作成を予定し,各債権者にその概要を説明したところ,本件賃貸借契約の継続を希望するCは,その計画案であれば破産手続の方が貸金債権及び敷金返還請求権の回収にとって有利な事情があると考
え,また,D銀行も破産手続の方が甲ビル及びその敷地を高額で任意売却できると見込んだことから,当該再生計画案に賛意を表明しなかった。このため,当該再生計画案が提出された場合には,C及びD銀行がこれに反対することが予測された。
そこで,Bは,再生手続開始の決定後,平成23年4月15日までと定められた再生債権の届出期間の経過前に,E銀行のA社関連会社に対する上記債権の回収可能性が極めて低いことを知りながら,実価を超える価額でE銀行から同債権を譲り受け,これによってA社に対する保証債務履行請求権を取得し,更にその一部をBの親族であり,A社の取締役であるF及びGに分割譲渡した。その後,B,F及びGは,A社に対して有する債権の届出をそれぞれ行い,A社は,B,C,D銀行,F及びGの届け出た債権の全額をいずれも認め,再生債権者は届出債権について異議を述べなかった。
最終的にA社が提出した再生計画案は,債権者にその概要を説明したものと同様の内容であり,再生会社がスポンサーとなる企業から融資を受けて,再生債権者に対し,再生計画の認可決定の確定後3か月以内に再生債権額の3%を一括で支払うというものであり,Cの有する敷金返還請求権については,民事再生法の規律に従った内容の条項が定められていた。なお,A社の予想清算配当率は1%未満であった。
〔設 問〕
1.Cが,下線 を引いた部分に示されているように,破産手続の方が貸金債権及び敷金返還請求権の回収にとって有利な事情があると考えた理由は何か。Cの有する上記敷金返還請求権に関する再生計画案の条項の内容がいかなるものであったかについても検討の上,敷金の取扱いや相殺権に関する破産法の規律と民事再生法の規律の違いを踏まえ,論じなさい。
なお,本件賃貸借契約の終了後,Cが行うべき原状回復の費用としては100万円を要する見込みであり,また,同契約に基づく賃料の不払や遅滞がないことを前提とする。
2.上記事例において,A社の提出した再生計画案は,平成23年12月5日に開催された債権者集会において,C及びD銀行の反対にもかかわらず,届出再生債権者の過半数であり,議決権総額の2分の1以上の議決権を有するB,F及びGの同意を得て可決された。
上記再生計画を裁判所が認可すべきかどうかについて,論じなさい。

関連条文

民事再生法
92条1-3項(第4章 再生債権 1節 再生債権者の権利):相殺権
172条の3第1項1,2号(第7章 再生計画 3節 再生計画案の決議):
 再生計画案の可決の要件
174条1,2項(第7章 再生計画 4節 再生計画の認可等):
 再生計画の認可又は不認可の決定
破産法
67条1項,2項前(第2章 破産手続の開始 3節 破産手続開始の効果):
 相殺権
70条後(第2章 破産手続の開始 3節 破産手続開始の効果):
 停止条件付債権等を有する者による寄託の請求
103条3項(第4章 破産債権 1節 破産債権者の権利):
 破産債権者の手続参加(現在化) 

一言で何の問題か

1 貸金債権と敷金返還請求権の破産及び民事再生手続における違い
2 不正の方法による決議要件の潜脱

つまづき・見落としポイント

民再92条2項の解釈
「前項の債権届出期間内に限り」とあるように、前項の内容である相殺適状となっていることが前提(あくまで弁済期を迎えている自働債権は3月末日期限の50万円のみ、残りの1150万円は期限未到来)
また、カッコ書の対象は受働債権(債務)であり、その限度額である600万円について言及しているだけであり、これと弁済期未到来の1150万円とを相殺できるわけではない

答案の筋

概説(音声解説)

https://note.com/fugusaka/n/n40b4b0699c63?sub_rt=share_pw

1 貸金債権について、Cは破産手続によれば実質的に全額回収できる一方,民事再生手続によれば相殺によって50万円を回収できるほか,残額1150万円については再生計画による配当としてその3%たる34万5000円を回収できるのみである。また、敷金返還請求権について、Cは破産手続によれば900万円を実質的に回収できる一方,民事再生手続によれば,敷金1000万円のうち550万円分については共益債権として優先弁済を受けることができるが,その残額450万円から原状回復費用100万円を控除した350万円については,再生債権となり,再生計画による配当としてその3%たる10万5000円を回収できるのみである。
2 A社の代取BがE銀行のAに対する債権を実価を超える価格で買収して,一部をF及びGにも分割譲渡した行為は、決議要件(頭数要件、議決権額要件)を潜脱する目的を有しての再生債務者自身による充足と同視でき、再生債権者一般の利益を害するのは明らかであり、再生計画案の可決は信義則に反する行為に基づいてなされたといえるため、裁判所は不認可決定をすべきである。

ここから先は

3,317字

¥ 1,000

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?