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司法試験 倒産法 平成28年度 第1問


問題

次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
A商事株式会社(以下「A社」という。)は,長年,食品製造機械メーカーであるB社及びC社から機械を仕入れ,得意先の食品製造会社であるD社やE社らに販売していた。
A社は,市場の縮小傾向により,徐々に経営が苦しくなり,ここ数年は赤字決算を繰り返していたが,平成28年3月末日の資金繰りに窮し,同月25日,取締役会において破産手続開始の申立てを行う旨決議し,支払を停止した。その後,A社は,同年4月1日,破産手続開始の申立てを行い,同月5日,破産手続開始の決定を受け,破産管財人Xが選任された。

〔設 問〕
以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.A社は,平成27年12月10日,B社から機械αを代金1000万円で購入し,同日,その引渡しを受けたが,代金の支払期日は平成28年3月末日とされていた。A社は,この機械αの売却先を探していたところ,同月15日,D社との間で,機械αを1500万円で売却する売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結することができた。なお,機械αの引渡
し及び代金の支払期日は,D社の買取り資金の調達の都合により,いずれも1か月後の同年4月15日とされ,所有権の移転時期も同日とされていた。
A社の破産手続開始時において,本件売買契約に基づくA社及びD社の各債務は,双方とも履行されておらず,機械αはA社の自社倉庫内に保管されていた。破産管財人Xは,選任された直後,B社からは,機械αの代金1000万円を支払うか,それができないとすれば機械αを返還するよう求められ,D社からは,本件売買契約に従い機械αを引き渡すよう求められた。
⑴ B社は,機械αの代金1000万円を回収したいと考えている。この債権の回収につき,考えられる法的根拠及び権利行使の方法を論じなさい。なお,B社は,本件売買契約の存在を知らないこととする。
⑵ Xは,機械αの代金1500万円をD社から回収し,破産財団を増殖したいと考えている。
Xがこの代金を回収する場合に,破産手続上必要とされる手続及び効果について,その制度趣旨を踏まえて,論じなさい。
⑶ Xは,⑵の手続を経て,D社から機械αの代金1500万円を回収した。その後,この事実を知ったB社は,破産財団から優先的に機械αの代金相当額である1000万円の弁済を受けたいと考えた。B社は,破産財団から優先的に弁済を受けることができるか。予想されるXからの反論を踏まえて,論じなさい。

2.A社は,かねてからC社に運転資金の融通を求めていたところ,C社は,これに応じ,平成27年9月25日,A社に対し,弁済期を平成28年9月末日として,2500万円を貸し付けた(以下,この貸付に係る債権を「本件貸付金債権」という。)。
A社は,平成28年1月20日,C社から機械βを代金2000万円で購入し,同日,その引渡しを受けたが,代金の支払期日は同年3月末日とされていた。そこで,A社は,C社の要請に応え,この売買契約の締結と同時に,C社との間で,C社のA社に対する売買代金債権2000万円を担保するため,機械βにつき譲渡担保権を設定する内容の譲渡担保契約(以下「本
件譲渡担保契約」という。)を締結した。本件譲渡担保契約には,A社が支払を停止したときは当然に期限の利益を喪失し,C社は譲渡担保権の実行として,自ら機械βを売却し,清算をするとの約定があった。
A社の支払停止時,機械βはA社の自社倉庫内に保管されていたが,A社の支払停止を知ったC社は,本件譲渡担保契約に基づき,直ちにA社の同意を得て機械βを引き揚げた(なお,この引揚げは適法なものとする。)。
A社の破産手続開始後,得意先であったE社は,C社が機械βを引き揚げたとの情報を得,C社に対し,是非購入したいと申し入れた。そこで,C社は,E社に機械βを売却することとしたが,一旦商品として出荷された機械の価値は中古市場においては半減することが通常であるため,その売却価格は,A社の通常販売価格である3000万円の半額程度とされてもやむを得ないと考えていた。ところが,交渉の結果,E社への売却価格は,通常販売価格の8割に相当する2400万円となり,これによって,C社は,A社に対する売買代金債権2000万円を全額回収できた上,期待していなかった剰余金400万円が生じた。本件譲渡担保契約は,前記の約定のとおりいわゆる処分清算型とされており,C社はこの剰余金400万円をA社に返還する債務を負うこととなった。
そこで,C社としては,A社のC社に対する剰余金返還債権400万円と本件貸付金債権2500万円との相殺をしたいと考えている。C社の相殺は認められるか。破産法の条文の構造と予想されるXの反論を踏まえて,論じなさい。

関連条文

破産法
2条5項(第1章 総則):定義(破産債権)
2条9項(第1章 総則):定義(別除権)
34条(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):破産財団の範囲
53条1項(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):双務契約
65条(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):別除権
67条(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):相殺権
71条1項(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):相殺の禁止
72条(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):同上
78条(第3章 破産手続の機関 第1節 破産管財人):破産管財人の権限
85条(第3章 破産手続の機関 第1節 破産管財人):破産管財人の善管注意義務
100条(第4章 破産債権 第1節 破産債権者の権利):破産債権の行使
103条3項(第4章 破産債権 第1節 破産債権者の権利):破産債権者の手続参加
108条1,2項(第4章 破産債権 第1節 破産債権者の権利):
 別除権者等の手続参加(不足額責任主義)
111条1,2項(第4章 破産債権 2節 破産債権の届出):破産債権の届出
148条1項(第5章 財団債権):財団債権となる請求権
151条(第5章 財団債権):財団債権の取扱い
破産規則
25条(3章 破産手続の機関 1節 破産管財人):
 裁判所の許可を要しない行為・法第78条
民法
304条1項但書(第2編 物権 第8章 先取特権 1節 総則):物上代位
311条5号(第2編 物権 第8章 先取特権 2節 先取特権の種類):動産の先取特権
321条(第2編 物権 第8章 先取特権 2節 先取特権の種類):動産売買の先取特権
333条(第2編 物権 第8章 先取特権 4節 先取特権の効力):
 先取特権と第三取得者
505条1項本文(第3編 債権 第1章 総則 第6節 債権の消滅):相殺の要件等
555条(第3編 債権 第2章 契約 第3節 売買):売買
709条(第3編 債権 第5章 不法行為):不法行為による損害賠償
民事執行法
190条(3章 担保権の実行としての競売等):動産競売の要件

一言で何の問題か

動産売買先取特権と別除権、双方未履行双務契約の債務履行、差押えと物上代位権の行使、停止条件付債務による相殺

つまづき・見落としポイント

停止条件付債務との相殺の考え方

答案の筋

https://note.com/fugusaka/n/n4251855b79e5

概説(音声解説)

1(1) B社は機械αについて動産売買先取特権を有するところ,特別の先取特権は別除権とされ,破産手続によらずに行使できる。また、弁済を受けられない部分は,不足額責任主義の下、破産債権者として権利行使できる。
1(2) 双方未履行双務契約であり、裁判所の許可を得て債務の履行を選択した場合、XのD社に対する債権は破産財団に属し,D社の機械α引渡請求権は財団債権となる。
1(3) B社はXの代金回収前に差押えを行っておらず、別除権行使として動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使をすることはできない。また、動産売買先取特権では追及効が制限され、破産管財人は「差押え」のない時点において担保目的物を保存すべき法律上の義務は認められず、機械αの売却は善管注意義務違反には当たらないため、B社は破産財団から優先的に代金を回収することができない
2 剰余金返還債務は停止条件付債務であり、条件成就の前から既に存在していたものと考えるべきであり(民法知識)、71条1項1号は適用されず相殺できる。しかし、停止条件の成就という奇貨を利用してなされる相殺は、債権者に都合が良く、権利の濫用と言え、信義則上許されない。

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