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司法試験予備試験 民訴法 平成24年度


問 題

次の事例について、後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事例】
Xは、平成22年6月10日、Yを被告として、売買契約に基づく代金の支払を求める訴えを提起した(以下、この訴訟を「第1訴訟」という。)。第1訴訟の請求の趣旨は、「Yは、Xに対し、150万円を支払え。」との判決を求めるものであったが、第1訴訟において、Xは、平成22年2月2日に、Yに対し、中古の建設機械1台(以下「本件機械」という。)を400万円で売却した旨主張し(以下、この売買契約を「本件売買契約」という。)、第1訴訟では上記売買代金のうちの150万円を請求する旨明示していた。これに対し、Yは、本件売買契約の成立を否認し、Xから本件機械を買ったのは売買契約締結の際にYとともに同席していた息子のZであると主張した。
受訴裁判所は、平成23年1月13日に口頭弁論を終結し、同年3月3日にXの請求を全部認容する判決をしたところ、同判決は同月17日の経過をもって確定した。
その後、Xは、平成23年4月7日、Yを被告として、本件売買契約に基づく残代金の支払を求める訴えを提起し、Yに対し、残額の250万円の支払を求めた(以下、この訴訟を「第2訴訟」という。)。
以下は、第2訴訟を担当している裁判官Aと司法修習生Bの会話である。
裁判官A:Xは、第1訴訟において、本件売買契約の代金は400万円であったと主張しながら、訴訟の中では、このうちの150万円を請求していますが、判例の考え方によると、この場合の訴訟物はどうなりますか。
修習生B:金銭債権の数量的一部請求の訴訟物に関する判例の考え方によれば、給付訴訟において、数量的一部請求であることが明示されていれば、一部請求部分のみが訴訟物であるということになりますから、第1訴訟における訴訟物は、売買契約に基づく代金支払請求権のうち150万円の支払を求める部分ということになると思います。
裁判官A:そうですね。そうすると、第1訴訟の確定判決によって、どのような点に既判力が生じますか。
修習生B︓本件売買契約に基づき150万円の代金支払請求権が存在することについて既判力が生ずることになると思います。
裁判官A︓そうですね。ところで、先ほどの数量的一部請求の訴訟物に関する判例の考え方を前提とすると、第2訴訟の訴訟物は、第1訴訟の訴訟物とは異なることになりますが、訴訟物が異なるという理由だけで、第2訴訟において、第1訴訟の確定判決の既判力が及ぶことはないと言い切れますか。例えば、第2訴訟において、裁判所は、第1訴訟の確定判決で認められた売買代金債権の発生そのものを否定する判断をすることもできるのでしょうか。
修習生B︓前訴と後訴の訴訟物が異なる場合でも、前訴の確定判決の既判力が後訴に及ぶ場合はあったと思いますが、どのような場合がこれに当たるかについては、正確には覚えていません。
裁判官A︓そうですか。それでは、第1訴訟と第2訴訟とで訴訟物が異なるにもかかわらず、第1訴訟の確定判決の既判力が第2訴訟にも及ぶことがあるのかどうか、さらには、それを踏まえ、第2訴訟において、Yは、どのような主張をすることが許されるか考えてみましょう。

設 問

〔設問1〕
裁判官Aと司法修習生Bの会話を踏まえ、第2訴訟において、Yは、次のような主張をすることが許されるか検討しなさい。
① Xから本件機械を買ったのはYではなく、Zであるとの主張
② 本件機械の品質は契約の内容に適合しないものであり、その修理費用として平成22年10月10日に300万円を支払ったことにより、これと同額の損害を受けたので、契約不適合責任に基づく損害賠償請求権と対当額で相殺するとの主張

〔設問2〕
仮に、第1訴訟において、XがYに対して本件売買契約に基づく代金全額(400万円)の支払を求める訴えを提起していたとする。この訴訟において、Yが〔設問1〕②の主張と併せて、本件売買契約に基づく代金として180万円を弁済した旨の主張をした場合に、裁判官が本件売買契約の成立のほか、Y主張のいずれの事実についても証拠によって認定することができるとの心証を抱いたときは、裁判所は、どのような点に留意して判決をすべきか検討しなさい。

関連条文

民訴法
2条(1編 総則 1章 通則):裁判所及び当事者の責務(信義則)
114条(1編 総則 5章 訴訟手続 5節 裁判):
 既判力の範囲(主文に包含するもの限定、相殺で対抗した額)

一言で何の問題か

設問1① 実質的な紛争の蒸し返しに対する既判力による遮断の可否
     信義則による主張の制限
設問1② 前訴における相殺の抗弁の期待可能性
設問2  相殺とそれ以外の抗弁の審理順序

つまづき、見落としポイント

既判力が作用する対象(矛盾関係、先決関係)

答案の筋

設問1① 既判力は作用しないため認められるとも思えるも、実質的に紛争の蒸し返しとなるため、信義則により制限
設問1② 基準時前の事由であり既判力によって遮断されると思えるも、相殺の抗弁は実質的敗訴につながるため前訴で主張される期待可能性はなく認められる
設問2 裁判所はどのような順序で審理判断してもよいと思えるも、相殺の抗弁は対抗額に既判力が生じるため、当事者の合理的意思に留意して弁済など他の抗弁よりも劣後的に判断すべき

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