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司法試験 倒産法 平成28年度 第2問


問題

次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
X社は,平成9年に設立された建設資材の輸入・販売を業とする株式会社である。Aは,X社の代表取締役であり,同社に自己資金を貸し付け,これを運転資金に充てていた。Y社は,X社の発行済株式の70パーセントを有するいわゆる支配株主であり,同社に運転資金も融通していた。Bは,Y社の代表取締役であり,同社の発行済株式の全てを有している。Z社は,同じくBが代表取締役を務める建設会社であり,X社の得意先である。X社とZ社との取引は,Bの主導によって開始されたものであり,X社のZ社に対する平成25年3月末期の売上は,X社の総売上高の30パーセント余りを占めていた。
X社は,平成25年末頃から始まった円安の影響を受けて業績不振に陥っていたところ,平成26年3月に入ると,Z社がBの放漫経営により破綻したため,同社に対する売掛金の回収ができなくなった。その結果,X社は,同月末日の資金繰りに窮することとなった。
X社は,以上のような経緯から,破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとして,平成26年3月20日に再生手続開始の申立てをした。同日,X社について監督命令が発せられ,弁護士Kが監督委員に選任された。
平成26年3月28日,X社について再生手続開始の決定がされた。
〔設 問〕
1.X社は,Z社に代わる新たな得意先を獲得する見込みの下で事業計画を作成し,この事業計画が実現可能であり,計画弁済の履行が可能であると見込まれたことから,平成26年7月7日,裁判所に対し,再生債権者の権利の変更に関する定めとして下記の条項のある再生計画案(以下「本件再生計画案」という。)を提出した。

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本件再生計画案の提出を受けた裁判所は,これを決議に付する旨の決定をすることができるか。本件再生計画案2①から④までの各条項について,民事再生法上の問題点を踏まえて,論じなさい。
なお,各条項はいずれも民事再生法第174条第2項第4号には該当しないこと,Aは2③の免除に同意していること,Y社は2④の免除には同意していないことを前提とする。
2.本件再生計画案は,平成26年7月14日,決議に付する旨の決定がされ,同年9月3日に開催された債権者集会において可決された(以下,可決された本件再生計画案を「本件再生計画」という。)。同日,本件再生計画について認可決定がされ,同月29日に確定した。
X社は,本件再生計画の認可決定が確定した後も,事業計画で見込んでいたZ社に代わる新たな得意先の獲得ができなかったことなどから,事業計画どおりには業績を上げることができなかった。そのため,X社は,平成27年4月末日までの本件再生計画に基づく弁済は何とか行ったものの(総額520万4000円),平成28年1月末日現在,同年4月末日の弁済の見込みは立たなかった。とりわけ,最も大口の債権を有するG銀行(確定再生債権額8000万円)に対する弁済資金の確保は困難であることが判明した。
⑴ 再生計画認可後の再生手続においてX社及びKが果たすべき役割について述べた上で,X社として採り得る方策を論じなさい。
⑵ G銀行は,本件再生計画に基づき,平成27年4月末日までに合計169万8000円の弁済を受けたものの,結局,平成28年4月末日に支払われるべき159万8000円の弁済は受けられなかった。この場合にG銀行として採り得る方策を論じなさい。

関連条文

民事再生法
38条1,2項(第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の決定):再生債務者の地位
54条1項(第3章 再生手続の機関 1節 監督委員):監督命令
84条2項(第4章 再生債権 1節 再生債権者の権利):再生債権となる請求権
155条1項(第7章 再生計画 1節 再生計画の条項):再生計画による権利の変更
169条1項3号(第7章 再生計画 3節 再生計画案の決議) :決議に付する旨の決定
174条2項(第7章 再生計画 4節 再生計画の認可等):
 再生計画の認可又は不認可の決定
180条1,3項(第7章 再生計画 4節 再生計画の認可等):
 再生計画の条項の再生債権者表への記載等
185条1,2項(第7章 再生計画 4節 再生計画の認可等):
 不認可の決定が確定した場合の再生債権者の記載の効力
186条1項(第8章 再生計画認可後の手続):再生計画の遂行
187条1項(第8章 再生計画認可後の手続):再生計画の変更
189条1項2号,3項,8項(第8章 再生計画認可後の手続):再生計画の取消し

一言で何の問題か

1 付議決定、不認可要件、平等原則の例外
2(1) 再生債務者と監督委員の役割、再生計画変更の申立て
2(2)  再生債権者による強制執行又は再生計画取消しの申立て

つまづき・見落としポイント

設問1については、問題文の事情から、座りの良い結論を考察して、規範を立てる。
設問2については、立場に留意して、採り得る方策を導き出す。この際、条文に基づくと回答が現実的ではなくなる(エグい)場合もある(小問(2))。

答案の筋

概説(音声解説)

https://note.com/fugusaka/n/n58fd8ee52505?sub_rt=share_pw

1 不認可要件(174条2項各号(3号を除く。))に該当する場合には,その再生計画案を決議に付する決定をすることができない(169条1項3号)ところ、本件2①から④の条項について1号の「法律の規定に違反」する場合に当たるとも思えるも、いずれも平等原則の例外を定めた155条1項ただし書に該当するため、裁判所は再生計画案を決議に付する旨の決定をすることができる。
2(1) 再生債務者X社は再生計画を遂行する義務を有し、監督委員Kは再生計画遂行を監督する義務を負うところ、本件においてX社としては,「やむを得ない事由」があると認められるため、再生計画で定めた弁済率をより低く設定し直すよう,裁判所に再生計画変更を申し立てる方策を採り得る。
2(2) G銀行は,再生債権者表の記載を債務名義とした強制執行を申し立てた場合には、159万8000円を回収し得るにとどまる。一方、再生債権者として,再生計画の取消しを申し立てる場合においては,既になされた弁済を除き,変更された再生債権は原状に復する。また,再生債権者表の記載に基づいて強制執行をすることができるようになる。よって,G銀行は,8000万円から弁済済みの169万8000円を控除した7830万2000円を回収し得る。

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