見出し画像

旧司法試験 商法 昭和61年度 第1問


問 題

 甲は、乙株式会社(発行済株式総額500万株)の株式一万株を証券会社を通じて購入し、株券を提示して株主名簿の名義書換を請求したが、乙会社は、当該株券につき、株主名簿上の株主から盗難届が出されていることを理由に、名義書換を拒絶した。その後、300万株の株式を有する株主が出席した乙会社の株主総会において、200万株の株式を有する株主の賛成で取締役の選任決議がされたが、甲には、その総会の招集通知が発せられていなかった。乙会社の株主丙は、甲に招集通知が発せられなかったことを理由に、その決議の取消しを求める訴えを提起した。
 この請求は認められるか。

関連条文

会社法
130条(第2編 株式会社 第2章 株式 第3節 株式の譲渡等):
 株式の譲渡の対抗要件
131条(第2編 株式会社 第2章 株式 第3節 株式の譲渡等):
 権利の推定等
299条1項(第2編 株式会社 第4章 機関 第1節 株主総会及び種類株主総会等):
 株主総会の招集の通知
831条1/2項(第7編 雑則 第2章 訴訟 第1節 会社の組織に関する訴え):
 株主総会等の決議の取消しの訴え

一言で何の問題か

名義書換の不当拒絶、株式会社の他株主に対する瑕疵を理由とする訴え

つまづき、見落としポイント

株券提示の効果

答案の筋

株主総会決議取消の訴えにおいては、他人の招集通知漏れを主張することも許される。また、株券の所持者は、適法な権利者であると推定されるところ、乙社は調査義務を果たすことなく甲の名義書換請求を拒絶している。この点、株主名簿の趣旨より、名義書換の義務を怠った会社が不利益を株式の譲受人に被らせるのは信義則に反するため、譲受人である甲は株主たる地位を乙社に対抗できる。そうだとすれば、招集通知を欠いたという招集手続きの法令違反が存在する。もっとも、たとえ甲が当該決議に参加していたとしても結果に影響を及ぼさなかったという事情があり、裁量棄却が可能であるため、丙の請求は認められないと考える。

ここから先は

1,390字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?