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東京都職員採用試験 平成26年度 行政法

問 題

 砂利採取法(以下「法」という。)によれば、砂利の採取を行うためには法第3条に基づく登録(以下単に「登録」という。)を受けた上で、法第16条に基づき、個々の砂利採取場ごとに採取計画を定め、都道府県知事の認可(以下単に「認可」という。)を受けなくてはならない。
 Xは、登録を受けた上で、長年にわたって砂利の採取・運搬・販売を行う事業を営んでおり、優良な砂利を含む土地が多いA県内を回って適切な事業地を探していたところ、B所有の広さ3,000㎡程度の土地(以下「本件土地」という。)を発見した。本件土地は、ほとんど人通りのない広い道路が近くにある上、周辺一帯が平坦な土地であるため、土地掘さく用のブルドーザー等の大型重機の搬入や採取した砂利の搬出が容易である。また、本件土地は、柵で囲まれているだけであるが、周辺1km圏内には、人家はおろか店舗や公共施設のような人の集まる場所がなく、掘さくの際の飛砂や騒音をそれほど気にかける必要もない。これらのことから、本件土地は、Xにとって望ましい砂利採取地に思われた。
 そして、Xは、さらに検討した結果、今後1年間に本件土地のうち2,800㎡を深さ6mにわたって掘さくし、そこから採取できる砂利を販売すれば、諸々の費用を上回って大幅な利益を挙げることができるという結論に至った。
 そこで、Xは、平成26年1月15日に土地所有者Bとの間で、期間を1年とする本件土地に係る砂利採取契約(以下「本件契約」という。)を締結し、本件契約に従い、Xは即日、Bに対して600万円を支払った。
 ところで、A県においては、優良な砂利を含む土地が多いことから、多数の砂利採取業者が認可を受けて県内で砂利の採取を行っており、全国における認可数の半分以上をA県が占めている状況が長年にわたって続いていた。そして、採取計画には砂利採取後に掘さく跡地の埋めもどしを行う旨を定めてあるのが通常であったが(法第17条第4号参照)、いくつかの掘さく跡地においては採取計画に定められた土地の埋めもどしが行われないまま放置され、場合によっては法第23条第2項に基づいてA県知事が埋めもどしを命ずることもあった。この埋めもどし命令は、他の都道府県ではほとんど例がないにもかかわらず、A県においては毎年3~4件発せられており、A県の所管課では、埋めもどしが行われないまま掘さく跡地が放置されたことに起因する事故等が生じないよう留意していた。
 しかしながら平成25年11月、ある斜面地における砂利採取後の掘さく跡地で、その掘さく後も埋めもどしが行われないままの状態で地盤が緩んでいたところに大雨が降った結果、土地が崩落し、斜面地の下に位置していた家屋の一部が土砂に埋もれるという事態が生じた。さらに、同年12月には、小学校近くの砂利採取場で土地が6m掘さくされた後も埋めもどしが行われないままになっていた掘さく跡地に小学生が転落して大けがをするという事件が発生した。
 この2つの事件を受けて、A県議会でも砂利採取後の掘さく跡地の埋めもどしが議論され、平成26年1月27日、A県砂利採取計画の認可に関する条例(以下「本件条例」という。)が制定され、即日施行された。本件条例は、採取計画において砂利採取場の掘さく跡地の埋めもどしについて保証措置を定めるよう義務づけており(本件条例第6条)、具体的には本件条例を受けて制定されたA県砂利採取計画の認可に関する条例施行規則(以下「本件規則」という。)第5条において、申請者が埋めもどしを履行できない場合に、例えば申請者に代わって土地所有者が埋めもどしを行う際にかかる費用に関して金融機関に保証してもらうことが定められている(本件規則同条第1項第2号)。
 そして、このような保証措置が適正かどうかについて、認可をする際にA県知事 が審査するものとされている(本件条例第7条第1項第3号)。なお、本件規則第 5条第1項第2号に定める保証措置の対価として、認可申請者は保証を引き受ける 金融機関に対し埋めもどしの費用見積額の1%程度の保証料を支払うのが通常であ る。
 Xは、本件契約において、Xが埋めもどしを履行できなかった場合にはBがXに 代わって埋めもどしを履行するという契約条項を入れようとしたが、その費用に関 して金融機関からの保証が得られなかったため、Bがそのような条項を入れること に反対した結果、そのような条項のない契約となった。
 その後、Xは、本件規則第5条第1項第1号に定める保証を得ようとしたがこれ もうまくいかず、A県所管課に相談したところ、同項第3号の保証措置も認められ ないという返答を受けた。
 そこでXは、やむをえず、本件契約に係る本件土地の採取計画(以下「本件計 画」という。)には本件規則第5条に定める保証措置を定めず、また、本件規則第 5条第2項の書類を添付しないまま、同月31日にA県知事に対して本件計画のは 保証措置に関する項目以外はすべて要件を満たしているが保証措置が定められてい ないため法第19条の拒否事由が認められるという理由で、同年2月14日に不認 可処分(以下「本件処分」という。)がなされた。
 以上のような経緯のもと、XからA県所管課に対して、本件処分は違法だと考え ているので場合によってはその取消訴訟を提起するつもりであるという通告があり、 さらに、もし本件処分が適法だとするならば、本件処分によって本件土地の砂利を 採取できなくなったことによる、本件契約に係るBへの支払額600万円分の損失 補償を憲法第29条第3項に基づいて請求するという連絡もあった。

【設 問】

あなたは、A県の法務担当者で、A県の所管課から次の3つの照会を受けたとす る。後掲の【参照条文】を参考にしながら、必要があれば最高裁判所の判例も踏ま えて、それぞれの照会に対する回答書を作成するつもりで解答せよ。
【照会1】
本件条例が第5条において、採取計画に保証措置を定めることを義務 づけている点は砂利採取法に違反するか。
【照会2】
仮に本件条例が法令に違反しないとした場合、本件処分が違法とされ る理由としてどのようなものが考えられるか。ただし、手続上の違法は除く。
【照会3】
仮に本件処分が適法だとした場合、Xからの損失補償請求は認められるか。

【参照条文】

※条文中における「…」は出題に伴う省略を意味する。
○日本国憲法(昭和21年11月3日憲法)(抜粋)
第29条 1、2 (略)
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
第94条
地方公共団体は、…法律の範囲内で条例を制定することができる

○地方自治法(昭和22年4月17日法律第67号)(抜粋)
第2条 1 (略)
2 普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基 づく政令により処理することとされるものを処理する。
3~17 (略)
第14条
普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事 務に関し、条例を制定することができる。
2、3 (略)

○砂利採取法(昭和43年5月30日法律第74号)(抜粋)
(目的)
第1条
この法律は、砂利採取業について、その事業を行なう者の登録、砂利の採取計画の認可その他の規制を行なうこと等により、砂利の採取に伴う災害を防止し、あわせて砂利採取業の健全な発達に資することを目的とする。
(定義)
第2条
この法律において「砂利採取業」とは、砂利(砂及び玉石を含む。以下同
じ。)の採取(洗浄を含む。以下同じ。)を行なう事業をいう。
(登録)
第3条
砂利採取業を行おうとする者は、当該業を行おうとする区域を管轄する都
道府県知事の登録を受けなければならない。
(採取計画の認可)
第16条
砂利採取業者※は、砂利の採取を行おうとするときは、当該採取に係る
砂利採取場ごとに採取計画を定め、当該砂利採取場の所在地を管轄する都道府県知事…の認可を受けなければならない。
※本法における砂利採取業者とは、第3条の登録を受けた者をいう。
(採取計画に定めるべき事項)
第17条
前条の採取計画には、次の事項を定めなければならない。
一 砂利採取場の区域
二 採取をする砂利の種類及び数量並びにその採取の期間
三 砂利の採取の方法及び砂利の採取のための設備その他の施設に関する事項
四 砂利の採取に伴う災害の防止のための方法及び施設に関する事項
五 前各号に掲げるもののほか、経済産業省令、国土交通省令※で定める事項
※本法における経済産業省令、国土交通省令とは、それぞれ(旧)通商産業省令、 (旧)建設省令を指す。
(許可の申請)
第18条
第16条の認可を受けようとする砂利採取業者は、次の事項を記載した申 請書を都道府県知事…に提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名
二 登録の 年月日及び登録番号
三 採取計画
2 前項の申請書には、砂利採取場及びその周辺の状況を示す図面その他の経済産業 省令、国土交通省令で定める書類を添附しなければならない。
(認可の基準)
第19条
都道府県知事…は、第16条の認可の申請があつた場合において、当該申請に係る採取計画に基づいて行なう砂利の採取が他人に危害を及ぼし、…公共の福祉に反すると認めるときは、同条の認可をしてはならない。
(遵守義務)
第21条
第16条の認可を受けた砂利採取業者は、当該認可に係る採取計画…に従
つて砂利の採取を行なわなければならない。
(緊急措置命令等)
第23条 1 (略)
2 都道府県知事…は、…第21条の規定に違反して砂利の採取を行なつた者に対し、採取跡の埋めもどしその他砂利の採取に伴う災害の防止のための必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
(認可の条件)
第31条
第16条の認可…には、条件を附することができる。
2 前項の条件は、認可に係る事項の確実な実施を図るため必要な最小限度のものに限り、かつ、認可を受ける者に不当な義務を課することとなるものであつてはならない。

○ 砂利の採取計画等に関する規則(昭和43年8月2日通商産業省・建設省令第1号) (抜粋)
(用語)
第1条
この規則において使用する用語は、砂利採取法(昭和43年法律第74号。以下 「法」という。)において使用する用語の例による。
(認可の申請)
第3条 1 (略)
2 法第18条第2項の経済産業省令、国土交通省令で定める書類は、次のとおりと する。
一 砂利採取場の位置を示す縮尺五万分の一の地図
二 砂利採取場及びその周辺の状況を示す見取図
三~八 (略)
九 砂利採取場において土地の掘さく又は切土に係る跡地の埋めもどしを行う場合にあつては、埋めもどしのための土砂等が確保されていること又は確保される見込み が十分であることを示す書面及び当該土砂等を当該砂利採取場に運搬する経路を記載
した書面
十 (略)
十一 その他参考となる事項を記載した図面又は書面

○ A県砂利採取計画の認可に関する条例(平成26年1月27日A県条例第2号)
(抜粋)
(趣旨)
第1条
この条例は、砂利採取法(昭和43年法律第74号。以下「法」という。)第16条の規定による採取計画の認可…(…以下「認可」という。)に関し、必要な事項を定めるものとする。
(災害防止措置)
第3条
認可を受けようとする者(以下「申請者」という。)は、次の各号に該当する場合は、当該採取計画に当該各号に応じて規則で定める災害の防止のための措置を定めなければならない。
一 採取場の近隣に人家、教育施設、社会福祉施設、医療施設その他これら
に類するものがある場合
二 採取場の近隣に飲用水、農業用水等に利用する井戸がある場合
三 前2号に掲げるもののほか、知事が災害の防止のための措置を講ずる必要
があると認める場合
(埋めもどし)
第5条
申請者は、災害の防止を図るため、当該採取計画に埋めもどし(砂利の採取により生じた掘さくの跡地…を埋めもどすことをいう。以下同じ。)を行うこと及びその方法について定めなければならない。
(保証措置)
第6条
申請者は、知事が災害の防止上必要と認める場合は、当該採取計画に前条
に定める埋めもどしに係る保証措置(当該認可を受けた者が埋めもどしを行うことができない場合に、埋めもどしが確実になされるよう当該者が講ずべき措置をいう。以下同じ。)として規則で定めるものを定めなければならない。
(採取計画の認可)
第7条
知事は、法第19条に規定する認可の基準の適用に当たっては、特に当該
採取計画に定める次に掲げる事項が適正かどうかを審査しなければならない。
一 第3条に規定する規則で定める災害の防止のための措置
二 第5条に規定する埋めもどしの方法
三 前条に規定する規則で定める保証措置
2、3 (略)

○A県砂利採取計画の認可に関する条例施行規則(平成26年1月28日A県規則第3号)(抜粋)
(趣旨)
第1条
この規則は、A県砂利採取計画の認可に関する条例(平成26年A県条例
第2号。以下「条例」という。)の施行に関し必要な事項を定めるものとする。
(埋めもどし)
第4条
申請者(許可を受けようとする者をいう。以下同じ。)は、認可申請書(砂利採取法(昭和43年法律第74号)第16条に定める認可に係る申請書をいう。以下同じ。)には、砂利の採取計画等に関する規則(昭和43年通商産業省・建設省令第1号。以下「省令」という。)第3条第2項第9号に掲げる書面として次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 埋めもどし土量計算書
二 埋めもどし作業工程表
三 埋めもどしに使用する機械設備等の能力を確認できる書類
(保証措置)
第5条
条例第6条に規定する規則で定める保証措置は、次の各号に掲げるいずれ
かの保証措置とする。
一 中小企業団体の組織に関する法律…第3条第1項第8号に掲げる商工組合であるA県砂利工業組合による保証(申請者が埋めもどしを履行できない場合にA県砂利工業組合が申請者に代わって埋めもどしを行うことをいう。)
二 金融機関による保証(申請者が埋めもどしを履行できない場合において、土地の所有者…が、申請者との契約に基づき申請者に代わって埋めもどしを行うときに、申請者が土地の所有者に対して負う当該埋めもどしに係る債務について金融機関が保証していることをいう。)
三 前2号に類する保証措置で知事が適正と認める保証措置
2 申請者は、認可申請書には、省令第3条第2項第11号に掲げる書面として、次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 前項第1号に掲げる保証措置を講じた場合は、A県砂利工業組合の保証書
二 前項第2号に掲げる保証措置を講じた場合は、申請者と土地の所有者との間で締結した埋めもどし契約書等の写し、金融機関の保証書の写し及び土地の所有者が申請者に代わって埋めもどしを履行する旨の知事に対する誓約書
三 前項第3号に掲げる保証措置を講じた場合は、埋めもどしが確実に保証されていることを証する書類

関連条文

憲法
29条3項(3章 国民の権利及び義務):財産権

一言で何の問題か

照会1 条例が根拠法に反するか
照会2 実体法上の違法理由
照会3 損失補償請求の可否

答案の筋

照会1
都道府県が条例を制定するに際し、バランスを保つため、国法に反するものであってはならない。本件の条例は災害防止と埋め戻し効果確保を目指し、目的と趣旨は法と矛盾せず、砂利採取法にも違反していない。都道府県は採取計画の保証措置を義務化するが、これは申請者にとって過大な負担ではない。

照会2
行政行為の違法性は、裁量の逸脱や超過があるかどうかで判断。裁量基準は、法の基準に適合しているかどうかを判断し、それが法の趣旨を損なわなければ認められる。本件では、申請が拒否されたが、これは公共の福祉に反すると裁量した結果。しかし、保証措置がないだけで公共の福祉に反するとは必ずしも言えないので、処分は違法。

照会3
Xは憲法に基づいて損失補償を請求できるが、これは特定の者が不当な犠牲になる場合に限る。Xは砂利採取申請を拒否されたが、これは公共の福祉を守るための法的制約で、X個人を狙ったものではない。そのため、損失補償請求は認められない。

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