司法試験 倒産法 平成23年度 第2問(民事再生法)
問題
次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
X株式会社(以下「X社」という。)は,甲建物をY株式会社(以下「Y社」という。)に賃貸し,Y社は,甲建物において製造業を営んでいた。ところが,Y社が賃料の支払を怠ったため,X社は,賃料不払を理由に賃貸借契約を解除したと主張して,平成20年1月7日,Y社を被告として,賃貸借契約の終了に基づき,甲建物の明渡し並びに未払賃料及び明渡し済みに至るまでの賃料相当損害金の支払を求める訴えを提起した(以下,提起された訴訟を「本件訴訟」という。)。
その後,Y社は,同年2月1日,裁判所から再生手続開始決定を受けたが,同時に監督命令が発せられ,監督委員として弁護士Aが選任された。Y社は,同年5月1日,再生計画案を作成して裁判所に提出した。
Y社の再生計画案は,届出再生債権者の多数の賛成を得て可決され,同年8月1日に再生計画の認可決定が確定した。
認可された再生計画(以下「本件再生計画」という。)の骨子は,次のとおりである。
・ 再生の基本方針
Y社は,コストの削減に努めるとともに,売れ筋商品の製造に特化して収益を上げる。そして,その収益でもって,確定再生債権額に対し,破産配当率3%を超える8%に相当する額を平成21年から平成28年まで毎年4月末日限り均等分割で支払う。
・ 再生債権の総額及び債権者数
再生債権の総額 10億円
債権者数 40名
再生計画の認可決定の確定後,Aは,Y社の本件再生計画の遂行を監督し,Y社は,本件再生計画に基づき,平成21年4月末日に第1回目の,平成22年4月末日に第2回目の支払をしたが,その後,コストの削減が思うようにいかず,販売不振も重なって収益が上がらず,全ての再生債権に対する平成23年4月末日の第3回目の支払をしなかった。
本件再生計画の定めによって認められた確定再生債権の総額は,8000万円であり,同日時点において履行された額は,2000万円である。
〔設 問〕
以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.本件訴訟は,Y社についての再生手続開始決定によりどのような影響を受けるか論じなさい。
2.上記事例において,確定した1億円の再生債権を有しており,本件再生計画の定めによって200万円の弁済を受けているZは,このままの状態が続くと,Y社の損失はますます膨らみ,自己の債権の残額の回収が著しく困難になると考えた。Zは,民事再生法上,どのような措置を採ることができるか論じなさい。
関連条文
民事再生法
40条1項 (第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の決定):訴訟手続の中断等
52条1項(第2章 再生手続の開始 2節 再生手続開始の決定):取戻権
84条1項(第4章 再生債権 1節 再生債権者の権利):再生債権となる請求権
85条1,5項(第4章 再生債権 1節 再生債権者の権利):再生債権の弁済の禁止
94条1,2項(第4章 再生債権 2節 再生債権の届出):届出
107条1項(第4章 再生債権 3節 再生債権の調査及び確定):
異議等のある再生債権に関する訴訟の受継
119条2,5号(第5章 共益債権、一般優先債権及び開始後債権):
共益債権となる請求権
121条1項(第5章 共益債権、一般優先債権及び開始後債権):
共益債権の取扱い
180条(第7章 再生計画 4節 再生計画の認可等):
再生計画の条項の再生債権者表への記載等
189条1項2号,3項(第8章 再生計画認可後の手続):再生計画の取消し
194条(第9章 再生手続の廃止):再生計画認可後の手続廃止
249条(第14章 再生手続と破産手続との間の移行 2節 再生手続から破産手続への移行):再生手続終了前の破産手続開始の申立て等
250条(第14章 再生手続と破産手続との間の移行 2節 再生手続から破産手続への移行):再生手続の終了に伴う職権による破産手続開始の決定
民法
601条(3編 債権 2章 契約 7節 賃貸借):賃貸借
一言で何の問題か
再生手続開始以前からの訴訟の中断有無、再生計画非遂行時の残額回収方法
つまづき・見落としポイント
共益債権に関わる訴訟は中断しない(再生債権のみ)
賃料相当損害金については再生手続開始前後で場合分け(再生債権or共益債権)
答案の筋
概説(音声解説)
https://note.com/fugusaka/n/n9cbb8bac75df
1 甲建物の明渡しについて、債権的請求は再生債権として中断されると思えるも、実質的には所有権に基づく物権的請求としての建物明渡請求と同視でき、取戻権の行使として主張できるため、訴訟は中断しない。未払賃料は全額が再生債権となり、訴訟は中断するも、他の再生債権者から異議が提出された場合等は、訴訟手続き受継の申立てができる。賃料相当損害金について、再生手続開始前に発生した部分は未払賃料と同様であり、再生手続開始後に発生した部分は共益債権となるため、訴訟手続は中断しない。
2 再生債権者表に基づく強制執行、再生手続の取消又は再生手続の廃止に伴う破産手続への移行,再生計画の変更によって残額の回収を図るべきである。
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