旧司法試験 民法 平成元年度 第1問__

問 題

 Aは、Bに対し、自己の所有する中古のステレオ・セットを贈与することを約し、Bへの送付をCに委託した。ところが、Cによる輸送の途中、Dがこのステレオ・セットを盗み、Eに売り渡した。
(1) この場合に、A、B及びCは、Eに対し、ステレオ・セットの引渡しを請求することができるか。
(2) A、B、Cいずれもがステレオ・セットを取り戻すことができなかった場合に、BがAに対してすることができる請求及びAがその請求を拒むことができる根拠について説明せよ。

関連条文

民法
176条1項(第2編 物件 第1章 総則):物件の設定及び移転
181条1項(第2編 物件 第2章 占有権 第1節 占有権の取得):代理占有
183条(第2編 物件 第2章 占有権 第1節 占有権の取得):占有改定
192条(第2編 物件 第2章 占有権 第2節 占有権の効力):即時取得
193条(第2編 物件 第2章 占有権 第2節 占有権の効力):
 盗品又は遺失物の回復
200条(第2編 物件 第2章 占有権 第2節 占有権の効力):占有回収の訴え
201条3項(第2編 物件 第2章 占有権 第2節 占有権の効力):
 占有の訴えの提起期間
415条1項(第3編 債権 第1章 総則 第2節 債権の効力):
 債権不履行による損害賠償
550条(第3編 債権 第2章 契約 第2節 贈与):書面によらない贈与の解除

一言で何の問題か

盗難時の地位・権原に応じた請求の種類、贈与契約における債務不履行と免責

答案の筋

1 Aの所有権は、贈与契約時にBに移転しており、AはCにステレオ・セットの送付を委託する間接占有者であり、占有回収の訴えによりEに引渡しを請求できる。他方、Eが即時取得している場合、占有回復という制度趣旨から、Aは直接占有者ではなく被害者に当たらないため、盗品回復請求は認められない。
Bは、所有権に基づき返還請求できる。ただし、Eが即時取得している場合は認められない。この場合、所有者であり被害者として盗品回復請求をすることができる。また、占有改定を受けている場合は、間接占有者として占有回収の訴えによることもできる。
Cは、直接占有者として占有回収の訴え、及びEに即時取得が成立する場合は盗品回復請求権による請求が認められる。
2 本件贈与が書面によらないものであった場合、発送という債務の主要な部分が完了されており、「履行の終わった」ものとして解除が制限される。また、CからBへ引き渡せなかったことがAの債務不履行と評価出来るものの、社会通念に照らして、Aに帰責させることはできず、免責が認められる。


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