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司法試験 倒産法 平成27年度 第1問


問題

次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
A株式会社(以下「A社」という。)は,平成8年に設立された機械部品の製造販売を業とする会社であり,近隣の工場に製造した工作機械の部品等を卸していた。
A社は,平成26年初め頃からの急激な円安により原材料費が急騰したため,同年8月頃から急速に資金繰りを悪化させ,同年11月末には支払不能に陥った。そこで,A社は,同年12月10日,債権者及び売掛先に弁護士受任通知を発して支払を停止した上,同月15日,破産手続開始の申立てをしたところ,同月17日,破産手続開始の決定がされ,破産管財人Xが選任された。
〔設 問〕 
以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。

1.上記事例において,XがA社の売掛金台帳を調査したところ,部品納入先であるBに対して,平成26年10月1日から同年11月末日分までの納入分に係る合計216万円の売掛債権(以下「本件売掛債権」という。)が未収となっていることが判明した。そこで,Xは,Bに対し,平成27年1月末日までに本件売掛債権216万円を支払うよう催告した。
上記催告を受けたBは,Xに対し,「本件売掛債権については,平成26年12月12日,同月11日付けの確定日付のある証書により,A社からY社に譲渡された旨の債権譲渡通知を受領したため,同月15日,Y社に対して全額を支払った。」と説明した。
そこで,Xが更に調査をしたところ,A社とY社との間においては,平成24年5月10日にA社がY社から設備投資のため1000万円の融資を受けるに当たり,A社のBに対する売掛債権について,同日,次のとおりの債権譲渡契約が締結されていることが判明した。

(債権譲渡)
1 A社は,A社がY社に対して負担する一切の債務を担保するため,A社がBに対して現に有する売掛債権及び将来取得する売掛債権をY社に包括的に譲り渡す。
(効力発生時期)
2 前項の譲渡の効力は,A社が,支払を停止したとき又は破産手続開始の申立てをしたときにその効力を生ずる。

また,Y社は,上記債権譲渡契約の締結に当たり,将来の債権譲渡通知のために,A社から委任状等の必要書類をあらかじめ受領しており,Bが平成26年12月12日に受領した債権譲渡通知は,A社が同月10日に支払を停止したため,上記債権譲渡の効力が発生したとして,Y社がA社を代理して行ったものであることも判明した。
この調査結果を踏まえ,Xは,Y社に対し,否認権を行使することにより,Y社がBから受領した本件売掛債権に係る売掛金216万円の返還を求めて訴えを提起しようと考えている。
この場合に,Xの否認権の行使を基礎付ける法律構成としてどのようなものが考えられるか,またXの否認権の行使が認められるかどうかについて,予想されるY社の反論を踏まえて,論じなさい。

2.A社は,破産手続開始前,製造した部品を納入するため,トラック1台(以下「本件車両」といい,道路運送車両法第5条第1項の適用を受けるものとする。)を使用しており,破産手続開始時において,同車両はA社の占有下にあったが,自動車登録ファイルに登録された所有者は,自動車販売会社であるC社であった。そこで,Xは,C社に対し,登録名義の変更を求めたが,逆に,C社の系列信販会社であるZ社から,本件車両を同社に引き渡すよう求められた。
そこで,Xが調査をしたところ,本件車両は,平成25年10月10日にC社がA社に対し代金400万円で売却したものであり,その際,C社に対して頭金64万円が支払われ,残代金である336万円(以下「本件残代金」という。)の支払等については,同日,A社,C社及びZ社の三者間において,次のとおりの契約が締結されている事実が判明した。

(本件残代金の支払等)
1 A社は,Z社に対し,本件残代金336万円を自己に代わってC社に立替払することを委託し,本件残代金に手数料である24万円を加算した360万円を平成25年10月から平成27年9月までの各月末日限り24回に分割してZ社に支払う(以下,このA社の支払債務を「本件立替払金等債務」という。)。
(所有権の留保)
2 本件車両の所有権は,C社のA社に対する本件残代金債権を担保するために,C社に留保する。
(留保所有権の移転)
3 A社は,登録名義のいかんを問わず,C社に留保されている本件車両の所有権が,Z社がC社に本件残代金を立替払することによってZ社に移転し,A社が本件立替払金等債務を完済するまでZ社に留保されることを承諾する。
(本件車両による弁済)
4⑴ A社が本件立替払金等債務の支払を1回でも怠ったときは当然に期限の利益を失い,その場合,同社は,Z社に対する弁済のため,直ちに本件車両の保管場所を明らかにし,本件車両をZ社に引き渡す。
⑵ Z社は,本件車両の引渡しを受けた場合には,その評価額をもって,本件立替払金等債務の弁済に充当することができる。

Xが更に調査をした結果,Z社が,平成25年10月15日,上記契約に基づき,C社に対し,本件残代金336万円を立替払していること,A社が,本件立替払金等債務について,平成26年11月末日分の支払を怠っていることが判明した。Z社は,Xに対して,本件車両の引渡しを求める法的根拠として上記契約の4⑴の条項を摘示した上,A社が,本件立替払金等債務について,同年11月末日分の支払を怠ったため,当然に期限の利益を失ったと主張している。
以上の調査結果を踏まえ,Xとして,Z社からの本件車両の引渡請求に対していかなる主張をすることが考えられるか,またその主張が認められるかどうかについて,予想されるZ社の反論を踏まえて,論じなさい。

(参照条文)道路運送車両法
第5条 登録を受けた自動車の所有権の得喪は,登録を受けなければ,第三者に対抗することができない。
2 (略)

関連条文

破産法
49条(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):
 開始後の登記及び登録の効力
65条(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):別除権
78条1項(第3章 破産手続の機関 第1節 破産管財人):破産管財人の権限
162条(6章 破産財団の管理 第2節 否認権) : 
 特定の債権者に対する担保の供与等の否認
164条(6章 破産財団の管理 第2節 否認権) :権利変動の対抗要件の否認
民法
467条(第3編 債権 第1章 総則 第4節 債権の譲渡):債権の譲渡の対抗要件
499条(第3編 債権 第1章 総則 第6節 債権の消滅):弁済による代位の要件
501条1項(第3編 債権 第1章 総則 第6節 債権の消滅):弁済による代位の効果

一言で何の問題か

対抗要件否認、偏頗行為否認、破産管財人の第三者性

つまづき・見落としポイント

誰の何に対して否認権を行使するのか
留保所有権に関する判例の射程の違い(H22.6.4、H29.12.7)

答案の筋

概説(音声解説)

https://note.com/fugusaka/n/neb83e2e4894a

1 本件債権譲渡(実際に権利移転の効果が発生)から「15日を経過した後」に通知(対抗要件具備行為)がなされたわけではなく、対抗要件否認(通知の否認、164条1項)は認められない。一方、本件のような契約は同項の潜脱にほかならず、破産債権者の利益を害するため、破産者に支払の停止等があった後に行われた債権譲渡と同視して、原因行為である債権譲渡自体が162条1項1号により偏頗行為否認される。
2 Zは留保所有権である別除権の行使として引渡を請求することが想定される。しかし、破産管財人は破産者の一般承継人のほか、差押債権者類似の地位も有しており、「第三者」(道路運送車両法5条1項)として保護されるため、Zは対抗できない。また、被担保債権である立替払金等債務には手数料24万円も含まれており、法定代位ではなく、合意により新たに取得したものといえ、弁済の代位を主張できない(民法499条,501条1項)。

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