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司法試験予備試験 行政法 平成28年


問 題

株式会社X(代表取締役はA)は,Y県で飲食店Bを経営しているところ,平成28年3月1日,B店において,Xの従業員Cが未成年者(20歳未満の者)であるDら4名(以下「Dら」という。)にビールやワイン等の酒類を提供するという事件が起きた。
Y県公安委員会は,Xに対し,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「法」という。【資料1】参照。)第34条第2項に基づく営業停止処分をするに当たり,法第41条及び行政手続法所定の聴聞手続を実施した。聴聞手続においては,以下のとおりの事実が明らかになった。
① 未成年者の飲酒に起因する事故等が社会的な問題となり,飲食店業界においても,未成年者の飲酒防止のために積極的な取組が行われているところ,B店では,未成年者に酒類を提供しないよう,客に自動車運転免許証等を提示させて厳格に年齢確認を実施していた。
② 事件当日には,未成年者であるDらとその友人の成年者であるEら4名(以下「Eら」という。)が一緒に来店したために,Cは,Dらが未成年者であることを確認した上で,DらのグループとEらのグループを分けて,それぞれ別のテーブルに案内した。
③ Cは,Dらのテーブルには酒類を運ばないようにしたが,二つのテーブルが隣接していた上に,Cの監視が行き届かなかったこともあって,DらはEらから酒類を回してもらい,飲酒に及んだ。
④ その後,B店では,このような酒類の回し飲みを防ぐために,未成年者と成年者とでフロアを分けるといった対策を実施した。
聴聞手続に出頭したAも,これらの事実について,特に争うところはないと陳述した。その後,聴聞手続の結果を受けて,Y県公安委員会は,法第34条第2項に基づき,Xに対し,B店に係る飲食店営業の全部を3か月間停止することを命じる行政処分(以下「本件処分」という。)をした。
その際,本件処分に係る処分決定通知書には,「根拠法令等」として「法第32条第3項,第22条第6号違反により,法第34条第2項を適用」,「処分の内容」として「平成28年5月1日から同年7月31日までの間(3か月間),B店に係る飲食店営業の全部の停止を命ずる。」,「処分の理由」として,「Xは,平成28年3月1日,B店において,同店従業員Cをして,Dらに対し,同人らが未成年者であることを知りながら,酒類であるビール及びワイン等を提供したものである。」と記されてあった。
Y県公安委員会は,「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく営業停止命令等の基準」(以下「本件基準」という。【資料2】参照)を定めて公表しているところ,本件基準によれば,未成年者に対する酒類提供禁止違反(法第32条第3項,第22条第6号)の量定は「Bランク」であり,「40日以上6月以下の営業停止命令。基準期間は,3月。」と定められていた(本件基準1,別表[飲食店営業]〈法(中略)の規定に違反する行為〉(10))。
Aは,処分決定通知書を本件基準と照らし合わせてみても,どうしてこのように重い処分になるのか分からないとして,本件処分に強い不満を覚えるとともに,仮に,B店で再び未成年者に酒類が提供されて再度の営業停止処分を受ける事態になった場合には,本件基準2の定める加重規定である「最近3年間に営業停止命令を受けた者に対し営業停止命令を行う場合の量定は,(中略)当該営業停止命令の処分事由について1に定める量定の長期及び短期にそれぞれ最近3年間に営業停止命令を受けた回数の2倍の数を乗じた期間を長期及び短期とする。」が適用され,Xの経営に深刻な影響が及ぶおそれがあるかもしれないことを危惧した。
そこで,Xは,直ちに,Y県を被告として本件処分の取消訴訟を提起するとともに,執行停止の申立てをしたが,裁判所は「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」とは認められないとして,この申立てを却下した。
Xの立場に立って,以下の設問に答えなさい。
なお,法の抜粋を【資料1】,本件基準の抜粋を【資料2】として掲げるので,適宜参照しなさい。

設 問

〔設問1〕
本件処分の取消訴訟の係属中に営業停止期間が満了した後には,いかなる訴訟要件が問題となり得るか。また,当該訴訟要件が満たされるためにXはどのような主張をすべきか,想定されるY県の反論を踏まえつつ検討しなさい。

〔設問2〕
本件処分の取消訴訟につき,本案の違法事由としてXはどのような主張をすべきか,手続上の違法性と実体上の違法性に分けて,想定されるY県の反論を踏まえつつ検討しなさい。なお,本件処分について行政手続法が適用されること,問題文中の①から④までの各事実については当事者間に争いがないことをそれぞれ前提にすること。

関連条文

行政手続法
1条(第1章 総則):目的等
2条4号(第1章 総則):定義(不利益処分)
2条8号(第1章 総則):定義(処分基準)
12条(第3章 不利益処分/第1節 通則):処分の基準
13条(同前):不利益処分をしようとする場合の手続
14条(同前):不利益処分の理由の提示

行政事件訴訟法
9条1項(第2章 抗告訴訟/第1節 取消訴訟):原告適格

一言で何の問題か

内部基準 vs 処分基準(法的効果、法的拘束力)
1 「回復すべき法律上の利益」
2 処分基準と理由提示の違法性

つまづき・見落としポイント

1 訴えの利益が認められる期限の明示
2 不十分な理由提示は手続き的違法

答案の筋

概説(5分程度の音声解説)

https://note.com/fugusaka/n/ne5c21428cebb

1 訴えの利益は、取消訴訟の処分本来の効果が失われた場合原則消滅するも、処分の付随的効果が残存し、後行の処分で不利益な扱いを受ける可能性がある場合には、付随的効果の除去が求めらる。ここで、Y県は本基準が内部基準であり法的拘束力を持つものではなく、公安委員会の裁量の一要素に過ぎないと反論すると想定される。しかし、行政手続法は処分基準が公にされた場合、その基準と異なる裁量権を行使することは、裁量権の逸脱・濫用となるため、その取消により法律上の利益を有すると解される。

2 手続上の違法性として、営業停止処分の量定は公安委員会の裁量に委ねられており、裁量権行使の基準として本件基準が定められているところ、量定がランクで区分されていることから、本件基準の適用関係まで示されなければ理由の提示としては不十分であり、瑕疵は処分の違法事由となる。
実体上の違法性として、本件基準は行政規則に過ぎず、法規としての性質を有さないとの反論が想定されるも、処分基準が公にされている場合に、異なる取扱いをすることは原則として裁量権の逸脱・濫用にあたる。本件では、処分を軽減すべき事由が複数あることから、営業停止処分を行うべきではなかったといえ、裁量権の逸脱・濫用にあたり、本件処分は違法である。

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