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司法試験予備試験 商法 平成25年度


問 題

次の文章を読んで、後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
1.X株式会社(以下「X社」という。)は、日本国内において不動産の開発及び 販売等を行う監査役会設置会社であり、金融商品取引所にその発行する株式を上場 している。
2.Y株式会社(以下「Y社」という。)は、日本国内において新築マンションの 企画及び販売等を行う取締役会設置会社であり、監査役を置いている。Y社が発行 する株式は普通株式のみであり、その譲渡による取得にはY社の承認を要するもの とされている。
Y社の発行済株式のうち、75%はX社及びその子会社(以下、X社を含め「X グループ」という。)が、15%はY社の取締役であるAが、10%は関東地方を 中心に住居用の中古不動産の販売等を行うZ株式会社(以下「Z社」という。)が それぞれ保有している。なお、Z社の発行済株式の67%はAが保有し、同社の取 締役はA及びAの親族のみである。
3.X社は平成23年9月、Y社の行う事業をXグループ内の他社に統合する方向 で検討を始め、その後、Aに対し、A及びZ社が保有するY社株式をX社に売却す るよう求めた。しかし、Aは、Y社との資本関係が失われることによって生じ得る Z社の事業展開への不安を訴えて回答を留保し、その後のX社による説得にも応じ なかった。
4.X社は、平成24年6月1日、取締役会を開催し、同年9月1日をもってY社 をX社の完全子会社とする旨の株式交換契約(以下「本件株式交換契約」とい う。)を締結することを適法に決定した。また、Y社でも、同年6月1日、取締役 会を開催し、本件株式交換契約を締結することを適法に決定した。これらの決定を 受けて、X社とY社との間で本件株式交換契約が正式に締結された。本件株式交換 契約においてはY社株主に対しY社株式10株につきX社株式1株を交付する、す なわち、X社とY社との間の株式交換比率(以下「本件交換比率」という。)を1 対0.1とする旨が定められた。
5.X社では、同月29日、定時株主総会が開催され、本件株式交換契約の承認に 関する議案が適法に可決された。
6.Y社でも、同日、定時株主総会(以下「本件総会」という。)が適法な招集手 続に基づき開催された。 Aは、本件総会の議場において、株主としての地位に基 づき、議⻑である代表取締 役Bに対し、自らが取締役から解任される理由につい て質問をした。これに対して Bは、「それはあなたもわかっているはずであり、 答える必要はない。」と回答し、 質疑を打ち切った。A及びZ社は、本件総会に 提出された上記各議案に反対したが、 いずれもXグループ各社の賛成により可決 された。
7.Aは、同年7月、本件交換比率の妥当性について独自に検討し、算定を行うこ ととした。その結果、同年8月、Aとしては、Y社株主に対しY社株式10株につ きX社株式3株を交付するのが妥当であるとの結論に至った。

〔設問1〕Aは、Aを取締役から解任する旨の本件総会の決議の効力を争うことができるか。
〔設問2〕
Aは、Y社に対し、本件交換比率の妥当性を検討するためであることを明らかにし て、本件交換比率をY社が算定するために使用したY社の一切の会計帳簿及びこれ に関する資料の閲覧を請求した。Y社は、この請求を拒むことができるか。なお、 Y社の会計帳簿及びこれに関する資料は書面をもって作成されているものとする。〔設問3〕
本件交換比率を不当と考えるAが、
1 本件株式交換契約に基づく株式交換の効力発生前に会社法上採ることができる手段
2 本件株式交換契約に基づく株式交換の効力発生後に会社法上採ることができる手段
として、それぞれどのようなものが考えられるか。

一言で何の問題か

株主総会決議取消の訴え、裁量棄却、会計帳簿閲覧請求、株式買取請求、株式交換の差止め、特別利害関係株主、株式交換無効の訴え

つまづき、見落としポイント

423Iと429Iの使い分け

答案の筋

1 株主Aは、取締役Bの説明義務違反を理由に、株主総会決議取消しの訴えを提起できる。解任理由について客観的に必要な説明がないため、決議方法が法令に違反している。よって決議日から3カ月以内に訴えを提起し、効力を争うことができる。この際、取締役の説明義務違反は重大なため、裁判所は裁量棄却すべきではない。
2 Aは、Y社の15%の株式を保有し、閲覧請求の理由を明確にした。しかし、Aが所有するZ社とY社は競業関係にあり、閲覧によって得た情報が将来競業に利用される危険性がある。そのため、Aの請求は拒絶事由に該当し、Y社は会計帳簿等の閲覧請求を拒むことができる。
3 株主Aは、株式交換の効力発生前にY社に対し、株式交換の差止めを求め、株式買取請求もできる。株式交換契約承認決議に取消事由がある場合、法令違反となり差止めが可能。また、Aは株主総会決議取消訴訟と株式交換差止請求訴訟を提起し、仮処分を求めることができる。
効力発生後、Aは株式交換無効の訴えを提起できるが、期間は決議の日から3ヶ月以内に限る。また、不当な交換比率や特別利害関係人の議決権行使はY社取締役の忠実義務に反し、Aは損害賠償請求ができるが、責任追及訴えは提起できない。

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