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司法試験 倒産法 平成30年度 第1問


問題

次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事例】
1 A株式会社(以下「A社」という。)は,複数のビルを所有して不動産賃貸業を営む株式会社であり,その代表取締役はBである。
 A社は,平成20年夏頃,甲ビル及びその敷地(以下「本件不動産」という。)を購入することとし,C銀行から3億円を借り入れ,その担保として本件不動産にC銀行を1番抵当権者とする抵当権を設定し,その旨の登記がされた。
 A社は,平成23年4月1日,Dに対し,賃貸期間を10年,賃料を月額100万円と定めて,甲ビルを貸し渡した(以下,この契約を「本件賃貸借契約」という。)。その際,Dは,A社に対し,敷金1000万円を交付した。
2 A社は,平成27年頃から,借り手のつかない所有ビルが多くなってきたことや,かねてより手掛けていた株式取引の失敗等が重なったことにより,次第に経営が悪化し,所有するビルのメンテナンス費用の捻出や借入金の返済にも窮するようになった。そこで,A社は,平成28年秋頃,E信用金庫から5000万円を借り入れ,その担保として本件不動産にE信用金庫を2番抵当権者とする抵当権を設定し,その旨の登記がされた。
 しかし,A社は,その後も一向に経営状態が好転せず,平成30年1月末には,従業員に対する給料も支払えない事態に陥った。また,A社は,同年2月末日を支払期日とする多数の取引先に対する債務の弁済に充てる資金がない状態にあることが判明した。そこで,A社は,同月26日,裁判所に破産手続開始の申立てをした。
 申立てを受けた裁判所は,同月27日,破産手続開始の決定を行い,A社の破産管財人としてXを選任した。
 A社が破産手続開始の決定を受けた時点におけるC銀行が有する貸金債権の額は2億5000万円,E信用金庫が有する貸金債権の額は4000万円であり,他方で,本件不動産の評価額は2億円であった。

〔設問1〕
(1)A社の破産手続が開始された後も,本件賃貸借契約は継続され,Dは,そのまま甲ビルを使用していた。この場合に,Dは,A社に対して有する敷金返還請求権を自働債権として,毎月の賃料債務と相殺することができるか,論じなさい。また,相殺することができないとした場合に,敷金返還請求権の保全のためにDが採ることのできる法的手段として,どのようなものがあるか,論じなさい。
(2)上記(1)のとおり,A社の破産手続開始後も本件賃貸借契約が継続されていたところ,C銀行が,A社のDに対する賃料債権を物上代位により差し押さえた。この場合に,Dは,(1)で論じた敷金返還請求権の保全のための法的手段を採ることができるかどうかについて,理由を付した上で論じなさい。

〔設問2〕
(1)A社の破産管財人Xは,本件不動産を除き,破産財団に属する財産の換価を終了した。Xは,本件不動産をそのまま管理していても,担保余剰がなく,固定資産税や管理費用が掛かるだけで破産債権者にとって何のメリットもないため,本件不動産を破産財団から放棄した上,早期に配当を実施したいと考えている。この場合に,Xは,本件不動産を破産財団から放棄するために,どのような手続を採る必要があるか,また,破産財団から放棄された本件不動産は,誰に帰属するか,説明しなさい。
(2)Xは,上記(1)の手続を行って,本件不動産を破産財団から放棄した。その後,E信用金庫は,本件不動産からは到底その貸金債権4000万円を回収する見込みはないと考えた。この場合に,E信用金庫がA社の破産手続に参加して配当を受けるためには,どのような手続を採る必要があるか。破産手続開始の時において破産財団に属する不動産に抵当権を有する者が,破産手続において行使することができる破産債権の額についての原則,及び,E信用金庫が採るべき手続の相手方に触れつつ,論じなさい。

関連条文

破産法
2条9-10項(第1章 総則):定義(別除権、別除権者)
35条(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):法人の存続の擬制
65条(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):別除権
67条1項(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):相殺権
70条後段(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):
 停止条件付債権等を有する者による寄託の請求
78条(第3章 破産手続の機関 第1節 破産管財人):破産管財人の権限
108条(第4章 破産債権 第1節 破産債権者の権利):別除権者等の手続参加
111条(第4章 破産債権 第2節 破産債権の届出):破産債権の届出
198条3項(第8章 配当 第2節 最後配当):破産債権の除斥等
破産規則
56条(第7章 破産財団の換価 第1節 通則):任意売却等に関する担保権者への通知
民法
622条の2第1項1-2号(第3編 債権 第2章 契約 第7節 賃貸借):
 使用貸借の規定の準用
653条2号(第3編 債権 第2章 契約 第10節 委任):委任の終了事由
会社法
330条(第2編 株式会社 第4章 機関 第3節 役員及び会計監査人の選任及び解任):株式会社と役員等との関係
478条2項(第2編 株式会社 第9章 清算 第1節 総則):清算人の就任

一言で何の問題か

停止条件付債権の相殺、物上代位と寄託請求、管理処分権の放棄と自由財産、別除権者の破産手続への参加

答案の筋

概説(音声解説)

https://note.com/fugusaka/n/n3def8d03d760

1(1) 自働債権が停止条件付債権である場合には相殺は認められないと解されるところ,敷金返還請求権は賃貸借契約の終了に伴う目的物の返還又は賃借権の譲渡を停止条件とする債権であるため、賃借人Dの相殺は認められない。しかし,賃料の支払を強いられる反面,敷金返還請求権の停止条件が成就しても配当によって満足を受けられるのみであるとすると,賃借人の保護に欠けるため、敷金の額を限度として破産管財人に対して賃料の寄託を請求することができる。
1(2) 寄託請求の制度は賃借人保護を目的とするところ,別除権者による差押えという賃借人には何ら帰責性のない事情により寄託請求の可否が決定するのは賃借人の保護に欠けるため,賃料債権について物上代位が行使された場合であっても,賃借人は破産管財人に寄託請求ができる。
2(1) 本件不動産に対する管理処分権を放棄するためには,破産者たるA社の意見を聴いた上で裁判所の許可を得る必要がある。またA社は「法人」であるので,Xは任意売却の2週間前までに別除権者たるCに通知しなければならない。その後,破産法上「清算の目的の範囲内」においては法人の存続が認められているため、破産財団にある財産の放棄をした場合に限って,法人の自由財産に組み入れられる。 
2(2) 別除権者が不足額を破産債権として行使するためには,破産債権についての所定事項等を見積もって届け出る必要があり、別除権者が最後配当の手続に参加するためには,担保権によって担保される債権の全部若しくは一部が破産手続開始後に担保されないこととなったこと等を証明する必要がある。この際、財産が破産財団から放棄された場合であっても旧代表取締役の管理処分権が復活することはないため,旧代表取締役ではなく清算人に対して意思表示をする必要がある。

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