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司法試験予備試験 民訴法 平成30年

問 題

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
【事例】
 Xは,弁護士L1に対し,下記〔Xの言い分〕のとおりの相談を行った。
 〔Xの言い分〕
 私は,Yに対し,所有する絵画(以下「本件絵画」という。)を代金300万円で売り渡し
ました。売買代金については,その一部として100万円が支払われましたが,残代金200万円が支払われませんでした。
 そこで,私は,Yに対し,残代金200万円の支払を請求したのですが,Yは,弁護士L2
を代理人として選任した上,同代理人名義で,売買契約の成立を否認する旨の通知書を送付してきました。
 その通知書には,売買契約の成立を否認する理由として,本件絵画はYが代表取締役をしている株式会社Zの応接間に掛けるために購入したものであり,そのことについてはXに説明していたこと,Xに支払済みの代金は株式会社Zの資金によるものであり,かつ,株式会社Z宛ての領収書が発行されていること及びYがXに交付した名刺は株式会社Zの代表取締役としての名刺であることから,Yは買主ではない旨が記載されていました(以下,これらの記載を「売買契約成立の否認の理由」という。)。
 私としては,残代金の支払を求めたいと思います。

〔設問1〕
 Xから訴訟委任を受けた弁護士L1は,Xの訴訟代理人として,【事例】における本件絵画に係る売買契約に基づく代金の支払を求める訴えを提起することとしたが,その訴えの提起に当たっては,同一の訴状によってY及び株式会社Zを被告とすることを考えている。
このような訴えを提起するに当たり,Y及び株式会社Zに対する請求相互の関係を踏まえつつ, 弁護士L1として考え得る手段を検討し,それぞれの手段につき,その可否を論じなさい。
 なお,設問の解答に当たっては,遅延損害金については,考慮しなくてよい(〔設問2〕及び〔設問3〕についても同じ。)。

【事例(続き)】(〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。)
 以下は,【事例】において弁護士L1がXから相談を受けた際の,弁護士L1と司法修習生Pとの会話である。
弁護士L1:本件で,仮に,訴え提起前に売買契約成立の否認の理由の通知を受けていなかったとすると,Yのみを被告として訴えることが考えられます。これを前提として,もし,その訴訟の途中で,売買契約成立の否認の理由が主張されたとすると,どのような方法を採ることが考えられますか。
修習生P:第1の方法として,Yを被告とする訴訟において,敗訴に備え,株式会社Zに訴訟告知をする方法が考えられます。
弁護士L1:ほかにどのような方法が考えられますか。
修習生P :第2の方法として,Yを被告とする訴訟が係属する裁判所に対し,Xは,株式会社Zを被告として,XZ間の売買契約に基づく代金の支払を求める別訴を提起し,Yを被告とする訴訟との弁論の併合を裁判所に求める方法が考えられます。
弁護士L1:それでは,それぞれの方法の適否を検討しましょう。まず,第1の方法を採ったとして,仮に,Yを被告とする訴訟で,株式会社Zが補助参加せず,かつ,買主は株式会社ZであってXY間の売買契約は成立していないという理由で請求を棄却する判決が確定したとします。この場合には,Xは,株式会社Zを被告として,XZ間の売買契約に基づく代金の支払を求める訴え(以下「後訴」という。)を提起することになると思います。では,①Xは,後訴で,Yを被告とする訴訟の判決の効力を用いることは可能ですか。
修習生P :はい。検討します。
弁護士L1:また,第2の方法を採ったところ,弁論の併合がされたとします。その後,裁判所が弁論を分離しようとした場合には,私としては,「その弁論の分離は,裁判所の裁量の範囲を逸脱して違法である」と主張したいと思います。では,②その主張の根拠となり得る事情としては,どのようなものが考えられるでしょうか。
修習生P :はい。検討します。

〔設問2〕
下線部1の課題について,事案に即して結論と理由を論じなさい。

〔設問3〕
下線部2の課題について,事案に即して答えなさい。

関連条文

民訴法
7条(1編 総則 2章 裁判所 2節 管轄):併合請求における管轄
13条(1編 総則 2章 裁判所 2節 管轄):専属管轄の場合の適用除外等
37条(1編 総則 3章 当事者 1節 当事者能力及び訴訟能力):
 法人の代表者等への準用
38条(1編 総則 3章 当事者 2節 共同訴訟):共同訴訟の要件
39条(1編 総則 3章 当事者 2節 共同訴訟):共同訴訟人の地位
41条(1編 総則 3章 当事者 2節 共同訴訟):同時審判の申出がある共同訴訟
42条(1編 総則 3章 当事者 3節 訴訟参加):補助参加
46条(1編 総則 3章 当事者 3節 訴訟参加):補助参加人に対する裁判の効力
53条1,4項(1編 総則 3章 当事者 3節 訴訟参加):訴訟告知
136条(2編 第一審の訴訟手続 1章 訴え):請求の併合
152条(2編 第一審の訴訟手続 3章 口頭弁論及びその準備 1節 口頭弁論):
 口頭弁論の併合等
民法
561条(3編 債権 2章 契約 3節 売買):併合請求における管轄
会社法
349条4項(2編 株式会社 4章 機関 4節 取締役):株式会社の代表

一言で何の問題か

1 共同訴訟、同時審判申出共同訴訟、訴えの主観的予備的併合
2 訴訟告知と補助参加の参加的効力
3 訴訟(請求)の併合、通常共同訴訟、弁論の併合・分離

つまづき、見落としポイント

請求の併合(136)と弁論の併合(152I)の違い

答案の筋

設問1
XがYと株式会社Zを共同被告として訴えることは認められるも、裁判所の裁量で訴訟は分離され、それぞれ別に判決が下される可能性がある。しかし、二重敗訴を回避するため、同時審判申出共同訴訟を提起することができる。Yに代表権があり、Yが代表として契約を締結した事実はZに対する訴状で請求原因となり、またYに対する抗弁事実となるため、法律上両立しない関係にあるからだ。一方、主観的予備的併合訴訟は法律上認められない。
設問2
XZ間訴訟で、XY間訴訟の判決効力を利用するには、訴訟告知による参加的効力がZに及んでいる必要がある。補助参加可能性と訴訟結果についての利害関係は、訴訟告知制度の主な要件である。
Zが売買契約の買主だったとのXY間訴訟の判決理由は、Zの法的利益に影響を及ぼす主要事実であり、XZ間訴訟では請求原因事実となる。したがって、Zには補助参加の利益が認められ、「参加できる第三者」に該当し、訴訟告知による参加的効力が及び、XY間訴訟の判決の効力を利用できる。
設問3
訴訟が併合(請求の併合)される場合、通常共同訴訟として扱われ、弁論の分離は裁判所の裁量になる。しかし、裁量逸脱は公正・公平な裁判を害し違法となる。
XYとXZの訴訟は両方とも一つの売買契約の効果帰属先を問題にしており、分離すれば、審理が複雑化し、Xが両方で敗訴する不合理な結果が生じる恐れがある。したがって、裁判所が弁論を分離する合理的理由はなく、これが裁量逸脱の根拠となる。

補足:多数当事者訴訟

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