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司法試験予備試験 商法 平成23年度


問 題

次の⽂章を読んで、〔設問1〕から〔設問3〕までに答えよ。
1.Y株式会社(以下「Y社」という。)は、取締役会及び監査役を置く会社法上の公開会社でない会社であり、かつ、株券発⾏会社でない会社である。 Y社は、昭和59年に設⽴された会社であり、その発⾏済株式総数は1000株で、 A及びAの弟であるBがそれぞれ400株を、Aの⻑男C及びAの妻Dがそれぞれ 100株を有していた。Y社の取締役にはA、B及びCの3⼈が、代表取締役にはAが、監査役にはDがそれぞれ就任している。
2.AとBは、平成16年頃から、Y社の経営⽅針についての考え⽅の違いが⽣じたため、互いに話をしなくなり、Bは、その頃から、Y社の取締役会に全く出席しないようになった。
3.Bは、平成23年1⽉頃、⾃らの有するY社の全ての株式を処分しようと考え、知⼈が経営するY社と同業のX株式会社(以下「X社」という。)に対してY社の株式の買取りを打診し、X社の承諾を得た。
そこで、Bは、X社に対し、「譲渡等承認請求に関する⼀切の件をX社に委任する」という内容の委任状(以下「譲渡等承認委任状」という。)及び「株主名簿の名義書換請求に関する⼀切の件をX社に委任する」という内容の委任状(以下「名義書換委任状」という。)を交付した。
4.X社は、同年3⽉15⽇、Y社に対し、譲渡等承認委任状を添付して、X社がBからY社の株式400株を取得した旨及び取得についての承認を求める旨の通知をした(以下この通知による請求を「本件譲渡等承認請求」という。)。
なお、本件譲渡等承認請求においては、Y社⼜は指定買取⼈による買取りについては、請求がされなかった。
5.Aは、同⽉25⽇、Y社の取締役会を開催した。この取締役会には、A及びCが出席したが、Aも、Cも、X社が株主となることを警戒し、取締役会は、X社の株式の取得を承認しない旨を決定する決議をした。
なお、この取締役会の招集通知は、Bに対し、発せられなかった。
6.X社は、Y社から本件譲渡等承認請求に対する取締役会の決定の内容についての通知を受けなかったため、同年4⽉30⽇、Bに対して株式の譲渡代⾦を⽀払うとともに、Y社に対し、名義書換委任状を添付して、株主名簿の名義をBからX社に書き換えるように通知して請求した。
7.同年5⽉2⽇、Y社は、X社に対し、X社の株式の取得について取締役会で承認しない旨を決定したために名義書換請求に応ずることはできない旨を回答し、併せて、Aは、Bに対し、Bの有するY社の株式をAが買い取る旨を提案した。
そこで、Bは、X社に対して受領した譲渡代⾦の返還を申し出た上でAの提案に応じようと考えたが、X社から拒絶されたため、Aの提案に応ずることができなかった。
8.Y社は、同年6⽉、取締役会決議に基づき、A、B、C及びDに対して定時株主総会の招集通知を発送し、A、B、C及びDが出席した定時株主総会において、この定時株主総会の終結の時に任期が満了するA、B及びCを取締役に選任する旨の取締役選任議案を決議した。
なお、Y社は、定時株主総会に関し、定款に基準⽇に係る規定を置いておらず、また、基準⽇に係る公告もしていない。

〔設問1〕
平成23年3⽉25⽇に開催された本件譲渡等承認請求に係るY社の取締役会の決議の効⼒について論ぜよ。
〔設問2〕
Y社の定時株主総会の決議に関し、X社は、その効⼒を争うことができるか。
〔設問3〕
仮に、BがAからの提案(上記7の提案)に応じてY社の株式400株をAに譲渡して代⾦を受領し、Y社がAの株式の取得を取締役会で承認するとともに、定時株主総会の招集通知の発送前までにA及びBの求めに応じてBからAに株主名簿の名義を書き換え、A、C及びDに対して定時株主総会の招集通知を発送していたとしたら、Y社の定時株主総会の決議に関し、X社は、その効⼒を争うことができるか。

関連条文

会社法
130条1項(2編 株式会社 2章 株式 3節 株式の譲渡等):
 株式の譲渡の対抗要件
133条(2編 株式会社 2章 株式 3節 株式の譲渡等):
 株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録
136条(2編 株式会社 2章 株式 3節 株式の譲渡等):
 株主からの承認の請求
137条1項(2編 株式会社 2章 株式 3節 株式の譲渡等):
 株式取得者からの承認の請求
139条1項、2項(2編 株式会社 2章 株式 3節 株式の譲渡等):
 譲渡等の承認の決定等
145条1号(2編 株式会社 2章 株式 3節 株式の譲渡等):
 株式会社が承認をしたとみなされる場合
299条1項(2編 株式会社 4章 機関 1節 株主総会及び種類株主総会等):
 株主総会の招集の通知
309条1項(2編 株式会社 4章 機関 1節 株主総会及び種類株主総会等):
 株主総会の決議
329条1項(2編 株式会社 4章 機関 3節 役員及び会計監査人の選任及び解任):
 選任
330条(2編 株式会社 4章 機関 3節 役員及び会計監査人の選任及び解任):
 株式会社と役員等の関係
355条(2編 株式会社 4章 機関 4節 取締役):忠実義務
368条1項(2編 株式会社 4章 機関 4節 取締役会): 招集手続(各取締役への通知)
369条1項、2項(2編 株式会社 4章 機関 4節 取締役会):
 取締役会の決議(過半数の出席、特別利害関係人)
831条1項1号(7編 雑則 1章 会社の解散命令等 1節 会社の解散命令): 
 株主総会等の決議の取消しの訴え
831条2項(7編 雑則 1章 会社の解散命令等 1節 会社の解散命令):裁量棄却
民法
1条2項(1編 総則 1章 通則):基本原則(信義則)
177条(2編 物権 1章 総則):不動産に関する物件の変動の対抗要件

一言で何の問題か

特別利害関係取締役、株式譲渡承認請求、不当拒絶、信義則、承認みなし

つまづき、見落としポイント

不当拒絶後の対抗要件具備の帰結

答案の筋

1 本件取締役会決議は、取締役Bへの招集通知を欠いているため、368条1項に違反し、無効となるのが原則である。しかし、特別利害関係取締役たるBは本件取締役会に出席しても意見陳述権さえなかったのであり、他の取締役が全員、株式譲渡を不承認としていることから決議に与える影響もなかったのであり、特段の事情が認められる。よって、法的安定性の見地より、本件取締役会決議は例外的に有効となる。
2 Y社は、X社からの株式譲渡承認請求に対して不承認の決議を行っているが、X社にこれを通知しておらず、Y社は譲渡を承認したものとみなされるところ、株主名簿の制度趣旨より、不当拒絶を受けた株主は、名義書換を受けなくても、自己が株主であることを会社に対抗できる。よって、X社は、自己に招集通知が発されていないことを理由に、招集手続の法令違反として、株主総会決議取消しの訴えを提起することができる。
3 X社は株主総会決議取消し訴訟を提起し、効力を争う。AとX間でY社株式の二重譲渡があり、Aが名義書換を完了しており対抗力を備えているとも思えるが、X社は145条の承認みなしで株式を取得している。また、Y社が不当拒絶しており、X社に帰責性はない。ここで、AはY社の実質的支配者と同視できるため、X社の権利行使を妨げず、信義則上X社を株主として扱うべきであり、訴え提起は可能である。

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