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司法試験 倒産法 平成29年度 第2問


問題

次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
A社は,精密部品の製造及び販売を業とする株式会社である。Bは,A社の代表取締役であり,その発行済株式の全部を有していた。A社は,優秀な技術をいかして研究を重ねた結果,競合する他社に勝る品質と価格を実現し,主要取引先である甲社及び乙社に対し,それぞれの仕様に応じた製品を供給して,順調に事業を営んでいた。
ところが,平成28年10月末,甲社向けの製品に仕様と異なる多数の欠陥品が生じたことから,同年11月末に甲社との取引が打ち切られた。そのため,A社は,売上げがほぼ半減し,平成29年1月末日の資金繰りに窮することとなった。
そこで,A社は,弁護士Cを代理人として,平成29年1月25日に再生手続開始の申立てをした。同日,A社について弁済禁止の保全処分(ただし,金5万円以下の債務の弁済は,その対象外とされた。)及び監督命令が発せられ,弁護士Kが監督委員に選任された。
平成29年2月7日,A社について再生手続開始の決定がされた。同決定時のA社の負債の総額は約3億円,債権者総数は50名である。
〔設 問〕
1.再生債権の弁済に関する原則に触れつつ,以下の小問に解答しなさい。
⑴ 再生債権者のうち,債権額3万円未満の者は12社であり,その債権の総額は30万円,その弁済期はいずれも平成29年2月20日であった。同年2月10日までに,そのうち3社からA社に連絡があり,いずれも全額の弁済を強く求めた。他の9社は,特段の要求をせず,債権届出書の作成中であることが判明した。
A社は,弁済を求めている3社に対して支払をすることができるか。C弁護士の立場に立って,そのための方策を根拠とともに述べなさい。また,他の9社については,どうすべきか。
⑵ 再生債権者のうち,製造工程の一部を受注していた者は5社であり,その債権額は70万円から300万円までであった。Bは,申立ての直後からこれら各社を回り,再生手続の遂行について理解を求めたところ,D社を除く4社はおおむね協力的であり,再生債権の届出を行い,従来どおりに取引を継続することを了解した。
一方,D社(債権額100万円,弁済期平成29年2月10日)は,同月15日,債権全額の支払がない限り,今後一切A社との取引をしないと通告してきた。A社は,近時開発した製品αに不可欠なパーツβの製作を全てD社に発注していた。製品αは,A社の戦略商品であり,再生手続開始の申立て後も主要取引先である乙社から安定した出荷の継続を要請され,乙社との取引の継続に必須であるのみならず,将来の取引先拡大など発展の要としても
位置付けられている。
しかし,A社にパーツβの在庫はほとんど残っておらず,D社がパーツβを納品しない限り,A社は製品αの生産ができなくなる。
A社は,D社に対して支払をすることができるか。C弁護士の立場に立って,そのための方策を根拠とともに述べなさい。
2.A社について管理命令が発せられ,弁護士Lが管財人に選任された場合と比較しつつ,以下の小問に解答しなさい。
⑴ A社は,本社の近くに丙土地(担保設定なし)を所有していた。その隣地に居住していたEは,「近々2台目の乗用車を買おうと思っており,その駐車場に丙土地がちょうどよい。お隣同士だから50万円くらいなら買ってもよい。」とBに持ち掛けた。Bは,申出に応じることとし,平成28年10月15日,A社は,Eに対し,丙土地を売却して代金50万円を受領した。おって,その所有権移転登記手続を行う予定であったが,同月末に生じた欠陥品問題の対応にBが追われた事情もあり,登記手続が行われないまま,再生手続開始の申立てに至った。
Eは,平成29年2月10日,A社に対し,丙土地の所有権移転登記手続を求める訴えを提起した。
Eの所有権移転登記手続の請求は認められるか。A社の反論を踏まえて,論じなさい。
⑵ F社は,中古機械の販売等を業とする株式会社であるが,その代表取締役Gは,平成28年9月末の決算期に合わせて在庫の台数を調整し,架空の売上げを計上しようと考え,旧知のBに協力を要請した。A社は,中古機械を必要としていなかったが,Bは,Gの意図を理解し,両社が通謀の上,平成28年9月末日,A社は,F社から中古機械(市場価格300万円程度)を500万円で購入する契約を締結した。同日,F社は,当該中古機械をA社に引き渡したが,打合せどおりF社は代金を請求せず,A社も支払をしなかった。当該中古機械は,A社内に据え置かれたまま,再生手続開始の申立てに至った。
F社は,平成29年2月20日,当該中古機械の売買契約は,通謀虚偽表示(民法第94条)により無効であるとして,A社に対し,その引渡しを求める訴えを提起した。
F社の引渡請求は認められるか。A社の反論を踏まえて,論じなさい。

関連条文

破産法
103条3項(第4章 破産債権 1節 破産債権者の権利):
 破産債権者の手続参加(破産債権の現在化)
民事再生法
66条(第3章 再生手続の機関 3節 管財人):管財人の権限
85条(第4章 再生債権 1節 再生債権者の権利):再生債権の弁済の禁止
155条1項(第7章 再生計画 1節 再生計画の条項):再生計画による権利の変更
民法
94条2項(1編 総則 5章 法律行為 2節 意思表示):虚偽表示
177条(2編 物権 1章 総則):不動産に関する物権の変動の対抗要件

一言で何の問題か

1 個別弁済の禁止の例外(85Ⅴ:少額弁済許可の申立て)
2 管財人と再生債務者の第三者性

つまづき・見落しポイント

5万円以下の債務の弁済が保全処分の対象外とされた意味(:個別弁済可)

答案の筋

概説(音声解説)

https://note.com/fugusaka/n/n7947fcc54870?sub_rt=share_pw

1(1) 3件の少額債権を早期に弁済することにより、再生手続を円滑に進行することができる。また、特に弁済を求めていない9社についても少額弁済をする方が,議決権者の頭数を減らすことができ,債権者平等の原則にも合致するため、裁判所に許可の申立てをするべきである。
1(2) D社はA社の事業の再生に不可欠な取引先であり,D社に対する弁済をすることが,A社再建の観点から合理的といえるため、D社との取引が打ち切られることは「事業の継続に著しい支障を来すとき」に当たる。また、約3億円の負債総額や他の取引先各社に対する債務額(70万円から300万円)を考慮すると、100万円というD社の債権額は大きいとはいえず、「少額」性は認められるため、裁判所に少額弁済許可の申立てを行う。
2(1) 管財人も差押債務者も差押債権者類似の地位を有するため、LもA社も,自身が民法177条の「第三者」に当たるとして,対抗要件の具備なくして丙土地の引渡しを拒むことができ,Eの所有権移転登記手続請求は認められない。
2(2) 代取Bと同視できるA社は虚偽表示の当事者であり,94条2項の「善意の第三者」に当たらないとも思える。しかし,この場合の再生債務者は背後に存在する再生債権者一般の利益を代弁する地位にあるので,再生債権者のうちに一人でも善意の者がいれば善意性が肯定される。よって,管財人が選任されない場合であっても,本件機械の引渡しを拒むことができ,F社の請求は認められない。

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