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司法試験 倒産法 平成26年度 第1問


問題

次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
Aは,先物取引に失敗したことを原因として,消費者金融からの借入れも含め約1億円の負債を負うに至り,債務の支払が不能となったことから,平成24年9月14日,破産手続開始及び免責許可の申立てをし,同月21日,破産手続開始の決定を受け(以下,同開始決定に基づく破産手続を「本件破産手続」という。),破産管財人Xが選任された。
Aの友人であるBは,本件破産手続開始の申立て前の平成22年10月20日,Aに対し,金銭消費貸借契約書を作成することなく,現金で1000万円を貸し付けた。Bは,その当時,自宅において,内縁関係にあったCと同居していたが,その後,Cとの関係が悪化したことから自宅を出て,本件破産手続の開始時点においては外国に長期滞在していたため,同手続が開始されたことを知らなかった。他方,Cは,本件破産手続開始の通知をBの自宅において受け取ったが,同手続が開始された事実をBに知らせることなく,自らがAに上記1000万円を貸し付けたものとして破産債権の届出をした。
破産管財人Xは,Cから届出のあった破産債権の存否及び額等についてAに確認をしたところ,Aは,B及びCは経済的に一体の関係にあり,いずれにしても1000万円を借り受けたことは事実である上,Cが資金を拠出した可能性もあると考えたことから,Cによる破産債権の届出を否定するほどのことはないと考え,破産管財人Xに対し,Cの届出内容に間違いはないと説明した。破産管財人Xは,Aの預金通帳の取引履歴についても確認したところ,平成22年10月20日に現金で1000万円の預入れがされたとの事実を確認することができ,Cの届け出た破産債権の債権者がBであることを示す資料も見当たらなかった。
そこで,破産管財人Xは,平成24年12月10日の一般調査期日において,Cの届け出た破産債権を認め,これに対して他の破産債権者も異議を述べなかったため,当該破産債権は確定した。

〔設 問〕
 以下の1から3までについては,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.上記事例において,Bは,Cの届け出た破産債権が確定した後に帰国し,本件破産手続が係属している事実及びAに対する上記貸付けについてCが自らの債権であるとして破産債権の届出をした事実を知った。Bは,Aに対して当該貸付けをしたのは自らであるとして,最後配当に関する除斥期間の経過前に,裁判所に対して破産債権の届出をすることができるかについて,論じなさい。
また,Bが当該破産債権の届出ができるとした場合,破産管財人Xは,この届け出られた破産債権についていかなる認否をすべきかについて,論じなさい(なお,Bの破産債権届出の際に上記貸付けがBによるものであることを示す証拠が裁判所に提出されたことを前提とする。)。

2.上記事例において,Bは,最後配当の実施後に帰国し,Cが10%の最後配当(100万円)を受けたことを知った。そこで,Bは,Cに対し,不当利得返還請求権に基づき,Cが受領した配当金100万円の返還を求める訴えを提起し,Aに対する上記貸付けをしたのは自らであるから,Cが届け出た破産債権は,CではなくBに帰属すると主張した。BがCに対して当該
主張をすることが許されるかについて,論じなさい。

3.上記事例において,Aは,本件破産手続開始の申立て前の平成24年8月初旬,Dから共同投資のための資金として500万円を現金で預かったが,自己の借入金の返済資金が不足したため,Dの承諾を得ることなく,当該預り金の全額を流用して自己の借入金の返済に充てた。
Aとしては,保有していた投資商品Mについて同月中旬に1200万円の償還が予定されていたことから,その一部を流用した預り金に充てる心積りであり,そうすれば共同投資に支障が生じることはなく,Dに損害を与えることもないと考えていた。ところが,投資商品Mの投資先は,償還期日直前に突然倒産し,Aは1200万円の償還金を受け取ることができなくなっ
た。その結果,Aは,上記預り金を投資資金に充てることも,Dに返還することもできなくなり,Dに対してその損害を賠償すべき債務を負うこととなった。
Aは,本件破産手続開始及び免責許可の申立てをする際,Dに迷惑をかけたくないとの思いから,Dに対する損害賠償債務については,本件破産手続の結果にかかわらず支払おうと考え,債権者一覧表及び債権者名簿に記載しなかった。Dは,本件破産手続が開始したことを知っていたが,同手続外でAから支払を受けようと考え,Aに対する破産債権の届出をしなかった。
その後,本件破産手続は終結し,平成25年2月,Aに対する免責許可の決定が確定した。Aは,本件破産手続中に転職したこともあり,生活は楽ではなかったものの,Dに対する上記の思いから,同年3月,Dとの間で,AのDに対する500万円の損害賠償債務を目的とし,同債務を1年以内に返済することを内容とする準消費貸借契約を締結した。
Dは,平成26年4月,Aに対し,上記準消費貸借契約に基づく債務の履行を求めたが,Aは,その当時,新しい職場での仕事がようやく軌道に乗り始めたところであり,Dに対する上記債務を返済すると経済的に困窮するおそれがあったことから,Dの請求に応じなかった。
Dが,Aに対し,上記準消費貸借契約に基づき500万円の支払を求める訴えを提起し,Aが同契約上の義務を争った場合,Dの請求が認められるかについて,予想されるA及びDの主張を踏まえて,論じなさい。

関連条文

破産法
2条5項(第1章 総則):定義(破産債権)
111条(4章 破産債権 2節 破産債権の届出):破産債権の届出
112条(4章 破産債権 2節 破産債権の届出) : 
 一般調査期間経過後又は一般調査期日終了後の届出
124条(4章 破産債権 2節 破産債権の届出) : 
 異議等のない破産債権の確定
253条(12章 免責手続及び復権 第2節 復権) :免責許可の決定の効力等
民法
709条(第3編 債権 第5章 不法行為):不法行為による損害賠償

一言で何の問題か

届出期間終了後の債権、免責許可決定後の債権

つまづき・見落としポイント

座りが良い結論になっているか、常識的に不自然でないか
免責の対象となるか、一つずつ検討する

答案の筋

概説(音声解説)

https://note.com/fugusaka/n/n93ca892298d1

1 債権届出期間が終了し届出の追完を行う際、「責めに帰することができない事由」があったといえるためには,破産債権者が,通常期待される注意義務を果たしていたことが必要である。一方、破産債権者表への記載によって「確定判決と同一の効力」が生じ、Cの債権が確定した場合には,これと矛盾するBの債権について管財人は否認すべきである。
2 条文の文言及び破産手続の法的安定性を高める観点から,「確定判決と同一の効力」には民事訴訟法上の既判力が含まれ,確定した債権については破産手続外でも争うことはできない。
3 Dの破産債権が非免責債権に該当しないならば,免責許可決定の確定によって免責されるところ、「悪意」とは単なる故意ではなく積極的害意を意味する。また,AはDの債権を知りつつ債権者表に記載しなかったものの、「責任を免れる」とは破産者の債務は残存するが強制履行のできない自然債務になることを指し、債務自体は消滅しない。一方、破産者の自発的意思に基づく準消費貸借契約の締結は原則として認められるが,債務者に経済的再生の機会を与えるという免責制度の趣旨を踏まえてその任意性については厳格に判断すべきである。

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