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司法試験 倒産法 令和2年度 第1問


問題

次の事例について,以下の設問に答えなさい。
【事 例】
A株式会社(以下「A社」という。)は,工作機械の部品の製造を業とする株式会社であり,B株式会社(以下「B社」という。)の完全子会社であって,α地方をその営業地域としていた。
A社は,令和2年6月頃,α地方の製造業の業績悪化のあおりを受け,急激に財務状況が悪化していた。
しかし,A社は,C銀行から,令和2年7月1日,6000万円の運転資金を借り受け,その営業を継続した。また,A社は,同月10日,自動車販売会社であるD株式会社(以下「D社」という。)から,事業用車両1台(以下「本件事業用車両」という。)を代金1000万円で月々50万円を各月15日に支払う旨の割賦払いの約定で所有権留保特約の下,購入した。
なお,本件事業用車両は,D社名義で登録されている。
一方,B社も業績が悪化し,運転資金が欠乏するに至り,B社は,E銀行から,令和2年7月16日,5000万円の運転資金を借り受けた。
ところが,A社が部品を卸していた主たる取引先が令和2年8月14日,破産手続開始の決定を受けた。この事態に至り,A社の代表取締役であるXは,同年9月1日,C銀行に対し,運転資金の追加融資を依頼したが断られた。そのため,A社は,同月4日,全ての債権者に対し,「当社は,資金繰りに行き詰まり,本日までにお支払いをすべき債務の支払ができなくなり,今後,支払ができる見込みもありません。そのため,関係各位には,ご迷惑をお掛けいたしますが,近々破産の申立てをする予定です。」と記載された通知書(以下「本件通知書」という。)を郵送した。
A社が本件通知書を発したことを知ったE銀行は,親会社であるB社の資金繰りにも不安を抱き,B社に対し,E銀行に対する債務5000万円について担保の提供を求めた。そこで,B社の依頼を受けたA社は,令和2年9月10日,B社のE銀行に対する債務5000万円を担保するため,A社の所有する甲土地に抵当権を設定し(以下「本件担保提供」という。),同月14日,当該抵当権設定登記(以下「本件抵当権設定登記」という。)が経由された。なお,A社は,甲土地以外の不動産を所有しておらず,他にみるべき財産を有していない。
また,A社は,本件事業用車両の代金につき9月分以降の分割代金を支払うことができなかったため,令和2年9月23日,本件事業用車両の残代金900万円の支払に代えて,D社に対し,本件事業用車両を代物弁済に供した。その当時の本件事業用車両の評価額は,750万円であった。
A社は,令和2年12月1日,α地方裁判所に破産手続開始の申立てを行い,同月2日午後5時,破産手続開始の決定がされ,破産管財人Yが選任された。

〔設 問〕
 以下の1から3については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1.【事例】において,仮に,C銀行が令和2年11月2日,本件担保提供について,詐害行為取消権に基づき,E銀行に対し,α地方裁判所に本件抵当権設定登記の抹消登記手続請求訴訟(以下「本件訴訟1」という。)を提起し,同年12月2日現在,同裁判所に係属中であったとする。本件訴訟1は,A社に対する破産手続開始の決定により,どのような取扱いを受けるか,論じなさい。
2.【事例】において,仮に,破産管財人Yが本件担保提供について,破産法第160条第1項又は第162条第1項に基づき否認するとして,E銀行に対し,α地方裁判所に本件抵当権設定登記の抹消登記手続請求訴訟(以下「本件訴訟2」という。)を提起したとする。本件訴訟2における破産管財人Yの上記主張の当否について,本件担保提供がA社の債務を担保するた
めではなく,A社の親会社であるB社の債務を担保するためのものであることに留意して論じなさい。
3.【事例】において,仮に,破産管財人Yが令和2年9月23日にD社に対してされた本件事業用車両による代物弁済について,破産法第162条第1項に基づき否認するとして,D社に対し,α地方裁判所に本件事業用車両の引渡請求訴訟(以下「本件訴訟3」という。)を提起したとする。本件訴訟3における破産管財人Yの上記主張の当否について,論じなさい。

関連条文

破産法
2条9項(第1章 総則):定義(別除権)
44条(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):
 破産財団に関する訴えの取扱い
45条(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):
 債権者代位訴訟及び詐害行為取消訴訟の取扱い
65条(第2章 破産手続の開始 第3節 破産手続開始の効果):別除権
160条(6章 破産財団の管理 第2節 否認権) : 破産債権者を害する行為の否認
162条(6章 破産財団の管理 第2節 否認権) : 
 特定の債権者に対する担保の供与等の否認
民法
424条(第3編 債権 第1章 総則 第2節 債権の効力):詐害行為取消請求
424条の7第1項(第3編 債権 第1章 総則 第2節 債権の効力):被告及び訴訟告知

一言で何の問題か

訴訟の中断・受継、偏頗行為否認の債務、留保所有権と否認権

つまづき・見落としポイント

留保所有権→別除権の論点を書くか、書かないか

答案の筋

概説(音声解説)

https://note.com/fugusaka/n/n4a9ecfecb700

1 破産者を訴訟当事者としない詐害行為取消訴訟も中断の対象となり,破産管財人Yによる受継が認められ、相手方であるE銀行も受継の申立てができる。なお,破産手続開始前に一債権者がした訴訟追行の結果にまで破産管財人が拘束される理由はないので,破産管財人による受継拒絶は認められる。
2 162条1項で偏頗行為否認が定められた趣旨は,すべての債権に対して弁済ができなくなった場合において,特定の債権者の抜け駆けにより総債権者の公平が害されるのを防ぐことにあり、「既存の債務」とは破産者自身の債務にのみ妥当するため、本条ではなく詐害行為(160条1項2号)を根拠とした否認権行使が認められる。
3 留保所有権の実質は、代金債権を担保目的とする担保権の一種であり別除権に含まれる。ここで、偏頗行為否認の趣旨が総債権者の公平を保つことにあるところ,担保権は別除権として破産手続によらずに行使できる。よって、担保目的物を代物弁済に供したとしても,担保目的物は責任財産を構成せず,総債権者の公平は害されず有害性を欠く結果、Yによる否認権行使の主張は認められない。

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