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司法試験予備試験 商法 平成24年度


問 題

次の文章を読んで、後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1.X株式会社(以下「X社」という。)は、国内にのみ本店及び支店を有し、化 学繊維の製造及び販売を目的とする取締役会を置く会社である。X社の取締役は、 A、B及びCの3人であり、その代表取締役は、Aのみである。
2.Y株式会社(以下「Y社」という。)は、国内にのみ本店及び支店を有し、洋 服の製造及び販売を目的とする取締役会を置く会社であり、直近数年の平均的な年 間売上高が1億円であった。Y社では、Aの旧知の友人であるBが唯一の代表取締 役に就任している。
3.X社は、大手アパレルメーカーからの依頼を受け、洋服用の生地(以下「本件 生地」という。)を製造したところ、この大手アパレルメーカーが倒産したため、 本件生地を大量に在庫として抱えることとなった。
4.そこで、Aは、Bに対し、Y社において本件生地を代金1億円で購入してもら えないかと打診した。Bは、本件生地が高品質のものであり、これを用いて洋服を 製造し販売すれば売上げの大幅な増加が見込めるので、本件生地を購入したいと考 えたが、Y社において代金1億円を現金で直ちに支払うことは困難であった。その ため、Bは、Aに対し、6か月後の日を満期とする約束手形により支払うことでよ ければ購入したいと伝えた。Aは、Bのこの提案を了承した。そこで、X社は、Y 社に対し、平成23年9月1日、本件生地を代金1億円で売却した(以下「本件売 買契約」という。)。これに対し、Y社は、Y社代表取締役Bの名義で、同日、本 件売買契約の代金の支払のため、次の内容の約束手形(以下「本件手形」とい う。)を振り出した。

金 額 1億円
満 期 平成24年3月1日
支 払 地 甲県乙市
支払場所 丙銀行丁支店
受 取 人 X社
振 出 日 平成23年9月1日
振 出 地 甲県乙市

5.本件売買契約の締結については、X社及びY社の取締役会において、いずれも その承認や決定がされることはなかった。
6.Y社は、本件生地を受領した際に、その一部につき抜き出して詳細な検査をし、 その余は外観上の検査をした結果、本件生地に特に異常は見付けられなかった。
7.他方、X社は、Zに対し、平成23年9月8日、Y社から交付を受けた本件手 形につき拒絶証書の作成を免除して、本件手形を割引のため裏書譲渡した。Zは、 本件手形の裏書譲渡を受ける際に、本件手形が本件売買契約の代金の支払のために 振り出されたものであることを知っていた。
8.Y社は、本件生地を用いて洋服を製造し販売した。ところが、Y社は、平成2 4年2月になって、その洋服の購入者から苦情を受け、本件生地のほとんどに染色 の不具合があり、数回洗濯すると極端に色落ちすることが分かった。そこで、Y社 は、直ちにX社に対してその旨の通知を発した上で、同月20日、本件売買契約を 解除する旨の意思表示をした。 9.Zは、平成24年3月2日、本件手形につき丙銀行丁支店において支払のため の呈示をした。

〔設問1〕 本件売買契約の効力及び解除に関し、Y社からみて、会社法上及び商法上どのような点が問題となるか。

〔設問2〕 Y社は、Zによる本件手形の手形金支払請求を拒むことができるか。

関連条文

商法
4条1項(1編 総則 2章 商人):定義(商人)
526条(2編 商行為 1章 総則):買主による目的物の検査及び通知
会社法
5条(1編 総則 1章 通則):商行為
349条4項(2編 株式会社 4章 機関 4節 取締役):株式会社の代表
356条1項2号~3号(2編 株式会社 4章 機関 4節 取締役):
 競業及び利益相反取引の制限(直接取引、間接取引)
362条2-4項(2編 株式会社 4章 機関 5節 取締役会):取締役会の権限等
365条1項(2編 株式会社 4章 機関 5節 取締役会):
 競業及び取締役会設置会社との取引等の制限(株主総会→取締役会)
手形法
10条(1編 為替手形 1章 為替手形の振出及び方式):白地手形
17条(1編 為替手形 2章 裏書):人的抗弁の制限
77条1項1号(2編 約束手形):為替手形に関する規定の準用
民法
93条1項(1編 総則 5章 法律行為 2節 意思表示):心裡留保
541条(3編 債権 2章 契約 1節 総則):催告による解除
564条(3編 債権 2章 契約 3節 売買):買主の損害賠償請求及び解除権の行使

一言で何の問題か

1 X社とY社の契約違反による手形の無効性と債権の回収可能性
2 Y社の人的抗弁による手形金支払請求拒否の可否とZの権利保護

つまづき・見落としポイント

契約成立と解除の有効性

答案の筋

1 本件売買契約について、Y社から見れば間接取引としての取締役会の決議は不要で、契約の有効性に問題はない。しかし、X社から見ると、直接取引にあたり取締役会の決議が必要となる。ただし、Y社は、X社において取締役会決議がないことを理由に契約の無効を主張し得ない。一方、本件売買契約がY社において重要な財産の譲受けにあたるかが問題となり、結論として重要な財産の譲受けにあたるとされ、取締役会の決議が必要とされる。本件では、X社に過失があるとして、本件売買契約は無効とされる。
また、本件契約の解除は、納品した生地の染色不良を理由とし、契約不適合責任の追求としての解除である。Y社は、適切な検査を行い、不具合を発見して直ちに通知し、解除の意思表示を行った。そのため、本件売買契約の解除は有効とされる。
2 本件では、Y社は手形法に基づいてZの手形金請求を拒むことができるかが問題となる。原則として、Y社は人的抗弁を対抗できないが、Zが債権者を害することを知りつつ手形を取得した場合、例外的に抗弁を対抗できる。しかし、Zは手形取得時に売買契約の無効の主張や解除の抗弁を基礎付ける事実を知らず、満期時にY社が支払いを拒むことが確実であるとの認識もなかった。従って、Y社はZによる手形金支払請求を拒むことができない。

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