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旧司法試験 刑法 平成17年度 第2問


問題

 A県B市内の印刷業者である甲は、知⼈でB市総務部⻑として同市の広報誌の印刷発注の職務に従事している⼄に現⾦を渡して同市が発注する広報誌の印刷を受注したいと考えていた。そうした折、甲は、同県内の⼟⽊建設業者である知⼈の丙から同県発注の道路⼯事をなるべく多く受注するための⽅法について相談を受けたので、この機会に丙の⾦を⾃⼰のために⼄に渡すことを思い付き、⼄に対し、「近いうちに使いの者に80万円を届けさせます。よろしくお願いします。」と伝えたところ、⼄は、甲が80万円を届けさせることの趣旨を理解した上、これを了承した。⼀⽅、甲は、丙に対し、「県の幹部職員である⼄に⾦を渡せば、道路⼯事の発注に際して便宜を図ってくれるはずだ。⼄に80万円を届けなさい。」と⾔ったところ、これを信じた丙は、使者を介して⼄に現⾦80万円を届けた。⼄は、これが甲から話のあった⾦だと思い、その⾦を受領した。
 後⽇、丙は、甲が丙のためではなく甲⾃⾝のために⼄に80万円を届けさせたことを知るに⾄り、甲に対して80万円の弁償を求めた。しかし、甲は、丙に対し、「そんなことを⾔うなら、おまえが80万円を渡してA県の道路⼯事を受注しようとしたことを公表するぞ。そうすれば、県の⼯事を受注できなくなるぞ。」と申し向け、丙をしてその請求を断念させた。
甲、⼄及び丙の罪責を論ぜよ(ただし、特別法違反の点は除く。)。

関連条文

刑法
45条(第1編 総則 第9章 併合罪):併合罪
54条(第1編 総則 第9章 併合罪):
 一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理
60条(第1編 総則 第10章 累犯):共同正犯
197条(第2編 罪 第25章 汚職の罪):収賄、受託収賄及び事前収賄(受託収賄罪)
198条(第2編 罪 第25章 汚職の罪):贈賄
246条(第2編 罪 第37章 詐欺及び恐喝の罪):詐欺
249条(第2編 罪 第37章 詐欺及び恐喝の罪):恐喝利得罪
民法
708条(第3編 債権 第4章 不当利得):不法原因給付

一言で何の問題か

贈収賄の介助者、不法原因給付

つまづき、見落としポイント

贈賄に隠れた詐欺、幇助の故意

答案の筋

欺罔行為、不法領得の意思及び不法原因給付について検討するに、甲は丙に対する詐欺罪が成⽴する。また、同一行為について、賄賂、実行行為性を検討するに、贈賄罪の間接正犯が成立する。さらに、恐喝、財産上不法の利益について検討するに、甲が丙に対して80万円の請求を断念させた⾏為に恐喝利得罪が成⽴する。
甲の対向犯として、⼄に受託収賄罪が成⽴する。
丙の交付した⾦銭には職務との対価性がなく、客観的に贈賄の結果は⽣じておらず、丙に甲の贈賄行為についての幇助の故意もないため、丙は何ら罪責を負わない。

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