見出し画像

司法試験予備試験 民法 平成24年度


問題

次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。


【事実】

1.A(女性,昭和22年生)は,配偶者がいたが,平成2年5月頃から,B(男性,昭和27年生)と交際するようになり,同年10月には,配偶者との離婚の協議を始めた。
2.Aは,平成3年8月,配偶者と離婚した。A及びBは,これを契機として,マンションを賃借し,そこで同居をするようになった。もっとも,離婚を経験したAは,Bとの婚姻の届出をすることをためらい,Bと話し合いの上,その届出をしないままBとの生活を続けた。
3.平成3年当時,Aは,甲土地を所有しており,甲土地についてAを所有権登記名義人とする登記がされていた。A及びBは,相談の上,甲土地の上にBが所有する建物を建築することを計画した。この計画に従い,平成5年3月,甲土地の上に所在する乙建物が完成して,乙建物についてBを所有権登記名義人とする所有権の保存の登記がされ,同月,A及びBは,乙建物に移り住んだ。
4.Aは,かねてよりヨーロッパのアンティーク家具や小物の収集を趣味としていたが,平成 18年秋頃から,そうした家具などを輸入して販売する事業を始めた。Aは,同年9月,この事業の資金として3000万円を銀行のCから借り入れた。その返済の期限は,平成22年9月30日と定められた。
5.同じく平成18年9月に,この借入れに係る債務を担保するため,Aは,甲土地についてCのために抵当権を設定し,また,Bも乙建物についてCのための抵当権を設定し,同月中に,それぞれその旨の登記がされた。乙建物については,Bが,Aから依頼されて,Aの事業に協力する趣旨で,抵当権を設定したものである。
6.Aの事業は,しばらくは順調であったものの,折からの不況のため徐々に経営が悪化し,平成22年9月30日が経過しても,Aは,Cからの借入金を返済することができなかった。そこで,Cは,甲土地及び乙建物について抵当権を実行することを検討するに至った。

〔設問1〕
【事実】1から6までを前提として,以下の(1)及び(2)に答えなさい。
(1) Aが,銀行のDに対し預金債権を有しており,その残高がCに対する債務を弁済するのに十分な額であると認められる場合において,Bは,乙建物について抵当権を実行しようとするCに対し,AがCに弁済をする資力があり,かつ,執行が容易である,ということを証明して,まずAの財産について執行しなければならないことを主張することができるか,理由を付して結論を述べなさい。
(2) Bは,Aに対し,あらかじめ,求償権を行使することができるか。また,仮にCが抵当権を実行して乙建物が売却された場合において,Bは,Aに対し,求償権を行使することができるか。それぞれ,委託を受けて保証をした者が行使する求償権と比較しつつ,理由を付して結論を述べなさい。

Ⅱ 【事実】1から6までに加え,以下の【事実】7から10までの経緯があった。
【事実】
7.その後,Aの事業は,一時は倒産も懸念されたが,平成22年12月頃から,一部の好事家 の間でアンティーク家具が人気を博するようになったことを契機として,収益が好転してきた。Aは,抵当権の実行をしばらく思いとどまるようCと交渉し,平成23年4月までに,Cに対し,【事実】4の借入れに係る元本,利息及び遅延損害金の全部を弁済した。
8.平成23年9月,Aは,体調の不良を感じて病院で診察を受けたところ,重篤な病気であることが判明した。Aは,同年11月に手術を受けたものの,手遅れであり,担当の医師から,余命が3か月であることを告げられた。 そこで,Aは,平成24年1月18日,Bとの間で,AがBに甲土地を贈与する旨の契約を締結し,その旨を記した書面を作成した。
9.Aは,平成24年3月25日,死亡した。Aは,生前,預金債権その他の財産を負債の返済 に充てるなどして,財産の整理をしていた。このため,Aが死亡した当時,Aに財産はなく, また,債務も負っていなかった。
10.Aが死亡した当時,Aの両親は,既に死亡していた。また,Aの子としては,前夫との間にもうけたE(昭和62年生)のみがいる。

〔設問2〕
Eは,Bに対し,甲土地について,どのような権利主張をすることができるか。また,その結果として,甲土地の所有権について,どのような法律関係が成立すると考えられるか。それぞれ理由を付して説明しなさい。

関連条文

民法
351条(第2編 物権 第9章 質権 第1節 総則):物上保証人の求償権
369条(第2編 物権 第10章 質権 第1節 総則):抵当権の内容
372条(第2編 物権 第10章 抵当権 第1節 総則):留置権等の規定の準用
446条1項(第3編 債権 第1章 総則 第3節 多数当事者の債権及び債務):
   保証人の責任等
452条(第3編 債権 第1章 総則 第3節 多数当事者の債権及び債務):
   催告の抗弁
453条(第3編 債権 第1章 総則 第3節 多数当事者の債権及び債務):
   検索の抗弁
459条(第3編 債権 第1章 総則 第3節 多数当事者の債権及び債務):
   委託を受けた保証人の求償権
460条(第3編 債権 第1章 総則 第3節 多数当事者の債権及び債務):
   委託を受けた保証人の事前の求償権
649条(第3編 債権 第2章 契約 第10節 委任):
   受任者による費用の前払請求
882条(第5編 相続 第1章 総則):相続開始の原因
887条(第5編 相続 第2章 相続人):子及び代襲者等の相続権
1042条(第5編 相続 第9章 遺留分):遺留分の帰属及びその割合
1043条(第5編 相続 第9章 遺留分):遺留分を算定するための財産の価額
1044条(第5編 相続 第9章 遺留分):(贈与)
1045条(第5編 相続 第9章 遺留分):(負担付贈与)
1046条1項(第5編 相続 第9章 遺留分):遺留分侵害額の請求

一言で何の問題か

物上保証人による検索の抗弁と事前求償、遺留分侵害額請求

答案の筋

1(1) 保証人が全財産をもって責任を負うのと異なり、物上保証人は目的不動産の範囲でのみ責任を負うにすぎない。また、物上保証人に検索の抗弁を認めた場合、抵当権が有する優先弁済権、すなわち確実な債権回収という抵当権者の期待を害するため、認められない。
1(2) 事後求償の条文(372条、351条)の文言である「弁済し」「所有権を失ったとき」から事前求償は認められないところ、委託を受けた保証人と異なり、弁済の事務処理費用を観念できず(460条2号本文)、また、求償額は、抵当権が実行されなければ確定しないため、事前求償は認めれない。
2 EはBに対し「遺留分侵害額」である甲土地の価額の2分の1の額に「相当する金銭」につき遺留分侵害額請求の権利主張をすることができる(所有権はBのまま)。

ここから先は

2,860字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?