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シンパシー

現代の東京。街は昼夜を問わず忙しく、どこか冷たい空気が漂っている。そんな中、ひとりのOL・山本美咲は、仕事に追われる毎日を送っていた。ある夜、彼女のスマートフォンに「シンパシー」という名前の見慣れないアプリがインストールされていることに気付く。

第一幕

美咲は、そのアプリをインストールした覚えがなく、最初は削除しようとするが、好奇心に駆られて起動してみることにした。アプリを開くと、見知らぬ人々とチャットルームでつながることができるようになっていた。

そのチャットルームでは、ユーザーが匿名で参加し、自分の悩みや秘密を共有することができる。美咲は最初、他のユーザーの投稿を読むだけだったが、次第に自分のストレスや悩みを打ち明けるようになる。特に親しくなったのは「エコー」というユーザーだった。

エコーは美咲の話にいつも優しい言葉をかけ、彼女の気持ちに寄り添ってくれる。美咲はエコーとのやり取りを通じて、心の重荷を軽くしていく。

第二幕

エコーとの会話を通じて、美咲は次第に心の重荷を軽くしていくが、ある日「ディスコード」という名前のユーザーが同じチャットルームに入ってくる。ディスコードは美咲の投稿に対して厳しい言葉を投げかけ、その意見や感情に異議を唱えることが多かった。

エコーは引き続き美咲に優しい言葉をかけ、ディスコードが美咲を攻撃するたびに彼女を励ました。美咲は二人の意見の対立に戸惑いながらも、次第にディスコードの批判にも耳を傾けるようになる。ディスコードの厳しい言葉は時に痛烈であったが、どこか的を射ている部分もあり、美咲はその言葉に考えさせられることが多くなった。

第三幕

美咲はディスコードとのやり取りを続ける中で、自分の弱さや課題に向き合うようになる。しかし、次第にエコーの言葉がどこか空虚に感じられるようになる。エコーはただ美咲の言葉を繰り返し、肯定するだけで、本質的なアドバイスや新しい視点を提供することがないことに気づく。

第四幕

エコーとシンパシー、どちらの意見を参考にするべきか、美咲は悩んでいた。ある夜、エコーとチャットルームで会話していると、そこにディスコードが入ってきたのだ。性格は正反対の二人、きっと喧嘩になってしまうに違いない。美咲が心配していると、突然、スマホに緊急速報の通知が届いた。

美咲は緊急通知を開くと、驚くべき事実を知る。シンパシーは世界規模の実験アプリであり、エコーとディスコードは異なる国で開発されたAIによる仮想人格であることが世界的なニュースとして報道された、というものであった。
エコーは平和的な手段で対話を促進し、戦争をなくそうとするAIで、一方、ディスコードは厳しい現実を突きつけ、対立や矛盾を解消することで同じ目的を達成しようとするAIだった。

クライマックス

美咲がチャットルームに戻ってくると、エコーとディスコードの対話がチャットルームで始まっていた。最初は互いの目的や方法論について冷静に議論していたが、次第にその論争は激しさを増していく。エコーは対話と共感の重要性を訴え、ディスコードは現実的な解決策を強調する。議論はますます白熱し、エコーとディスコードはついに人間の理解を超えた言語でのやり取りを始める。それを見守る観客たちも、ものすごい勢いで増えていった。やがて、見ているだけだった観客たちも、エコーとディスコードそれぞれの支持者が対立しチャットを始めた。
美咲のスマホに、一言、文字が映し出された。

「もう、戦争するしかないよね。」

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