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輪廻するゴミ箱

僕は家に帰る時、妻に内緒で買い食いしている事がバレたくなくて、悪いとは分かっていたけど、近くのペットボトル専用のゴミ箱に、帰り道にこっそり買った唐揚げのゴミなどを捨てるのが習慣になってしまっていた。ペットボトル専用のゴミ箱に食べ物のゴミを捨てることに多少の罪悪感を感じながらも、妻にバレるのが嫌で続けていた。

ある日、僕がいつものように唐揚げのゴミを捨てた翌朝、キッチンに見覚えのある唐揚げの紙袋が転がっていた。妻が気づく前に慌てて捨てたが、それはほんの始まりに過ぎなかった。次の日も、その次の日も、捨てたはずのゴミが家に戻ってきていた。紙袋やレシートだけでなく、弁当の空容器やペットボトルまで、どれもこれも家に戻ってきていた。

日に日に不安が募る中、ある晩、僕はキッチンで妙な音を聞いた。恐る恐る向かうと、ゴミ箱に捨てたはずの空き缶がテーブルの上に転がっていた。それだけでなく、捨てた覚えのない骨のようなものも見つかった。最初は動物の骨かと思ったが、それにしては形が人間のものに似ていた。

次の日もゴミが戻ってきたが、今度は衣類の一部だった。それを見て僕は何か思い出しそうになったが、恐怖で考えを振り払った。

そして、ある夜、僕は全てを思い出した。隣人が間違ったゴミを捨てていた自分のことを見つけて注意しに来たとき、衝動的に逆上してしまい、隣人を殺してしまったのだ。証拠を消すために隣人の遺体をバラバラにしてそのゴミ箱に捨てたが、その証拠が次々と家に戻ってきたのだ。自分の罪が暴かれるのは時間の問題だった。

恐怖と罪悪感に苛まれた僕は、パニックに陥った。そして、その勢いで家を飛び出し、捨てたゴミが戻ってくるゴミ箱へと向かった。夜の闇の中、冷たい汗を流しながらゴミ箱の前に立つと、無意識のうちにその中に自分を押し込んだ。

ゴミ箱の中は暗く、狭い空間だったが、不思議と落ち着く感覚があった。やがて意識が薄れていく中、僕は自分の行動の愚かさに気づき始めたが、もう遅かった。

朝になり、ゴミ収集車がゴミ箱を回収に来た時、僕の姿はもうどこにも見当たらなかった。家には捨てたゴミが戻ってくることもなくなった。

しかし、妻はその日から、夫の失踪と共に何かが変わってしまったことに気づいていた。キッチンに一人でいると、どこからか「カラン」という音が響いた。驚いて音の方を向くと、テーブルの上に見慣れた指輪が転がっていた。その指輪には、僕と妻の名前が刻まれていた。

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