見出し画像

【ニンジャスレイヤーDIY小説】グルメ・オブ・ロンリネス(コンビニ食材でホットサンドを作ろう編)

※コレはウォーカラウンド・ネオサイタマ・ソウルフウードに着想を得た、エーリアス=サンがご飯を食べるだけの二次創作です。

最近どこにも外食に行けない日々なので、コンビニで食料調達をしてもらいました。
深く考えずに読むんだ、いいね。

◆◆◆

『安い、安い、実際安い』『ワー!スゴーイ!』『ケモビールこれが大好き!!』

店内放送や販促用の小型モニターから、競い合うように広告音声が鳴り響く。陳列棚には自己主張の強すぎるパッケージの商品が所狭しと並び、今にも溢れ返ってきそうだ。ネオサイタマのコンビニは、外の猥雑な街並みをそのまま凝縮したようだと思う。

「何買うンだっけか……」

冷蔵庫の中身が心許なくてちょっと買い物に来たはいいが、押しの強い売り場をフラフラと歩くうちに、何を買うべきなのか分からなくなってしまった。空腹のはずなのに、この状態では何を買っても後悔しそうな気さえする。

「あァ、そっか」

とりあえず、飲み干してしまった牛乳だけでも買って帰ろうと、冷蔵ケースの方へ足を向ける。壁面をびっしり覆うような背の高い冷蔵ケースの上部には、A4サイズのポップが隙間なく貼られていた。その中の1枚に目が止まる。

『コンビニ食材ホットサンドでカチグミ的朝食』

なんとも庶民的な背伸びを感じさせるキャッチコピーだ。その下には、ポテトサラダ、ハム、スライスチーズ、食パンの商品画像の切り抜き。そして調理されたホットサンドの写真。こんがり狐色に焼けた食パンの断面から流れ出るチーズが、空きっ腹に強烈な一撃を食らわせる。この瞬間、俺の心は決まった。牛乳を手に取るついでに、袋入りの出来合いポテトサラダとハム、スライスチーズをカゴに放り込む。

「後は……食パンか」

振り返ればすぐそこにパンコーナーがあった。なるほど冷蔵ケースの向かいとは、隙のない配置だ。6枚切りと10枚切りで悩み、それから先日銭湯で乗った体重計のことを思い出して10枚切りを選ぶ。今の俺は実際居候のようなもので、気を遣うのだ。色々と。

「こんなもんかね」

ついでにトーフとコブチャもカゴに入れ会計に向かう。先ほどまでは何を買うか迷って店内で途方に暮れていたのに、指針さえ決まってしまえばあっという間だった。……誰が作ったポップか知らないが、まんまと製作者の意図通りに買い物してしまって少しだけ悔しい気がした。

◆◆◆

「ただいまーっと」

買い物袋を片手に帰宅すると、不如帰の掛け軸とフクスケが出迎える。この部屋での生活も気付けば長いものだ。買ってきたものを冷蔵庫に仕舞い、使うものだけをキッチンスペースに放る。それからシンクの下の棚を漁り、目当てのものを探し出す。確かこの辺に……。

「あった!」

奥の方から取り出したのはパンを挟んで焼くだけの限りなくシンプルな調理器具、ホットサンドメーカー。「使わないから」と大家さんから貰ったコイツが役に立つ時がついにきた。軽く洗って布巾で拭けば、ほとんど新品同様だ。

10枚切りの食パンを取り出して、ホットサンドメーカーに乗せる。そしてスライスチーズとハムを敷き、それらが見えなくなるように丁寧にポテトサラダを広げる。仕上げに蓋をするように食パンを乗せて、ホットサンドメーカーでギュッと挟み込み、持ち手のストッパーを引っ掛けると下準備は完了だ。

「卵もあれば完璧なンだがなぁ……」

ガイオンにいた頃だったら、卵はその辺のスーパーやコンビニで比較的簡単に手に入ったが、ネオサイタマでは流通の事情が違うらしい。限られた飲食店でしか需要がないため、そうそうお目にかかることはない。食文化の違いにもだいぶ慣れてきたと思っていたが、こういう時にはガイオンが恋しくなる。

「まぁ、うん。妥協も必要か」

郷に入っては郷に従え。ないものはないのだ。今の俺にできるのは、この場にある食材で最善を尽くすことのみ。年季が入った作り付けのガスコンロに、ホットサンドメーカーを乗せて火をつける。厚みのある黒々とした鉄板の表面に、ギリギリ火が届くかどうかという弱めの火加減だ。

「ついでにチャでもいれるかね」

ホットサンドメーカーの隣でヤカンを火にかけ、洗って伏せていた急須に、適当に茶葉を突っ込む。それからチャブ台を片付けに向かった。新聞や雑誌の束を適当に部屋の隅に押しやって、空になったコブチャのボトルをシンクで洗い、ラベルを剥がして分別する。そろそろペットボトルをまとめて捨てに行かないと、分別回収用の袋がいっぱいになりそうだ。次の回収日はいつだったかとカレンダーを見ようとして、かすかに焦げ臭さを感じる。

「アーッ!やっちまったか?!」

火にかけたことを忘れていたホットサンドメーカーを慌ててひっくり返し、ストッパーを外して中を覗く。弱火で加熱されていた面は、こんがりを若干通り越しているものの、真っ黒焦げの大惨事には至っていなかった。こんなしょうもないことで鋭いニンジャ嗅覚に助けらるとは……。せめてもう片方の面は他に余計なことをせずに見守って、こんがり狐色に焼き上げよう。

◆◆◆

「おぉ、意外と上出来なンじゃねーか?」

チャを入れつつ、しっかりと見守ったホットサンドの裏面は無事にこんがり狐色に仕上がった。格子状の焼き目のおかげか、なんの飾りっ気もない平皿に盛ってチャブ台に置いただけでも、立派な料理に見えるから不思議だ。

「っし!いただきまーす」

焼きたてのホットサンドを手に取ると、みっちり詰まった具材の重みを感じる。思い切り角にかぶりつくと、カリカリに焼けた食パンの耳がザクッと景気の良い音を立てた。それから溢れ出るチーズと、ほくほくのポテトサラダ。そしてハムのほどよい塩気と旨味。喫茶店なんかで出てきても良さそうな味だ。……確かにこんな美味しいものを朝から食べられる日は、精神的にカチグミと言えるかも知れない。

ゆっくりと味わって食べるつもりが、気付けばあっという間に完食してしまった。……いや、熱々のうちに食べ終わるのがホットサンドへの礼儀だ。そういうことにしておこう。食後のチャも美味いし大満足だ。正直、コンビニ食材だけで、ここまで美味しいものが作れるとは思ってもいなかった。また組み合わせを変えて色々作ってみても楽しいかも知れない。

「でもやっぱ、卵が欲しいよなぁ」

目玉焼きにして一緒に挟んだら絶対に美味いはずだ。次にワザスシでバイトする時に、アキモト=サンに頼んでいくらか分けて貰おう。そんでもってハムエッグとか厚焼き玉子サンドとか、色々試してみたい組み合わせを片っ端から試してやる。

……食べ過ぎない範囲で。

これは多分なんらかの活力となるでしょう。