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立ち飲み日高で無銭飲食しそうになった話

 ある日、立ち飲み日高にちょっと1杯飲みに行ったところ、人生が詰みそうになりました。その日の午後10時ごろ、ツイッターで「コンカフェ関係」というリストを何の気なしに眺めていたら、僕のわりと好きな女の子が午後11時から出勤することを知りました。そしたら、その日は別にコンカフェに行くつもりはなかったのだけど、コンカフェに行きたくて行きたくて仕方なくなってきました。

 そのコンカフェの名前は「ガールズアニソンバーもふる」と言います。ガールズバーも、広義のコンセプトカフェの一つとされています。居ても立っても居られなくなった僕は、急いで若干のおしゃれをしたのち、ついに家を飛び出しました。

 最寄り駅から電車に乗り、大宮駅に着くと、東口から出てセブンイレブンに向かいました。そこで財布のなかのお金を、ほとんどすべてPayPayに入れました。「ガールズアニソンバーもふる」で飲食代を支払う際、PayPayで支払ったほうが幾らかポイントが付いてお得だからです。僕は貧しいので、そのようなわずかなポイントですら出来るだけ手に入れたいのです。

 セブンイレブンを出た僕は、しかしながら、すぐに「もふる」には行きませんでした。なぜなら完全な素面しらふだったからです。僕は、ある程度お酒を飲まないと人と楽しく会話することができないのです。立ち飲み日高の赤い暖簾のれんをくぐって中に入り、入口近くのカウンターに立って何の迷いもなく瓶ビールを注文しました。500mlの瓶ビールは1分もしないうちに僕のもとにやってきました。僕は「ガールズアニソンバーもふる」のわりと好きな女の子の顔を頭に思い浮かべながら、コップにそれをそそぎました。ビールがギリギリまで入ったコップを手に取ったその時、冷たい感覚が頭のてっぺんから足の裏までつらぬきました。

 「しまった! 飲食代を支払えないかもしれない!」と思いました。口元まで持ち上げたコップは、口に付けないでカウンターの上に戻しました。僕はポケットから財布を取り出し、小刻みに震える手でその中身を確認します。お札はさっきPayPayに全て入れてしまったため、1枚もありません。「小銭もほとんどなかったような気がする…」と思いながら財布の小銭入れを開くと、1円玉と5円玉と10円玉しかありません。瓶ビール1本の代金、税込み450円を支払うにはとても足りません。Suicaの残高は130円くらいしかないのを、さっき改札を通ったときに確認していました。酔ったいきおいでお金を使い過ぎないように、クレジットカードも、キャッシュカードも財布には入れていませんでした。

 「詰んだ!」と思って絶望しました。立ち飲み日高ではPayPayが使えないのです(当時はそうでした。今は使えます)。僕は心臓がひじょうに速いスピードで脈打つのを感じながら、ポケットからスマートフォンを取り出しました。友達に連絡して助けに来てもらおうと考えたのです。しかし今は午後10時30分を過ぎており、立ち飲み日高の閉店時間は午後11時00分(当時はそうだった)。「今から友達に助けを求めてもまず間に合わないだろう。やっぱり詰んだ!」と再度、こんどはさらに深く絶望しました。

 僕は、ラストオーダーを聞きにきた店員さんに、念のため「あのう、PayPayって使えますか?」と尋ねました。もしかしたら、最近になってPayPayに対応し始めたかもしれないからです。しかしそのわずかな希望は「すみません、使えないんですよ」という丁寧な言葉によって見事に打ち砕かれました。「今度こそ詰んだ!」と三たび絶望しました。「無銭飲食で警察に通報されたのち逮捕され、僕の人生は社会的に終わってしまうのだ」と思いました。

 僕は現金も、クレジットカードも、キャッシュカードも持っておらず、Suicaの残高もないことを彼に告げました。すると、どうやら店長らしいそのお兄さんは「そうなんですか…。少々お待ちください」と言ってどこかへ行ってから戻ってきて、にこやかに「そのままお帰りになって大丈夫ですよ」と言いました。僕はその言葉の意味がすぐには理解できず、カウンターに両手を載せながら立ち尽くしていました。店長さんが再び近くに来たときに、「あのう僕、帰っちゃってもいいんですか?」と尋ねました。店長さんは「ええ、大丈夫ですよ」と笑顔で答えます。

 「マジかよ! そんなことある? もう瓶ビールを注文してコップにそそいじゃったのに? まだ口つけてないとは言え、瓶ビールが丸々1本無駄になってるじゃん! 本当に帰っていいの?」と驚きました。僕は「あの、ビールまだひと口も飲んでませんので!」と言い訳がましく告げ、「すみませんでした! また飲みに来ます!」と言い、何度も大きく頭を下げて店を出ました。おでこには大量の冷や汗をかいており、商店街の夜風が僕の体温をさましていきました。僕はふらふらと歩きながらケツポケットからハンカチを取り出し、おでこの汗をふきます。何度も何度も汗をぬぐってから「ガールズアニソンバーもふる」に入店し、やっとビールを飲むことができ、人心地ひとごこちがつきました。

ガールズアニソンバーもふるでホッと一息つきました

 それから数日後、僕はまた立ち飲み日高に行きました。ふだんは頼まないお高いおつまみをいくつも頼み、たくさん瓶ビールを飲みました。PayPayにお金を入れるだけでなく、ちゃんと現金も財布のなかに入れた状態で。

立ち飲み日高でいっぱい飲み食いしました

 【後記】あとで気づいたんですけど、この記事と全く同じネタで半年前にも同じような記事を書いていました。すっかり忘れていた。たった半年前のことを完全に忘れちゃうなんて、僕の脳は大丈夫なのだろうか…。

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