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8/10前官房副長官・杉田和博氏が盟友・葛西敬之氏の素顔を語った

「葛西さんの遺影を前に、安倍さんは…」前官房副長官・杉田和博氏が盟友・葛西敬之氏の素顔を語った
8/10(水) 6:12配信

今年5月25日に間質性肺炎で死去したJR東海名誉会長の葛西敬之氏(享年81)。

 前官房副長官の杉田和博氏が「文藝春秋」のインタビューに応じ、30年来の盟友だった葛西氏の功績と知られざる人柄について明かした。

「最初の出会いは1993年のことでした。当時、私は神奈川県警本部長の職にあり、そこにJR東海の副社長だった葛西さんがお見えになりました。もちろん、それ以前から葛西さんの名前は知っていました。1987年に、中曽根政権のもとで実施された国鉄分割民営化の際、40代の若さで42万人を抱える巨大企業の前途を切り拓いた」

「そのとき印象的だったのは、葛西さんが『自分たちは、現実から目を背けることなく組合に対処してきた』とその経験を熱く語られたことでした。JR各社では、動労(国鉄動力車労働組合)、更には国労(国鉄労働組合)といった旧国鉄の労組の影響が経営面でも依然として残っていました。JR東海ではその影響を断固排除しようと葛西さんが先頭に立っていた。そのため卑劣な攻撃に晒されることもありましたが、わが身を挺して戦っていました。私自身も国鉄の頃から労働組合の問題はずっと注視してきましたし、問題意識も持っていましたので、葛西さんからの組合問題の相談に乗ったこともありました」

 葛西氏は、財界人の集まりである「四季の会」の中心メンバーとして、安倍晋三元首相を一貫して支援してきたことでも知られている。杉田氏は長きにわたる2人の交流を間近で見てきた数少ない人物だ。

「JR東海名誉会長の葛西敬之さんの葬儀には、安倍晋三元首相も参列されていました。遺影を前にして弔辞に立った安倍さんはこう語りかけました。

『葛西さんに病床で「日本の将来を頼みます」と仰っていただいた。その最後の言葉を胸に、国政に全力で邁進します』

 死を覚悟された葛西さんは、安倍さんに日本の将来を託された。その厚い信頼に対する安倍さんの言葉を受け、感動は増上寺の斎場に伝わりました。つい六月半ばのことです。それからわずか1カ月足らずで、その安倍さんが凶弾に倒れられた。安倍さんの葬儀で再び増上寺に向かう道すがら、あまりの運命の苛酷さに言葉を失いました。今もまったく心の整理がついてないのが正直なところです」

「葛西さんは、入院してから家族以外の面会は謝絶していたのに、唯一、安倍さんのお見舞いだけは3回も受けたのです。葛西さんと安倍さんの繋がりというと『四季の会』が有名ですが、葛西さんはそれ以前から『高瀬会』という会合にも関わっていた。もとは葛西さんと、東大で同級生だった与謝野馨さんの2人が作った会です。霞が関の官僚や民間企業の有望株を集め、天王洲の高架下にあった高瀬というお店で開催していた。それで高瀬会。いつも10人以上は来ていたと思います。元郵政大臣の野田聖子さんや元文科大臣の遠山敦子さんなども参加していた。一方で安倍さんにはその後、葛西さんが中心となってつくった『四季の会』がバックボーンとなった面があったと思います」

「葛西さんは安倍さんを政治家としてだけでなく1人の人間として支えていたように思います。第一次政権を志半ばで退陣し、安倍さんが最も辛かったときも、葛西さんは一生懸命励まして再起を促していました。だから安倍さんも非常に恩義を感じていたはずです」

亡くなる2日前、葛西氏と杉田氏の“最後の会話”
 5年ほど前から間質性肺炎を患った葛西氏は覚悟を固め、身辺整理を進めていたという。亡くなる2日前、杉田氏は最後の会話も交わしている。

「『無駄な延命治療はしない』という明確なお考えをお持ちで、友人だった医師の死に強く影響を受けていたようです。葛西さんによれば、消化器外科が専門だったその友人は、自分自身に末期の大腸ガンが見つかった時、自分の死期を明確に悟った。そこで元気なうちに社会的な整理を済ませ、入院してからは家族以外には誰とも会わず自然に任せて眠るように亡くなったということでした。葛西さんの言葉を借りれば『生を制御』して、自ら人生の幕を閉じたと。ずっとその医師のことが念頭にあったようです」

「亡くなる少し前に、私は葛西さんと電話でお話ししました。元気な時に比べると声も弱々しくなり、言葉を継ぐのが苦しくなっていた。だから、いつものように国の情勢についてとか、そんな難しい話はしません。私の方から『長くならないようにしましょう』『お声が聞けただけで充分ですから』と伝えました」

「文藝春秋」9月号(8月10日発売)掲載の「わが友・葛西敬之氏を偲ぶ」では、リニア開発に力を注ぎ、日米関係を重視した葛西氏の経営者としての功績や、2人で謡曲教室に通い、カラオケで熱唱するなどプライべートでの交流についても明かしている。

「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2022年9月号


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